表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/24

4.追放する前に、考えようよ

 ドナ院長の手腕により、こじらせた令嬢たちは更生し、修道院を卒業し、新たな人生に羽ばたいていくようになったわけだが。


「濡れ衣で追放されている令嬢もいるわけでしょう。追放自体を止められればいいのに」


 ざまぁ装置としての追放。物語として読むには、溜飲が下がっていいかもしれないけれど。実際にやられかけた身としては、とんでもないことだ。同じ思いをする令嬢がいるなら、助けてあげたい。というより、濡れ衣の追放を阻止したい。ゾーイは考え込む。


「新しい女が出来たから捨てられる、のはまあ致し方ないけれど。追放されるいわれはないのよ。婚約解消すればいいだけよね。悪役令嬢とヒロインの戦いは、政争だと考えれば、負けた方が追放となるのも分からないけれどもないけど」


 もうちょっと穏便に済ませられればいいのにな。


「他にどんなパターンがあったかしら」

ゾーイは記憶を掘り返す。


「聖女追放だと、元の聖女が実力を見比べて、見掛け倒しの新聖女とすげ変えられるのよね。勇者パーティーから追放されるのも、それよね」


 どうして、そんなに見下されるのかしら。能ある鷹は爪を隠す、をしすぎたのかしら。


「謙遜しすぎずに、きちんと自分の実力を都度、開示していれば、見くびられることもない気がするわね」


 誰にも言わず、縁の下の力持ちでやっていて、ってのがいまいち共感しにくいような。


「言えばいいじゃないの、と思うのだけど。言えない何かがあるのかしら。でも、バイトの面接だって受験だって、自分の力はこれぐらいです、どうか受け入れてください、ってするじゃない」


 専門の仕事で、きちんと自分の能力を示さないのは、うかつすぎないだろうか。性善説にのっとりすぎてやしないか。真面目に働いていれば、誰かが見てくれるって信じるのは、ねえ。


「顔がかわいければね、みんな見てくれるでしょうけどね」


 身も蓋もないけど、実際そうだと思う。進学校のカースト上位は、顔ではなく、頭だ。偏差値である程度カーストが決まっていた。でも、顔がよければ偏差値がそこそこでも、カースト上位にいることはできる。最強は、頭と顔がいい子。そういう選ばれし生徒は、教師からも生徒からも、常に注目される。


「貴族社会と進学校って似ているかもしれない。身分が高くて、顔がよければ、勝ちよね。上位にいる人は、見くびられないように価値を示し続ける。成り上がりを目指す身分が低い人は、もっとできると見せる」


 今の立場を維持したい側と、下克上を狙いたい側の戦いではないか。殺伐としている。


「安易な追放と、追放された側が実は有能で国が傾く。これはお互い不幸だから、せめてここはなんとかしましょう」


 一気に全てを解決するのは難しい。一つひとつ順番に、だ。早速エーミールに相談してみると、あっさりと、いいねと言われた。


「ゾーイ、兄上のときは本当にごめんね。傷ついたよね。犠牲者を未然に防ごうとするゾーイの優しさは、皆に伝わるよ」

「いえ、あの。それほど高尚な思いがあるわけでもないのですが」


 モゴモゴするゾーイの手を、エーミールが優しく握る。


「ゾーイのそういうところ、好きだ」


 ひーあー。恋愛経験値が低い初心者ゾーイにとって、エーミールの直球は平然とは受け止められない。マゴマゴする。ワタワタしているうちに、どんどん話が決まっていった。


***


 そうした、ゾーイによる冒険者たちの働き方改革は、さっそく効果を発揮しはじめた。

 グレンツェール王国のとあるギルドがざわついている。有名な漆黒のカラスパーティーがもめているのだ。


「みんなも、この冊子読んだよね。ドナ院長のめん棒日記。報酬はパーティーメンバー全員で平等に分けるべきだって。俺、後衛だけど、みんなの魔力量見ながら、回復魔法かけてんだよ。俺だってちゃんと報酬もらう権利があると思う」


「命張ってるのは前衛なんだから、前衛が多めにもらうのは当然じゃねえか」 


 パンパンパンッ、後ろの方から手を叩く音が聞こえた。


「素晴らしい。こういう開かれた議論ができることが、まず第一歩と言われている。さあ、別室で、メンバ全員でじっくり腹を割って話し合おうではないか。俺も参考までに同席させてもらう」

「ギルドマスター」

 

