表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/24

6.勇者召喚は誘拐と同じなんですよ

 ゾーイとエーミールは夜会にて他国の外交官に囲まれている。次の国王と王妃に最も近いふたりだ。できれば顔を覚えてもらいたい。あわよくば自国に訪れてもらいたい。そんな思惑がムンムンしている。


「まあ、勇者召喚ですか」

「ええ、魔王や狂暴な魔物が出た場合は、勇者を召喚しているのですよ」


 外交官の言葉に、ゾーイは目を丸くする。


「勇者はどこから来るのですか?」

「様々ですが、地球という国の日本という地域からが多いですね」

「まああ」


 同胞が、ピザでも頼むかのように軽いノリで召喚されていると知り、ゾーイは愕然とした。


「あの、召喚というと、なんだか聞こえがいいですけれど。実質は誘拐ですわよね」


 外交官はサッと目を自分の手にある飲み物に集中する。そこは深く追求しないでいただきたい、そんな雰囲気がありありと出ている。


「自国の地元の冒険者や、国の騎士団でなんとかできないのでしょうか?」


 ゾーイは追及の手を緩めない。おっとりと微笑みながら、じっと外交官の目をとらえる。


「もちろんもちろん。自力でなんとかしようと努めております。ですがですね、召喚すると神のご加護がもらえるらしく、強大な魔力を持つのですよ、勇者は。はい」


「それにです。かの国では、勇者召喚が流行しているらしいです。召喚すると、よっしゃーと雄たけびをあげる勇者もいるぐらいでして」


「そうそう。たいてい前向きでやる気に満ちあふれています。ただねえ、日本の方はいいのですが。他の地域の方は、なかなか」


 外交官たちが顔を見合わせて、半笑いになる。


「前回は、我が国ではラテーンという地域の勇者を引き当てたのですがね」

「ああー」


 そこで外交官たちが頭に手を当てる。


「ラテーンの方は、とても自由ですね。驚きました。まず、説明をまったく聞いてくれないですね。そして、いざ討伐に出たとして、即座に消えてしまうのです。必死で追いかけますと、街で女性に声をかけていたり」

「娼館でお楽しみ中のラテーンの勇者もいました」


「パーティー仲間が必死に連れ出すとですね。なんだよつまんねえな、じゃあ、君とつきあうか。なんて言って、パーティー仲間を押し倒したり」

「とにかく、四六時中、女性を褒めたたえるか口説いてますね。魔物と対峙しているときでもおかまいなし。ねえ、このヘビ倒したら、デートしようね。ご褒美ね。といった感じです」


 外交官たちが困り果てた顔をしている。


「我が国では、ドイチュラーンの勇者を召喚したのですが」

「おお、聞いたことがあります。非常に有能で体格もいいとか」

「そうなんですがね。参りました。契約書を締結するまでは、絶対に動かないんですよ」

「勇者と契約書を交わすのですか?」


 ゾーイは、それは新しいな、興味深いと身を乗り出す。


「我々も驚きました。ドイチュラーンでは、何事も文章にしないと進まないそうです。しかも、本当に、もうっ細かくてですね」


 トホホと言った様子で外交官が涙目になる。


「勤務時間は週四十時間。週末は完全にお休み。有給休暇は年に三十日。残業したらその分を有給休暇に上乗せ。給与交渉も厳しく、我々たじたじでございましたです、はい」


「まあ、しっかりしていらっしゃるのね。とてもいいことのように思いますけれど」


 ゾーイは微笑む。地球人がガッツリ交渉しているのは、いいことではないか。


「そうです、その通りです。ただねえ、ドイチュラーンの方はふるさとのパンに並々ならぬ思い入れがあるらしく。こんなパンじゃ戦えねえってダダをこねられるんですね」


「なるほど、だから貴国は様々なパンがあるのですね。茶色くて酸っぱいパンとか、木の実がいっぱい入ったパンとか」


「ええ、途中から討伐が止まりましてね。パン職人を集めて、勇者を囲んで試食会ですよ。こんんなんじゃねえってテーブルをひっくり返されましてねえ。職人たちも意地がありますから。最終的には勇者の口に合うパンができましたが。いやあ、あれは大変でしたな」


