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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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22/24

22.死に戻るなら一時間前に

短編版とほぼ同じです。

 ゾーイはエーミールに相談事をもちかけた。


「エーミール様のおかげで、色んなことを改善できました。ブライアン殿下のおかげで、獣人奴

隷も撲滅できそうです」


 ブライアンがツガイ対策グッズを持って、各獣人国を訪れてくれた。人化できない獣人を、い

らない子として奴隷商人には売らないこと。同じ獣人であると、意識改革を進めていくこと。も

し、ヒト属の国で暮らしてみたい獣人がいるなら、ブライアンとエーミールが対応する。


「とは言っても、長年根づいた意識は、簡単には変えられないと思うのですが。姫さまと若さまが推し活で崇められていることが獣人国で広まって、少しずつ見る目は変わりつつあるようです」


「時間がかかるけど、少しずつ変えていこうね」


 ゾーイは、エーミールの優しい目に勇気づけられる。


「以前お伝えしたように、私には前世の記憶があるのですが」

 

 ゾーイは、エーミールが本当に自分を好きでいてくれていると、心から信じられたときに、前

世のことを打ち明けていたのだ。エーミールは黙って聞いて、「大変だったね。前世の家族や友

達に会えないのは、とても寂しいと思う。でも、僕はゾーイがこっちに来てくれて、本当に嬉し

い」と言ってくれた。

 そんなエーミールにだからこそ、ゾーイは悩みが打ち明けられる。


「この世界、どうも色んな転生者や転移者がいそうなのです。そういうのが好きな神様なのかも

しれません。私、いきなり違う環境に放り込まれて、戸惑っている人たちに、助言をしたいなと

思っているのです」

「いいんじゃない。例えばどんな?」


「例えば、各国の王家に、転生者や転移者についての取り扱い注意事項をお伝えするとか。もし

くは、転移者や転生者に直接なにかお伝えできると、さらにいいのですが」


「他国の王国か。そうだね、信じられる人にだけ伝えるなら、できるかもしれない。どこの誰に

でもというのは、さすがに危険だと思う。転生者や転移者の持っている、前世の知識を利用して

やろうって思う人もいるだろうから」


「確かに、そうですわね。転移者と転生者にだけ伝えられたら、その方が安全ですわね」

 

 ゾーイは考え込み、ふと思いついた。


「信頼できる教会や王家のえらい人に、こっそりお手紙を渡しましょう。様子のおかしい人がい

たら、これを読ませてやってくださいって。その手引書は、前世の文字で書けばいいと思うので

す」


 ゾーイはサラサラッと日本語と英語で文章を書いて、エーミールに見せる。


「わー、素敵な文字だね。絵みたいだね。ねえ、エーミールとゾーイって、前世の文字で書いて

くれない?」


 ゾーイは、日本語と英語で綴った。エーミールはニコニコしながら見つめ、「僕、練習して書

けるようになるね」とかわいらしいことを言う。ゾーイは、自分の婚約者がこんな素敵な人で本当に幸せだなって、心から思った。


***


「ああ、これが走馬灯なのね」


 階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。


「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」


 ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。

 ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。


「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」

「ルル、何を言っているの」

「クラウス様、私、たった今、死に戻ったのです。クラウス様に教えられていた通り、階段から落ちた瞬

間に、一時間前に戻りたいと神に祈りました」


 クラウスがルルの手を握る。


「詳しく話して」

「クラウス様とのお茶会が終わって、自宅に戻ろうと廊下を歩いておりますと、第一王子殿下の婚約者に嫌味を言われました」

「犯人は兄上の婚約者か」


 クラウスが険しい表情をして、指でトントンと膝を叩く。


「分かりません。その次は、第二王子殿下の側近とすれ違いました」

「そちらも怪しいな」


 クラウスはため息を吐いて腕組みをした。


「その後、どこからともなく風が吹き、私のスカーフが飛ばされてしまいました。慌てて侍女が追いかけました」

「風魔法が得意な者は誰であったか」


 クラウスが眉間にシワを寄せ、空をにらむ。


「階段に着き、先に護衛が降ります。護衛が何かに足を取られて体勢を崩しました。次に私の足が滑りました。護衛は手すりにつかまっていたので、私を支えることができず。私は落ちて行きました」

