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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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23.アントンとグスタフ

 ゾーイとエーミールが着々と王国をよりよくしていっているとき、グスタフ第一王子は研究室で調べられまくっていた。


 若いながらも切れのいい頭脳と、歯に衣着せぬ口を持つ調査員アントンが、グスタフの担当だ。白銀の髪にさえざえとした青い瞳を持つアントン。氷の貴公子として、令嬢たちから抜群の人気を誇る。ニコリともしない氷の貴公子は、王子であるグスタフを容赦なく質問攻めにする。


「さあ、今日も言葉攻めをしますからね。殿下がどういった言葉に弱いのか。なぜ魅了されたのか。それをつまびらかにしていきましょう」


 グスタフは椅子に座り、アントンにされるがままに色んな魔道具を体につけられていく。


「脈拍、体温、発汗、動悸、息切れ。これらを計測することによって、殿下の心の中が丸裸になります」


 淡々と、変態のようなことを言うアントン。グスタフは、もうすっかり慣れているので、軽くうなずいている。


「では、始めますよ。エーミール。ゾーイ。ピンク。王位継承権。王太子。国。責任。孤独。自由。失敗。自信。民。引退。他国。戦争。追放。廃嫡。処刑。誘惑」


 グスタフは軽く目をつぶり、アントンの言葉に耳を傾ける。アントンは、各種数値を見ながら、ニンマリと笑う。


「殿下。随分と落ち着いてこられましたね。もうどの言葉にもさほど反応が見られませんよ。これなら、もう少しで調査も終えることができそうです。よかったですね」


 その途端、あらゆる魔道具の数値の針がビューンと動いた。アントンは目を丸くする。


「どうしました、殿下。調査が終わるのがそれほど嬉しいのですか?」


 グスタフはうっすら目を開けると、アントンの皮肉っぽい笑顔を見つめて、ため息を吐いた。


「さあ、どうであろうかな」


 グスタフはそれだけ言って、また目を閉じる。アントンは不思議そうに首を傾げた。


***


 アントンは貧乏子爵の出身だ。爵位も形ばかり継いでいる。双子の兄と父が亡くなったからだ。病気がちの兄がついに亡くなったとき、兄の名前をもらい、兄の性別を騙った。元々は女性でアンナという名前だったのだが。


「研究室で調査員として生きるには、貴族男性の方が簡単だからな」


 中性的な顔で、ほっそりして胸もなく、背が高いアンナ。アントンになるのに、なんら不具合はなかった。王宮の研究室で調査員として働いて何年もたつが、一度も誰にも疑われたことはない。


「女性人気も抜群だしな。嬉しくはないが」


 恋文に、見合いの申し込みなどがひっきりなしにくる。受けるわけにはいかないので、のらりくらりと断っている。そっちのケがあるのだろうと、最近では言われている。その通りだから、否定はしない。男装しているが、恋愛対象は男性。恋愛する気も、結婚する気もないが。


 グスタフ第一王子殿下が、ピンク令嬢にたぶらかされ、宰相の娘を断罪しかけたあと。誰も引き受けたがらなかった、殿下の調査。アントンはすぐに名乗り出た。金が欲しかったし、おもしろそうだったからだ。


 実際、とても興味深い日々だった。初日は、調査にならなかった。グスタフは、呆然と机を見つめ、ひと言も話さない。アントンは、無理もないなと、ただそばにいてグスタフを観察していた。


 魅了の魔石にも興奮した。


「いやらしい、実に絶妙。考えたやつに会いたい」


 悪影響を与えすぎない、微妙な強さ。使う方も、使われる方も、壊れることがない。


「怪しまれずに使える。ということは、売れる。たいした商売人だな、これを作ったやつは」


 アントンが早口でブツブツつぶやいているのを、生気のない目でグスタフが眺めている。アントンは、

グスタフに軽蔑されてもちっとも気にならない。研究対象には嫌われて当たり前だ。実験用のネズミにも恐れられている。いまさら、王子のひとりやふたりに気持ち悪いと思われたところで、何も変わらない。


 二日目からは、やや強引にことを運んだ。


「殿下。調査用の魔道具を色んなところにつけさせていただきますよ。よろしいですか? お返事をいただけない場合は、了承と受け取らせていただきますよ。では失礼」


 とっととグスタフのシャツのボタンをはずし、胸元に魔道具をつける。グスタフは悲鳴を上げたが、アントンはためらわない。胸、首、手首、足首、額。次々と魔道具をとりつける。調査員であり、かつ優秀な魔道具師で研究者でもあるアントン。調査に必要な魔道具はいくらでも持っている。拷問用の魔道具もあるが、それは、今回は使わない。