 ははは、外交官は乾いた笑いを漏らし、遠い目をした。


「キーナーの地域の方は、日本の方と似ているのですが。彼らも食は絶対妥協しないのですよ。大量の小麦粉を運びましてね。毎食、小麦粉から麺を作ったりね。小麦粉から薄い丸い生地を作って、その中に肉や野菜を入れて茹でたりね」


「おいしそうですわね」


「おいしいらしいですよ。調味料もたっぷり持って行き、本格的な料理を作ってくれるのですよ。キーナーの勇者は皆さん、料理が上手で手際がいい。パーティー仲間が絶賛しておりました」


「髪が黒くて、顔が平たい種族の方たちは、たいてい真面目で働き者ですね」


 ほほう、アジア人が褒められているっぽい。ゾーイは嬉しくなる。


「フィリペーンの方は、歌がうまい」

「ターイラーンの方は、ずっとニコニコしてる」

「ビーテナーメンの方は、怒ると怖い」


 み、みんなよく見てるな。ゾーイはドキドキする。


「色んな地域から勇者が来ましたが。結局、日本が一番です」

「日本の勇者すごいです」

「文句言わないし、静か」


「多くを求めないし、理解力が高い」

「多少無茶な要求をしても、黙ってやってくれる」

「日本、最高ー」


 これほど嬉しくない、日本最高がいまだかつてあっただろうか。いや、ない。


 ブワッ、ゾーイの感情が揺れた。行きたかった大学にやっと受かって、気づいたら断罪の場にいたこと。もう会えないじいちゃんとアキちゃんのこと。帰りたいけど、こっちの家族やエーミルとも離れがたいこと。心と体が引き裂かれるような。こっちにいると覚悟を決めた、罪悪感もあったり。夢見ていた未来が、ぺシャンと巨大な手に押しつぶされた虚無感。


 ゾーイは舌を噛んで上を向く。こうすると涙が止まるのだ。エーミールがさりげなくゾーイの顔を人の目から隠してくれる。ゾーイは何度も瞬きして、涙を蒸発させる。消えなかった涙は、エーミールがこっそり拭いてくれた。


 ゾーイは何度も深呼吸を繰り返す。笑顔笑顔。あの弥勒菩薩のごとき半笑いだ。ギリギリギリ、ゾーイは無理矢理口角を上げる。エーミールが心配そうにゾーイの手を握ってくれた。ゾーイは落ち着いた口調で提案する。


「おもてなしの、基準を決めませんか」


 外交官が怪訝な顔をしてゾーイの言葉を待つ。


「基本給と成果報酬。労働時間。勇者パーティーの人員選定基準。討伐上限年数。病気やケガのときの保障。討伐終了後の生活保障。装備や旅の支援」


 外交官がソワソワしているので、ゾーイは満面の笑みでダメ押しをする。


「国の一大事を異国の方に押し付けるのですもの。これぐらいは最低限でしょう。国賓としてもてなすべきではありませんか」


「そうだね。もし我が国の民が勇者召喚されたら、それぐらいの待遇は受けてほしいな」


 エーミールがゾーイを後押しする。


「私、何かの文献で読みましたの。日本の方は我慢強く文句を言わない。胸の内に不満をため込む。そして、ある日、ドカーンと火山のように噴火するそうです。勇者の力は強大ですもの。国のひとつやふたつ、滅ぼすのは簡単でしょうね」


 外交官がやっと真剣な目になった。ゾーイはニッコリ微笑みながらたたみかける。


「皆様と一緒に、基準を決めましょうね。僭越ながら、我が国の代表は私がさせていただきます」


 ゾーイは強引に外交官と打ち合わせの日程を決める。


「きちんと決まるまで、勇者召喚は見合わせましょうね。ね」


 グレンツェール王国の次期王妃はたいそう慈悲深いお方だ。そんな評判が各国に広まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