「誰か周りに怪しい人はいたかい?」


 ルルは小首をかしげた。


「それが、たくさんいたと思うのです。しっかり見えたわけではありませんが。私の元婚約者、妹、妹の取り巻き、生徒会の役員。同世代の貴族がたくさんいました」

「なぜ王宮に、おかしいではないか。もしや、ルルの死を見学するつもりだったのではあるまいか。ルル、これからは護衛の数を増やそう」


 ルルは小さく首を横に振る。


「いえ、クラウス様。今のままで結構です。ただ、王家の影を大至急配置していただけないでしょうか。廊下と階段あたりに」

「ルル、まさかと思うけど、階段に行くつもり?」


 クラウスが目を見開いて身を乗り出す。


「はい。犯人を特定するには、それが一番だと思います。同じことをそっくりそのまま繰り返します。ただし、今回は王家の影の監視の中で」

「ダメだ。そんな危ないこと。次も死に戻りできるとは限らないよ」


「もちろんです。うまく生き残る方法を考えましょう。あと一時間弱あります」

「うわー。時間がなさすぎる」


 クラウスが頭を抱えた。


「昨日に戻ることも一瞬よぎったのですが。一時間にしました。一日前では、同じことをずっと繰り返す自信がありませんでした。ちょっとしたことで未来が変わるのでしょう。未来が変わってしまえば、犯人を特定するのが難しくなりますもの」


「ルル、なんて勇気だ」


 クラウスが目を潤ませてルルを見つめる。


「事前に、手引き書を読ませていただけたおかげです。心の準備ができておりました」

「転生者、転移者、主人公、かもしれない人への手引き書か。誰かが、謎の言葉を翻訳してくれていたが。まさかあんな眉唾ものの文章が役にたつことがあろうとは」


 クラウスの母方の家に、伝わる手引き書なのだ。クラウスとの婚約が決まったとき、こっそり読ませてもらった。見たことのない不思議な文字。そして謎の誰かが訳した文章。荒唐無稽な内容だったが、その中に死に戻り手引きもあったので、助かった。


「死ぬ間際に神に祈れば、好きな時間に戻れるかもしれない。祈るのが遅いと、下手したら十年前に戻るかもしれない。そう書いてありましたでしょう。私、同じことを十年もやり直すの、イヤですわ」


 それはとても退屈だと思う。先がどうなるか分かっている人生。なんの楽しみがあろうか。犯人が分かっている推理小説を読むようなものではないか。


「それに、十年前に戻ってしまったら。クラウス様は、私の知っているクラウス様ではないかもしれません。それはイヤです」


 今ここにいるクラウスがいいのだ。ルルの思いが伝わったのだろう。クラウスは真っ赤になっている。

「ルルを必ず守る。そして犯人を特定し、相応の報いを与える」


 クラウスはルルの手を持ち上げると、優しく手に口づけた。


 そんなわけで、二回目の階段落ちである。


 風が吹き、ルルのスカーフが飛ばされ、侍女が後を追う。護衛は何かに引っかかって階段の手すりにしがみつく。ルルの足元がツルンと滑る。


 ルルは階段を思いっきり蹴った。高く、なるべく高く。


 ルルは小脇に抱えていた配膳用のトレーを足の下に当てる。滑車がついている下の方の台を持ってきたのだ。重心をやや後ろ側にし、後輪で着地し、そのまま階段をカタカタカタと降りていく。