 魔道具まみれになったグスタフは、抗う気力もなくなったようだ。まさに、まな板の上のにんじんだ。切られるのを、じっと待つのみ。ククク。


 感情を込めない声で、静かにグスタフに問いかけ、反応を紙に記していく。


「殿下、この魅了の魔石について教えてください。どういう状況でこの魔石を使われたか、覚えていますか? はい、いいえ、分からない、さあ、どれですか?」


 グスタフはなかなか答えない。「分からない」たったそのひと言が、出てこない。実際のところ、覚えていないのだろうし、分からないと言うことになんの問題もないはずなのだが。グスタフは苦しそうだ。


 あまり追い詰めるのはよくない。ゆっくりと時間をかけよう。


 色んな媚薬も、少量を試してどうなるか観察する。一緒に食事をし、何を食べるとどう数値が変わるかも見る。夜は、グスタフが眠りにつくまでそばにいる。なんなら、すぐ近くのソファーで寝ている。研究対象はアントンにとって、大事だから。逃げられたり、自傷をはかられては困る。


 グスタフは盤上遊戯が好きではないようだ。針がよく動く。ところが、二面指し、三面指しを提案してからは、動揺が見られなくなった。


「二面指し、三面指し。そんな遊び方もあるのだな」

「名人が初心者たちを一気に指導するときに使うそうですよ。達人だと百面指しなんかもあるそうです」

「百面」


 グスタフがポツリと繰り返す。


「でも我々は達人ではありませんので、ふたりで三面を同時に次々と指して行きましょう。神の視点の幾分かを追体験できます」


 グスタフは、盤上遊戯の多面指しを始めてから、少しずつ明るくなった。


「盤上、王国も、王も。ひとつではないのだったな」

「そうです。もし、殿下がまだ王位に戻りたいのであれば、私が新しい国をご用意しますよ。あらゆる悪辣な手を使って、標的の国を弱め、殿下がひと指しで王手を取れるまで、道筋を立てましょう」


 半ば本気で言う。誰にも弱みを見せず、孤独に高みを目指し、挫折したグスタフ。アントンは、グスタフが望むなら、国のひとつやふたつ、なんとかしてあげたいと思っている。まずは圧政に苦しんでいる小国を乗っ取り、そして国を育てればいい。アントンのとんでもない提案に、グスタフは初めて声を出して笑った。


「そなたにお膳立てされてまで、王に返り咲こうとは思わぬ」

「では、共に背中を支え合っての、他国取りならよろしいのですか?」

「そうだな。国はいらぬ。王位もいらぬ。だが、背中を守り合うというのは、いいな」


 グスタフはひとしきり笑った後、静かに聞く。


「アントン。変人と言われたりしないか?」

「言われますよ。でも、それは誉め言葉だと思っています。研究者たるもの、変人、変態と呼ばれてからが第一歩です」

「そうか」


 グスタフは力の抜けたような顔をする。


「アントン。なぜ私の調査を引き受けた。誰もやりたがらない仕事だろうに」

「手当てがとてもよかったからですよ。なんせ貧乏子爵ですから」

「なるほど」


 グスタフがうつむく。


「アントン。どうやったら自信が持てる?」

「自信が持てなくても気にしないことです。自信が持てるまで、ずっとやり続ければ、いずれ結果はついてきます」

「アントンは、強いな」

「変態ですからね」


 グスタフが少し笑った。


「アントン。調査が終わったら、私はしばらく修行の旅に出る。戻ってきたら、また会ってくれるか?」


「もちろんですよ。あ、お土産は色んな土地の魔道具でお願いしますよ。斬新な魔道具を作るエルフの里があるらしいのです。手に入れるのが困難で。もし可能ならぜひに」」


「分かった。魔道具と指輪を用意する」

「指輪?」


 アントンは首を傾げた。


「婚約指輪だ。受け取ってもらえると嬉しい」


 アントンは口を開けた。


「殿下。男同士は婚約できませんが」

「そうだな。だが、アントンはアンナで、女性だ。なんの問題もない。アントンがイヤでなければ、だが」


 アントンは天井を仰いだ。


「なぜ、いつから?」

「いつだったかな。アントンが寝不足でふらついたときに、倒れそうになったであろう。そのとき支えた。そしたら、まあ、あれだ」

「こんな胸で、バレましたか?」


 アントンは頭を抱える。グスタフは顔を赤らめ、アントンの手を取る。


「アントンが仕事を続けられるように、調整する。女性に戻っても、今の仕事を継続できるようにする。だから、婚約から始めてほしい」


「殿下、変態って思われますよ」

「望むところだ。変態と言われてからが第一歩だろう」



 アントンがアンナに戻って、旅から帰って来たグスタフから指輪を受け取るのは、もう少し先の話。


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