王族
静かだが、きっぱりとした声だった。
ネクトリアの肩が、びくりと揺れる。
アピスは妹の頭を抱き寄せ、
そのまま王妃の方へ、ゆっくりと視線を落とした。
月光の下。
王妃の表情は――穏やかだった。
「お母様は……」
一瞬だけ、
アピスの睫毛が、わずかに震えた。
だが次の瞬間には、
いつもの気高い声音に戻っていた。
「…何に変えても…あなたを守ると、最初から決めておいででした」
ネクトリアの呼吸が、詰まる。
「でも……わたし……!」
「聞きなさい、ネクトリア」
少しだけ強い声。
泣きじゃくる妹の頬を、
アピスはそっと両手で包んだ。
琥珀色の瞳が、真正面から射抜く。
「王族とは――」
一拍。
「守られて、生き延びる者のことです」
ネクトリアの瞳が、大きく揺れた。
「守れなかった、と嘆くのは……」
アピスは一瞬だけ言葉を切り、
王妃の亡骸へ、静かに目を伏せる。
その声は、先ほどよりも、ほんの少しだけ低かった。
「――まだ、早いですわ」
ネクトリアの呼吸が、浅く震える。
涙で滲む視界の中、
アピスの瞳だけが、異様なほど静かだった。
「あなたが背負うのは――これからです」
やさしく。
だが、逃げ場のない宣告。
ネクトリアの指が、ぎゅっと震える。
その時――
「……ネクト...リア」
低い声。
振り向けば、
ヴェスピナが、すぐ後ろに立っていた。
いつもの軽口はない。
拳を握りしめたまま、
ほんの一瞬だけ、言葉を探すように黙り――
それから、ぽん、と。
不器用に。
ネクトリアの頭に手を乗せた。
「……ちゃんと、生きてるじゃん」
ぶっきらぼうな声。
けれど――
その手は、
いつもより、ずっと優しかった。
ネクトリアの喉が、ひくりと鳴る。
涙が、また一粒こぼれた。
けれど今度は――
さっきまでの涙とは、
ほんの少しだけ、熱が違っていた。