 カタタン、軽やかに階下に降り、ルルは台車トレーに乗ったまま、シャーッと涼しい顔で貴族たちの前を通り過ぎた。


「ルル様」

 後ろから慌てて護衛と侍女が追いかけてくる。ルルはふたりを待って、悠々と馬車に乗り込むと無事に侯爵家まで戻った。


「スキーが得意でよかったわ」

「ルル様、さきほどの技はいったい」

「スキーみたいなものよ。今日は階段に注意って占いに出ていたから。ホホホ」


 ルルは震える膝をさりげなく止めて、朗らかに侍女に笑って見せた。


 それからのことは、クラウスがやってくれた。王家の影が目撃した情報をもとに、疑わしい者を追い詰めていく。ルルは侯爵家で大人しくクラウスの訪れを待っている。


「まず、ルルの妹。階段にピアノ線を張っていた」

「あらまあ。まさか、自ら手を汚すなんて。おバカさんにもほどがあるわ」


「思っていたより驚かないね」

「妹は、以前から私のものを欲しがる、ねだり魔でしたから。おおかた、私がクラウス様と婚約して腹が立ったのでしょう」


 欲しがりの妹を持つ姉、よくある話だ。自分の物は自分の物、姉の物も自分の物。そういう考えなのだ。ルルにはちっとも理屈が分からないが、なぜか妹はそう信じて疑わない。


「次、ルルの元婚約者。今はルルの妹の婚約者だね。階段のいくつかを、氷魔法で凍らせていた」

「まあ、道理で。ツルッと滑りましたものね」


「なぜそんなに落ち着いているのだ」

「スキーで階段落ちをしたことに比べれば。屋敷の客室で聞く暗殺ばなしは、それほど怖くありませんわ」


「うまくいって本当によかった。私は生きた心地がしなかったよ」


 クラウスがルルの手をそっと包み込む。クラウスの手のぬくもりで、こわばっていたルルの手がほどける。


「彼はね、婚約解消したとき、ルルがあっさり受け入れたのが屈辱だったらしい。泣いてすがってくると思っていたそうだよ」


「あきれたこと。そもそも政略での婚約で、愛情なんてありませんでしたのに。彼は妹とベッタリでしたし、せいせいしておりましたわ」


「私は、ルルを一生大事にするから。ルルのことが大好きだから」

「クラウス様。私もクラウス様が大好きです」


 甘い空気に包まれ、見つめ合うふたり。しばらくして、侍女が新しいお茶とお菓子を持ってきてくれた。クラウスはハッとして話を続ける。


「生徒会役員たちは、ルルの妹に連れて来られたらしい。何かおもしろいことが起こると聞いていたらしいよ。理由を知って震え上がっていた。もう、妹と関わるのはやめるそうだ」


「そうですか。それならいいのです。ただの野次馬ですわね」


 ルルは興味なさげに頭を軽く振る。


「兄上の婚約者は、ルルのことが気に食わなかったらしい。ルルのスカートにインクをかけようとしたけど、モタモタして間に合わなかったそうだ。泣いて謝っていた」


「ホホホ、うっかりさんですわね。彼女とは仲良くなれるかもしれませんわ。しばらくネチネチいじめてからですけれど」


 ホホホとルルは楽しそうに笑う。命を狙ったわけではないなら、構わない。貴族なんて、殺伐とした界隈なのだから。


「兄上の護衛は、ルルがひとりで歩いていたら、少しイタズラしようと考えていたらしい。ルルの評判を貶めて、私の派閥を弱らせたかったそうだ。ルルに護衛がついていたから、スカーフを飛ばしただけにしたらしい」


「最低ですわね」


 ルルは唇を噛みしめる。クラウスの心配そうな目を見て、ルルは唇を噛むのをやめて、微笑んでみせた。


「ルル、無理に笑わなくていいよ。必ず、追い詰めて罰するから」

「いいえ、クラウス様。私は誰も罰してほしくはございません」


 ルルは静かに告げる。


「なぜ? 命を狙われ、尊厳を傷つけられようとしたのに?」

「クラウス様、せっかくの切り札です。切り札は、切ってしまったらおしまいですわ。いつ使うか分からないからこそ、いいのです。脅しと抑止力ですわ」


「ルル、本当にいいの? 盛大にざまあして、溜飲を下げたくはないのかい?」

「いいえ。それより、いつ罰せられるか分からず、ビクビクしている彼らを見ている方がおもしろいではないですか」

「ルル、なんて恐ろしいことを言うのだ。最高だ」


 クラウスはルルを抱きしめる。


 誰も罰せられなかった階段落ち事件のウワサは、王国を駆け巡った。たっぷりと脅したので、悪い子たちは、ルルとクラウスの下僕となっている。クラウスは王位を継ぐことはなかったが、しかとした実権を握り続け、王国を支えた。


 王国の影の支配者は、クラウス殿下とルル殿下であると、まことしやかにささやかれている。そして、ふたりは神の預言書を持っているとも。


 王国は今日も平和だ。


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