初陣
アピスは、静かに戦場を見渡していた。
琥珀の瞳が、二つの戦線を同時に追う。
(ネクトリア……)
白銀の軌跡。
(ヴェスピナ……)
黒金の暴風。
扇の陰で、彼女はほんのわずかに息を吐いた。
(……本当に)
口元が、わずかに緩む。
(放っておけない妹たちですわ)
――その瞬間。
戦場の空気が、ぬるりと歪んだ。
アピスの瞳が、細くなる。
(……あれはーー!)
だが――
その警告より、半拍早く。
ネクトリアが踏み込んでいた。
「……はぁっ!」
白銀の突きが、敵の隊列中央へ深く入り込む。
一体、
二体、
三体。
順調に崩していく――
その時。
――ガシュッ!!
「……え?」
足元。
剛性の糸。
地面に張り巡らされていた、透明な捕縛線。
ネクトリアの動きが、一瞬だけ止まった。
その一瞬。
複眼が、ぎらりと光る。
「捕捉完了…」
左右の草陰から、
大型のオオカマキリ兵が同時に跳んだ。
鎌が、振り下ろされる。
(……しま――)
ネクトリアの瞳が、見開かれた。
その瞬間。
――ドンッ!!!
横合いから、爆音。
視界が、漆黒に染まった。
「――触んな」
低い声。
次の瞬間。
二体のオオカマキリ兵の上半身が、まとめて吹き飛んだ。
血飛沫の向こう。
立っていたのは――
ヴェスピナ。
肩で息をしながら、
妹の前に、完全に割り込んでいる。
「……ったく」
首を軽く鳴らし――
その口元が、にやりと吊り上がる。
「目ぇ離すとすぐこれだな、お前」
その声音は、呆れ。
――けれど。
隠しきれないほど、嬉しそうだった。
ネクトリアの呼吸が、止まった。
その背中。
その立ち方。
――知っている。
ずっと昔。
もっと、小さかった頃。
胸の奥で、
記憶が――ふっと浮かび上がる。




