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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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24/24

24.神様業も楽じゃない<完>

 転移させた人には気軽に接触するけれど、転生した人には距離を置いてしまいがちな神とは、私のことです。え、なぜなのかって。やっぱり、肉体ごと地球からもらった転移の人たちは、なんとなく借りものって感じがするからでしょうか。その点、転生の人たちは、魂だけがこっちにヒュッて来ちゃった感じですからね。肉体はこちらの人なわけで、身内みたいな。


 転移はお客様なのでオモテナシの意味合いも込めて接触、転生は身内なので基本放置、的な。今、転生転移の神である私が注目しているのはふたり。エルフのマキシムと人間のゾーイ。ふたりとも、精力的に世の中を変えようとしている。


 とても有能なふたりの転生者。両方、魔道具の開発に熱心で、使用人の有用性に気づき活用している。実に興味深い。ついうっかり、願いを叶えてしまったりしがちだ。注意しないと。


***


 エルフのマキシムは転生者。元々は日本でベンチャー企業の社長をやっていた。優秀な人材をなるべく安くかきあつめ、やりがい搾取で利益をがっぽり。そういう方針。


「心酔させ、限界まで能力を吐き出させ、たまにドーンと報酬をやる。全員に特大ボーナスを渡す必要はない。目立つ誰かに大盤振る舞いすれば、残りの社員は奮起するからな。平均すると安くなる」


 日本で一番いい大学を卒業し、アメリカの名門大学で学び、金融業界に勤めて人脈を築いてから、インターネット系の会社を立ち上げた。会社経営はゲームみたいなものだった。法律のギリギリを攻めながら、先手必勝。スモールスタートしたいくつもの事業を、芽が出たら高値で売ってしまう。おもしろいように儲かった。


 新入社員で一番かわいい女子を愛人にし、一年たったら次の新入社員に交換。手切れ金ははずむので、恨まれることもない。一年の愛人生活で、すっかりスレてしまった女は、さっさと次の金持ちにいく。


 ちょっとした好奇心で、ウブな田舎娘に手を出したのがよくなかった。一年後にビジネスライクに別れを切り出したら、闇落ちした女に刺された。


「異世界で新しいビジネスを立ち上げたから、結果オーライだが」


 生ぬるい法律しかない異世界。規制なんてない。やりたい放題だ。長寿のエルフに転生できたのもついている。規制にがんじがらめで、面倒だった前世ではできなかったことが、いくらでもできる。


「エルフというのが、自然に優しい高潔な種族と思われているのも、実に都合がいい」


 マキシムは人格者の仮面をかぶっている。そんなことは苦も無くできる。前世では、生き馬の目を抜くようなネット業界をわたってきたのだ。お偉方やマスコミを操縦し、好き勝手に炎上する愚民どもと遊んできた。異世界のやつらなど、赤ん坊みたいなものだ。寿命が長いので、部下をじっくり育てることができる。


 ビジョンを共有し、ゴールを設定する。前世でやっていたことを異世界に持ち込めば、おもしろいほど、うまくいく。前世で定番のビジネス理論も、ここでは初めての概念。尊敬され、崇拝され、忠誠を誓われる。純朴な異世界人は、操るのも簡単だ。


 適性に応じて仕事を与える。悩んでいる部下にはワンオンワンミーティングで、悩みを聞いてやる。鉄壁の組織の出来上がりだ。 


 マキシムは孤児を積極的に集めている。小さい頃から洗脳すれば、マキシムの意のままに動かせる部下が簡単に作れるからだ。子どもの頃から育て、お父さまと呼ばせている。大家族の長として君臨し、従順な部下を各国に派遣している。


「お父さま、魅了の魔石の有用性をお披露目してまいります」

「頼むぞ。渡す相手はピンクの髪をした孤児だ。男爵家に養子縁組できるよう段取りはつけている。彼女を支えてやってくれ」


 魔道具を作り、広告塔に使わせ、ガッツリ売りさばくのだ。


「男爵家には使用人たちが入り込んでいる。連携してうまくやるんだぞ」


 成り上がりの貴族は、優秀な家令や使用人に飢えている。マキシムが鍛え上げたプロの使用人たちは、難なく入り込み、信頼を得て、実権を握る。父であるマキシムのため、高邁なビジョン実現のため、私利私欲に走らない使用人。マキシムの手は各国に着実に伸びているのだ。


 ところが、順風満帆だったマキシムの計画に、ほころびが出始めた。ピンク令嬢に持たせた魅了の魔石。目論見通りに王子を篭絡はできたのだが。そこからがいけなかった。


「王子が廃嫡になるか、王国が傾くか、ピンクが逆ハーレムを築くか。そのどれかになると思っていたが」


 どれも当てが外れた。


「断罪を返り討ちした令嬢、ゾーイか。ひょっとすると」

 その女も転生者かもしれない。


「お手並み拝見だな。少しは手応えのある相手だといいが」


 退屈しのぎにもってこい。マキシムは、己の勝利に一ミリの疑いも持っていない。たかが小娘。日本で社長をし、異世界で高潔なエルフと称えられているマキシムの敵になるはずがあろうか。


