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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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19/24

19.運営はつらいよ

 サナは朝からため息が止まらない。ユーザーからの問い合わせメールがエグいのだ。


『カムロがまーたパクッてます。カムロのこの新作、ノンタさんのとそっくり。もういい加減、カムロを垢バンしてくださいよ』

『運営、いつまでパクリ四天王カムロを放置してんの。書籍化作家だからひよってるとか? ダッセ』

『御社の対応の遅さに幻滅しました。もう退会します』


 サナは思わず立ち上がった。


「ううっ、胃がキリキリする」


 胃のあたりを手でさすりながら、オズオズと上司の席まで行った。


「あの、課長。カムロさんの新作がまたパクリって、ユーザーさんたちからメールがたくさん届いています」

「ああー、あの人ねー。あー、でもなー。パクられ側から連絡こないことには、こっちは動けないからなー。いつも通りの対応でよろしく」

「はい」


 サナはトボトボと席に戻る。垢バンできればいいのに。でも、腐っても書籍化作家先生。コアなファンと仲間も多い。下手に動いて炎上したくない。サナはいつも通りの対応をする。見なかったフリ、だ。


「あーあー、誰か、カムロさんに、いい加減にしなさいって言ってくれないかなー。私は無理だけど」


 誰にも聞こえないように、小さな声で愚痴った。サナは開いたメールをひとつずつ削除した。


***


 神作家、カムロの朝は早い。目覚めてすぐ、スマホでネットのチェックをするのが日課だ。いくつかの小説投稿サイトのランキングを見て、目ぼしい作品をピックアップ。ターゲットが見つかったら、コーヒーを入れる。作家だから、コーヒー豆にはこだわっている。コーヒーは、脳のエンジン。作家は脳が命。深い香りを楽しみ、苦みと酸味を味わいながら、パソコンの前に座り起動する。


 手を組んでギュッと前に伸ばす。首をゆっくり動かし、深呼吸したらワードを立ち上げる。


「まずは、これをコピペ」


 某大手サイトのランキング上位にあるハイファンタジー作品をポチッと開くと、表示される話数を次々とコピペしていく。


「男向けハイファンタジーなら、おっさん、追放、バフ、ハーレム、ざまあが人気だよなあ。みんな、よっぽどストレス溜まってんだな。無理もないけど」


 世の中、暗い話題ばっかり。戦争、病気、増税、円安、少子化、高齢化、天災、猛暑、クマ。テレビをつければ気が滅入る。


「報われない、奴隷市民をスカッとさせてやらないと」


 コピペした作品をざざっと流し読みし、登場人物の名前をワードの一括変換で置換していく。あとはちょいちょいと展開を変えれば終了だ。


「ふう、できた。なかなかはかどったな」


 メールを開けて、業者に連絡する。


「この作品に五千ポイント、よろしくお願いしますっと」


 振込みをしたら完了だ。


 小説投稿サイトにログインして、新作を投稿していく。ポイントをつけ合っているサークル仲間にも連絡すれば、順調にポイントが上がっていく。


「よしよし。これで夜にはハイファンのトップにいけるだろう。感想欄を掃除しておくか」


 届いている感想欄を見て、問題があるものは削除、どうでもいいのは放置だ。


「この作品、あれのパクリですよね。恥ずかしくないんですかだって。恥ずかしくありませーん。パクられるのがイヤなら、投稿しなきゃいい。つーか、みんなやってんじゃん」


 うざったい感想は即座に削除、ブロック、ミュートだ。こうやってゴミを排除していく。やかましい感想を消せば、あとは信者の絶賛コメントだけが並ぶ。美しい。感想の後はメールだ。投稿サイト内のメールで他作者と交流ができる。当たり障りのないメールの中に、ひとつ捨て置けないものがあった。


「あなたの投稿したこの作品、私の作品の盗作ですよね。運営にも連絡しました。即座に削除してください、か。ちっ、めんどくせえな。どれのことだ」


 速筆で多作を信条としているので、投稿作は三桁に登る。記憶にもほとんど残っていない作品を開いてみる。


「覚えてないな。誰のをパクッたなんて、いちいち覚えてないからなあ。どうすっかなー。まあ、でもこれ、ポイントもそんなに取れなかったし、出版社からもオファーが来なかったヤツか。じゃあ、削除しとくか」


 作品をサクッと消し、うざいメールも一緒に削除だ。すぐにまたメールが来た。


「今後一切、私の作品をパクらないでください。運営に垢バンされないのが不思議でなりません。ざまぁ作品を書いているあなたが、最もざまぁされるべき悪人ですよね。恥を知れ、か。うるせー、黙れ、書籍化したこともない、ワナビ野郎。いくつも書籍化した神作家に向かって生意気な」


 サイトをブチッと消すと、部屋の奥のサンドバッグを殴る。


「クソッ、死ねっ、ゴミカスが。負け犬のくせに」


 サンドバッグをボコボコに痛めつけていると、気分が落ち着いてきた。冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、ゴクゴク飲んでいると、突然床がピカッと光る。


『市民からのヘイトが一定数に達しましたので、異世界に転移します』


 感情のない、ロボットのような声が頭に響いた。


『殺人なし、殺人ほう助なし、強盗なし、窃盗なし、放火なし、銃刀法違反なし、脅迫なし、盗撮なし、不法投棄なし、名誉棄損なし』


 ロボット声が淡々と犯していない罪を読み上げる。少しくだけた口調で続けられた。


『詐欺は、まあ詐欺ってほどでもないか。盗作あり、だね。たいした罪ではないけど。市民からの怨嗟がたまりまくっているから転移ってことで。勇者チートなし、言語チートあり、ハーレムなし。でも、そこそこいい環境に行かせてあげよう』


