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その背中
―― 6年前
甘い花の匂いが、巣の外に満ちていた。
「む、むずい……」
ぶすっとした顔で、
ヴェスピナ(12歳)が蜂蜜壺と格闘している。
手元が、どうにもぎこちない。
蜜の扱いが――明らかに下手だった。
少し離れた場所で、
ネクトリア(6歳)が心配そうに見ている。
「……おねえちゃん」
「ん?」
「……てつだおっか?」
ヴェスピナは一瞬だけ黙り――
ぷい、と顔を背けた。
「……別に」
だが次の瞬間。
壺が傾き、
べちゃ。
「…………」
「…………」
沈黙。
ネクトリアが、そっと近づく。
「……いっしょに、やろ?」
小さな手。
差し出される。
ヴェスピナの眉が、わずかに動いた。
「……チビのくせに」
ぼそり。
だが。
その手を――
振り払わなかった。
その直後だった。
草が、ざわりと揺れたのは。
「――伏せろ!!」
ヴェスピナの声が弾ける。
振り向いた瞬間。
巨大なオオカマキリが、
鎌を振り上げていた。
ネクトリアの思考が、止まる。
(……こわ……)
次の瞬間。
――ギィン!!
火花。
衝撃。
視界いっぱいに広がる――
ヴェスピナの背中。
「……下がってろ、ネクトリア」
低い声。
いつもより、ずっと低い姉の声。