 マキシムはまだ見ぬ令嬢ゾーイを鼻で笑った。


***


 ゾーイとエーミールは盤を前に向かい合っている。

 コトリ、ゾーイが歩兵を動かすと、エーミールがうーんとうなる。


「ゾーイ、強くなった気がする」

「本当ですか?」


 ゾーイは首を傾げた。


「僕、ゾーイと兄上が盤上遊戯をするのを眺めているのが好きだったんだ。以前は、ゾーイは女王を多用していたように思う。今は、色んな駒を使うんだね。前は、鬼気迫るものがあったけど、今はなんだか楽しそう」


 ふふ、ゾーイは笑った。


「確かに、そうかもしれません。以前は、王を守るために必死でしたから。一番機動力があって最強の駒は女王ですもの。王を守るために死に物狂いでしたの。でも、今は」


 ゾーイは広い室内を見回す。マメシバのシバタローと、竜人のリリアンが追いかけっこしている。その様子をナタリーがせっせと絵に描き、「売れるわー、これ売れるわー」とつぶやいている。アシュリーとメアリーを始めとした使用人部隊たちは、ベンとアントンが作った魔道具を真剣な目をして試している。王家の影と違って、武闘派ではない淑女たち。魔道具のできが彼女たちの生死を分けるのだ。


「分かったのです。女王には頼もしい仲間がたくさんいる。女王ひとりでキリキリしなくても、みんなで王を、国を、民を守ればいいんだって」


 チェスに似たこのゲーム。クイーンの強さが破格。前世の記憶が戻る前のゾーイは、張りつめていた。王になるグスタフを守るために、最強の王妃にならなくてはと思っていた。だから、クイーンを酷使する戦い方をしていたのだ。でも、前世の記憶を思い出し、視野が広くなり、大好きな人たちに囲まれていると気づいたゾーイ。もう少し肩の力を抜いて戦えるようになった。


「僕はね、この遊技は見るのは好きだけど、するのはそれほど好きではなかったんだ。だって、王の役割が退屈すぎるから。王は守られているだけで、ほとんど動けないし。でも、取られたら負けだしね」


 縦横斜め、好きなだけ進めるクイーン。縦横斜め、ひとマスしか進めないキング。戦力としては弱いが、取り返しのつかない駒。キングを取られると、ゲームオーバー。


 エーミールは王の駒に触れる。


「王は、皆を信じて待つのが仕事なのだなと、分かった。涼しい顔をして、じっと対局を見守るのが仕事。皆がノビノビ動いているのを、楽しむのが仕事。王が泰然としていれば、皆が安心。そういう存在なのだなと。だから、女王が隣に帰ってくるのを、じっと待つよ」


 エーミールはゾーイの手を取って、優しい目でみつめる。


「私は、必ずエーミールの元に戻ってきます。エーミールが大好きですから」


 エーミールはそっとゾーイの額に口づける。


「ゾーイが初めて、僕のことを好きって言ってくれた。嬉しい。僕もゾーイが大好き」

「恥ずかしくて、なかなか言えませんでしたの」


 ゾーイは、すまなさそうに肩をすくめる。


「待つのは得意だから、大丈夫。でも、これからはたくさん言ってほしいな」


 甘い雰囲気を察して、皆がこっそりと部屋を出ようとする。ゾーイとエーミールはそれに気づいて、笑いながら止める。ゾーイは改めて、お礼を言った。


「みんなのおかげで、少しずつ救済が進んでいるわ。本当にありがとう」

「そんな、ゾーイ様のおかげです」


「ううん、そんなことないの。私は案を垂れ流しているだけ。実際に手を動かして、ものを作って、現場で使って、困っている人や獣人を助けているのは、皆さんよ。私ひとりでは、なにもできないわ」

「ゾーイ様」


「これからも、よろしくお願いしますわ」

「もちろんですわ」


 部屋にはほのぼのとした穏やかな空気が流れる。


 ゾーイは、つくづくと幸せを感じた。日本にいる大切な人のことは決して忘れない。いつか、きっと、どうにかして、再会したい。それまでに、こちらの世界をどんどん良くしたい。たくさんの人が幸せになれれば、嬉しいではないか。王太子妃という権力を持っているのだ。その力と、仲間の力を掛け合わせ、幸せを量産したい。だってゾーイは、ハッピーエンドが大好きだから。


お読みいただきありがとうございます。

ポイントいいねブクマを入れていただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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