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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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21/24

21.きれいごとでしょうか

 優秀な諜報部門が、耳寄りな情報をゾーイとエーミールにもたらした。


「まあ、転移の神様? 柔軟に転移者の願いを聞いてくれるらしいですって?」

「レイコさんからお手紙を預かってまいりました」


 日本語で書かれた手紙。ゾーイは懐かしくて涙が出そうになった。エーミールが心配そうにゾーイを見つめている。


「転移者は体があるので戻しやすい。転生者は元の体が残ってないから、戻しにくい。魂だけ戻して、適当な器に入れることはできるらしい、ですか。まあ」


 エーミールがゾーイの手を強く握った。


「ゾーイは、戻りたかった?」

「そうですね。戻りたい気持ちはもちろんございます。でも、こちらの家族や友人、そしてエーミール様と会えなくなるのは寂しいです。行ったり来たりできたらいいのに、などと都合のいいことを思っておりました」


「ゾーイ。よかった。いや、よくないんだけど。ゾーイが戻りたいなら、悲しいけれど方法を探すつもりだったんだ。行ったり来たりできるといいね。それなら、僕もゾーイのあちらの家族に挨拶できるし。引き続き調べてみよう」


 その後、ゾーイはレイコさんと手紙のやりとりをした。レイコさんは神様のお気に入りらしく、色んな無理をきいてもらえるようだ。なにそれ、うらやましい。ゾーイは、ちょっぴり思ってしまった。


「実験台になってもいいという奇特な人がいれば、日本行きを試せるそうです。魂だけ行くか、日本に転移するか。どちらか選べると」

「ゾーイ、僕は反対だ。命がけではないか」

「ですわよね」


 ゾーイは神妙に頷く。ところが、思わぬところから立候補が出た。


***


 とある日本の片田舎で、畑を前に中年の女性がため息を吐いた。


「まーた畑が荒らされてるー。クソー、イノシシどもめ。どうしたもんかな。罠をしかけるか、撃つか。うーん、猟犬がほしい」


 父に頼めば、狩ってくれるだろうが。父ももう年だ。本当は自分でイノシシと鹿を狩れればいいのだが。アキの腕では、イノシシは持て余す。猟犬がいれば、猟が楽になるのだけど。


「猟犬を育てるのは大変だしなー」


 堂々巡り。アキは、狩猟仲間に、猟犬とイノシシについて相談しようと、パソコンの前に座る。メールを開くと、友人からなにやらリンクが届いている。


「あの頃はまだ未来が明るかったよねーって、なんのこと」


 リンクを開けると、アキが大学生の頃に一世を風靡したアイドルの動画に飛んだ。オーディション番組の落選組からできたグループ。あれよあれよという間にトップまで上り詰めた彼女たち。


「日本の未来は、明るいって歌だったな。ははは。確かに、まだあの頃はそんな未来を見てたかもしれない」


 今では、そんな空気はさっぱりどこかに消え去った。テレビをつければ暗い話ばかり。


「少子化、高齢化、限界集落、コロナ、戦争、増税、物価高。明るい話題は海外で活躍している日本のスポーツマンぐらい。この国はどうしてこうなっちゃったのかなー」


 アキはだらしなく畳に寝転がる。アキが大学で就職活動をしたときは、氷河期のまっただなか。毎日毎日、資料請求のハガキを送り、履歴書を手書きし、送付したものだ。あの頃は、今みたいにパソコンに入力し、ピッとボタンを押せば、応募できるような時代ではなかった。


 なんとか潜り込んだ中小企業で、お局にいびりぬかれ、心を病んで、実家に戻ってきた。ちょうどその頃、地元にいた姉に娘が生まれたので、姉の子育てを手伝いつつ、少しずつ社会復帰したのだ。


「社会復帰つっても、便利屋と狩りと農業だけどさ。実家だし、土地はいっぱいあるし、このまま細々とやっていければ、なんとかなるでしょう。ナツが大学卒業するまで持ちこたえれば、なんとかなる」


 教師をしていた姉が、教師仲間と結婚し、産まれたのがナツ。頭がよく、まっすぐないい子。ナツが八歳のとき、姉と義兄の乗っていた車が、トラックに押しつぶされた。トラックの運転手と運送会社の社長は土下座で謝った。厳しい労働環境で、ろくに寝られず、フラフラで運転していたらしい。


 怒りは誰にぶつければよかったのか。最低の環境で必死に働いていたトラック運転手か? なんとか利益を出して、トラック運転手をクビにしなくてすむよう、ギリギリで運営していた会社社長か? そんな社会システムを作った政府か? 誰に投票していいか分からないから、選挙に行かなかった自分か? 誰かがなんとかしてくれる、そう期待して戦わず待ってるだけの国民か?


