【特典SS】サバー姫の優雅な一日
巨大な水槽の中で、サバー姫はゆったりのったり、たゆたんでいる。
「ああ、のどか。海の底の魔女に頼んで、人間の足を手に入れようと思ったけれど。条件があまりにも足元を見ているから、やめたのよね。足はないけれど、足元。フフフ」
サバー姫がぷかりぷかりと独り言をつぶやくたびに、小さな泡がぷわぷわと浮き上がった。
「人間の王子の愛を得られなければ、泡になるだなんて。あんまりだわ。陸での生活にすこーしだけ憧れていただけだもの」
サバー姫は初めて陸に上がったときを思い出し、ブルブルッとのたうった。
「ダメよ、ダメダメ。思い出してはダメ。危うく日干しになりかけた、あの恐ろしい日」
うっかり浅瀬で朝焼けを見ていたら、人間の漁師につかまったのだ。
「きこえますか、きこえますか、そこな漁師よ。今、あなたの心に直接呼びかけています。わらわは普通の魚ではありません。食べてはなりません。って語りかけたのよね」
そしたら、ギャーッて叫んで漁師は逃げてしまいましたとさ。陸でびっちびっちし、朝日にジリジリ照らされて、乾き始めたサバー姫。あ、マズイかもってときに、ちょっと目端が利く漁師に助けられ、奴隷商人に高値で売っぱらわれたのだ。
「あわや日干しの危機から、芸ができねーと焼いて食っちまうぞ、の絶体絶命の崖っぷち。そこを助けてくださったのがゾーイ様。王子の愛ではなく、美しくて聡明な王子妃ゾーイ様の温かな愛を得たわ。ああ、幸せ」
故郷の海にお戻ししましょうかと聞かれたけれど、サバー姫はもう少しここで人間観察を続けようと思っている。
「だって、水槽で泳いでいるだけで、キラキラした扇子を振ってもらえるのだもの」
ここの人間ってなんてチョロい、もとい心が広いのかしら。サバー姫は、日干しと焼きサバになりかけだった恐怖を、ほぼほぼ忘れられている。
サバー姫は、今の心境を表すピッタリな句を思いつき、バッシャンと水をはねた。
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