 もめていたふたりは、ギルドマスターを振り返り、周囲の目に気づいて、お互い一歩離れる。

 他のパーティーが興味津々に見守る中、漆黒のカラスパーティーメンバーは、別室にゾロゾロ入っていく。

 ギルドマスターが座った五人を見渡して口を開く。


「漆黒のカラスは、前衛ふたりが三割ずつ、後衛三名が一割ずつ報酬を分け、残りの一割で食料などを買うんだったな」

「ごく一般的な分け方ですよ。俺たちが命張ってんだから、多めにもらうのは当然です」

「武器や防具代だってバカにならないんすから」


 前衛ふたりが息巻くのを、後衛三人はドンヨリした目で眺める。


「前衛ふたりが一番危ない目に合ってるのは分かってます。だからと言って、俺たちを奴隷扱いするのは納得できないっていうか」

「雑用は一切手伝わないもんね。私なんて、女ってだけで食事の準備全部任されちゃってさ」

「前衛ふたりの食べる分が、俺たち後衛三人より多い。それなのに食費は均等割りってのが納得いかない」


 三人はボソボソとつぶやく。盾役の男が、ダンッと拳で机を叩いた。


「こまけえこといいやがって。だったら、出ていけよ。後衛なんていくらでも代わりがいるんだからよ」

「分かった。出ていく。私たち他の前衛と組むわ。じゃね」


 後衛三人は出ていく。前衛ふたりはギリギリと歯を食いしばり、ギルドマスターは腕組みをして考えている。


 似たようなことが、色んなパーティーで発生した。メンバー交代があちこちで見られ、ギルドは混沌としている。ギルド職員は青ざめたが、ギルドマスターは動じない。


「こういうことが起こると予想されていた。ひとまず静観しよう」


 ギルドマスターの言う通り、しばらくすると、元のメンバー同士でやり直すパーティーが散見されるように。漆黒のカラスもそのひとつだ。ギルドマスターは、五人を改めて会議室に招き入れる。


「さあ、何があったか話してくれないか」

「そうっすね。他の後衛と組んで、なんかしっくりこないっつーか。長年一緒に戦ってきた仲間って、連携が取りやすいって分かったっつーか」


「やっぱり俺らが食べすぎってのとか、雑用しないってのは指摘されて。そこは俺たちが直さなきゃいけないとこだなって気づいて。」


 前衛ふたりが頭をボリボリかくと、後衛三人がブンブンと首を振った。


「いや、あの、俺たちもよーく分かったんです」

「前衛は、食べるのが仕事なんだって。食べなきゃ筋肉が保てないし。魔物に向かっていくときの気力も、結局どれだけちゃんと食べたかで決まるって」


「分けた報酬のほとんどが食費に消えてるって、他のパーティーの前衛から聞いて。そんなの知らなくて」


 五人は顔を見合わせて、照れ笑いをもらす。


「よかったよかった。雨降って地固まるとは、まさにこのことだ。報酬の分け方、仕事の分担なんかは、他のパーティーからも意見を募るから。そういうのを参考にしながら、話し合って決めればいいんじゃないか」


 ギルドマスターがまとめると、五人は真面目な顔で頷いた。


「ギルドマスターとしてはだな。メンバーが怪我なく、元気で長生きしてくれることが一番だから。問題があったら腹割って話し合って、改善していったらいいんじゃないかと思う」


 様々な不和を乗り越え、少しずつ色んなパーティーが結束を固めていった。

 

***


 ゾーイは王宮の一室でとある令嬢と対面している。


「突然お呼びだてして、ごめんなさいね。直接お話ししたかったの」


 令嬢は、ぎこちない笑顔を浮かべ、体をこわばらせたままだ。ゾーイは、なるべく優しく見えるよう、注意深く口角を上げる。悪役令嬢顔のゾーイ、真顔だと怖がられてしまいがちなのだ。


「追放が言い渡されたと聞きました。失礼ながらこちらで調べたところ、追放が妥当と思えるほどの罪が、見当たりませんでした」


 令嬢は小刻みに震えながら、下を向いている。


「仲裁に入ることも可能です。ぜひ、お話しいただけないかしら。ほら、私も断罪されてギリギリの瀬戸際でしたでしょう。ひとごととは思えませんのよ」


 令嬢は顔を上げてゾーイを見つめる。涙がこぼれそうで、ゾーイは思わずハンカチを渡した。令嬢はハンカチを握りしめ、瞬きもせずゾーイをヒタと見たまま口を開く。


「も、申し訳ございません。ご心配をおかけして。実は、私、冒険者になりたいんです」

「まあ」


 ゾーイは言葉が続かない。


「父も、もちろん家族も承知の上なのです。私、子どもの頃から体を動かすことが好きで。何ものにも束縛されない冒険者に憧れていて。でも、貴族が冒険者なんて無理じゃないですか」

「そうですわね」


「ですが、ゾーイ様のおかげで、私の夢が叶いそうとなったら、どうしても諦めきれなくて」

「私のおかげ、ですか」


「ドナ院長の修道院です。あまたの冒険者を修道院から排出されているという、すご腕の院長。あの修道院に行けば、私の夢に近づけるのではと」

「ああー」


 それは、想定していなかったー。まさか、ドナーズブートキャンプができるなんてー。頭を抱えているゾーイを一心に見ながら、令嬢は頭を下げる。


「こんな大騒ぎになるとは、私の見通しが甘かったです。申し訳ございません。実は、妹が私の婚約者と両想いでして。私は結婚より断然、冒険者がよく。私が追放されて、妹と婚約者が家を継いでくれれば、それが一番だなと思ってしまった次第でございます」


「何も追放されなくても。体験入学などもできますよ」

「退路を断って行きたいのです。かっこいいから」

「いやいやいや。そんな潔さ、必要ありませんから」


 ゾーイが必死で説得し、ドナーズブートキャンプ体験談を書くサクラというテイにして、令嬢は体験入学をすることになった。


「いつでも王都に戻れるように、手はずは整えておきますので」

「私、帰りませーん」


 意気揚々と旅立った令嬢は、本当に帰ってこなかった。水を得た魚。冒険者にめん棒。


 それは楽しそうな、体験記が王都でひそやかに広がっていった。夏休みの体験入学など、後に続く令嬢が後を絶たなかったとか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