 泣くこともできず、両親を失ったことを理解できず、冷え切ったナツを、父とふたりでなんとか生かしてきた。


「このおかしな国をなんとかする。そんなこと言えるまでになってさ。あの子はすごいよ」


 最難関の大学に受かったって、電話をかけてきた。仮契約していた下宿を本契約にし、そろそろ帰ってくるころだ。一緒に行くって言ったのに、あの自立心の強い子は、ひとりで東京まで行ったのだ。


「これからは、東京でひとり暮らしだもん。なんでもひとりでできるようにならなきゃ、なーんて。なんつーできた子。おいしいすき焼きで祝ってあげよう。あ、だから白菜とネギとりに畑に行ったんだった」


 それにしても、年々、イノシシと鹿の被害が大きくなっている。田舎なので、家庭菜園をやっている家が多いのだけど、誰もが被害にあっている。猟師は減り、人口も減り、動物が里に下りてくるようになって。


「最近は、クマの目撃情報まであるもんね。シャレにならん。クマは無理」


 生き物としての風格が違いすぎる。山で会ってしまったら。


「あがくけども、まあ、ダメだろうね」


 一瞬でやられるだろう。イノシシでも恐ろしいのだ。クマはもう、死神。出会うことは死を意味する。


「せめて、クマの存在をいち早く教えてもらって、逃げる時間を稼ぎたい。それにはやっぱり、猟犬だよなー。猟犬ほしーい」


 ピカーっとアキの隣の畳が光った。あっけに取られていると、畳の上に犬ぐらいの大きさの猫が現れる。


「ええー」

「ニャー」


 猫はアキのお腹の上に跳び乗り、アキの胸の上にポトリと何かを落とす。思わず手に取ると、アキちゃんへ、と書いてある紙ではないか。


「ナツの字。なんで、なんなの」


 巻物みたいな紙をクルクルと開けながら読み、アキは猫と見つめ合った。


「ナツ、マジなの」


 アキは猫を抱えると、ドタドタと駆け出す。


「父さん、父さん、えらいこっちゃ。ナツが異世界転生しちゃったー」


***


 アキの、そしてゾーイの元人格であるナツの故郷は、今とても穏やかだ。獣害がピタリとおさまった。ナツが異世界から送ってくれた、猫のおかげだ。


 ナツいわく、人語を解し、なぜか日本の知識がうっすらある、人化できない猫人の猫らしい。情報量が多すぎて、アキは頭を抱えた。


 猫は納豆が食べたいから、どうしても日本で暮らしたかったそうだ。猫が納豆。いいのか悩んだが、おいしそうに糸をひきながら食べ、毎日元気なので、いいことにしている。


「本当に、マメのおかげで助かるわ」


 納豆が好きなので、マメと名づけてみた。マメもご満悦のようだ。

 マメはせっせと山を走り回っては、クマやイノシシを退治してくれる。


「猟犬は役所に届け出をしなきゃいけないんだけどね。でも、マメは猫だもんね」


 父と話して、しれっとしていることにした。だって、猫だもん。日本では、猟犬に噛みつかせて捕獲する方法は禁止されているのだが、それもいいことにした。だって、猫だもん。


「さすがにクマを倒したときは、驚いたフリして役所に報告したけどね」


 クマが倒れてますーって白々しく連絡したのだ。テレビ局なんかが取材に来て、小さな村は大騒ぎになったが、なんとかシラを切りとおした。


 狩猟仲間はうすうす何か勘づいているようだが、誰も何も言わない。バカ正直に生きてきて、ひどい目にあった経験がそれなりにある。お上とはうまくやるが、何から何まで真っ正直である必要もないよね。それが大人の処世術だ。


「猫、増えたら俺にもくれ」


 こっそり頼まれることも多い。増えるってねえ。マメが生むのか、ナツが新たに送ってくるのか、どっちかしかないんだけど。


「膨大な魔力が必要って書いてあったもんなー。この世界線の我が家に届くかも定かじゃないってあったし。色々調整が必要みたい。でもうまくいけば、いつか」


 ナツが一時帰国するかもしれない。見た目はゾーイかもしれないけど。どうなんだろう。


「ナツに会いたいな。でも、どこの世界だろうが、元気にしていてくれるなら、いいんだ」



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