「ええ、ちょっ、まっ」


 カムロは時空のはざまに吸い込まれていった。


***


「カムロ先生、できましたー」

「おお、早いね。ちょっと待ってね」


 カムロは少女が提出した書き取り表を受け取り、一つひとつ確認し、赤を入れていく。


「この字、すごく上手。こっちはちょっと歪んでるね。次はこの字に気をつけながら書くんだよ」

「はーい」


 ロミーはニコニコしながら書き取り表を持って、席に戻る。



 カムロは、あれから異世界の小さな町で教師をしている。言語チートのおかげで、言葉には困っていない。元作家ということも考慮され、それなりの厚遇を受けている。


「魔物討伐部隊とか、炭鉱とかじゃなくてよかった」


 カムロは真面目な顔で机に向かっている子どもたちを見て、ホッと息を吐く。作家先生とチヤホヤされることはなくなった。刺激も娯楽もほとんどない生活。でも、子どもたちのキラキラした目を見ると、薄汚れていた自分が浄化されていくように感じる。


 ここでのんびり暮らしながら、異世界人向けに小説を書いてもいいな。カムロが未来を夢見ていると、ロミーが手を上げる。


「せんせー、おはなしの時間だよ」

「おはなしおはなしー」

「わーい」


 子どもたちが、期待に満ちた目でカムロを見つめる。カムロはゆっくりと、赤ずきんのお話を語る。隣の子と手をつなぎあって、ドキドキハラハラしながら、カムロを見上げる子どもたち。めでたしめでたしで終わると、みんながワッと歓声を上げて手を叩く。


「そしたら、赤ずきんを真似して、みんなで新しいお話しを作ってみようか」

「アタシねー、アタシはねー、狼が出てくるお話しにするね」


「僕はそしたら、おばあさんが狼食べるお話しにするー」

「それおもしろいー。私、おばあさんが狼食べたあと、森に他の狼を討ちに行くお話しにするー」

「ああー、ずるい。僕のお話しとったー。ダメー。せんせー、僕のお話しとるのダメだよね?」


 ハンスのまっすぐな目は、カムロを信じ切っているように見えた。


「そうだね。他の人が作ったお話しをとったらダメだね」

「どうしてー、赤ずきんのお話しは真似してもいいのに。どうしてハンスのは真似しちゃダメなの? どうしてー」


 ロミーの追及に、カムロはうっと詰まった。


「それは。だって、そりゃあ。友だちの話はとっちゃダメだろう」

「赤ずきんはお友だちじゃないからとってもいいんだね」

「へんなの」


「ハンスはお友だちじゃないもん。私のリンゴいっつもとるもん。だから、お話しとってもいいんだもん」

「ああ」


 カムロは頭を抱える。


「ああ、なんと言えばいいんだろう。なんて」

「ロミー、みんなも。カムロ先生を困らせないのよ」


 教室の扉が開いて、優し気な少女が苦笑まじりに子どもたちをたしなめる。ロミーがパッと目を輝かせた。


「ソフィーねえちゃん。わーい、むかえにきてくれたの」

「そうよ。売れ残りのパンを安く買ってきたから。帰ってスープと一緒に食べましょう。カムロ先生もぜひ一緒にどうぞ」

「あ、はい。いつもありがとう、ソフィー」


 カムロは照れ笑いを浮かべながらソフィーの誘いをありがたく受けた。転移して、教師の仕事を得るまで、ソフィーがなにくれとなく世話を焼いてくれたのだ。いまだに、あれやこれやと頼りっぱなしだ。


 子どもたちを送り出し、教室のカギを閉め、三人で歩く。いつもロミーを真ん中に挟み、カムロとソフィーがロミーの手を握って歩く。ときどき、ぴょーいとロミーを振り子のように持ち上げてやる。ロミーはキャッキャッと大喜び。まるで、本物の夫婦と娘みたいだ。カムロはこっそり心の中で思い、ついニヤけてしまう。ロミーは六歳、ソフィーは三十歳。年は離れているけど、姉妹だ。ソフィーの母、子だくさんで十五人も産んでいるのだ。


 ずっと妊娠中の母と、家族を食べさせるために三つの仕事をかけもちしている父。そんな両親を助けるため、ソフィーは十歳のときから働いていたらしい。


「掃除の仕事をずっとしてたんだけど。大人になってからはパン屋で働いているの。余ったパンを持って帰れるから、食費が浮くでしょう」


 ひとりの女性が十五人も子どもを生み、大家族を助けるため児童が働く。日本では見聞きしたことがなかったけど、こちらでは割と普通だ。そんなに産まなきゃいいのに、とは思ってもいえない。きっと、避妊具とかないんだろうし。娯楽がない世界だから、そうなっちゃうんだろうし。


「それにしても、ソフィーはすごいな」


 カムロは、甘ったれていた自分との差に愕然とする。働いて弟妹を世話して、気づいたら婚期を逃しちゃった、って言ってた。


「すごくなんかないわよ。長女だもん、家族を助けなきゃ」

「だからって、結婚もせず、家族のために尽くしてきたなんてさ。いや、ソフィーが結婚してなくって、よかったんだけど」


 ソフィーがニコッと笑い、カムロは胸がキュンッとする。日本では彼女はいなかった。つき合うなら女子高生っしょ、とか舐めプしてたら、年齢イコール彼女いない歴になってしまっていた。でも、日本は風俗が盛んなので、困ったことはなかったけど。まさか、異世界で同い年の女性と恋仲になるとは、想定外だった。同い年なんて、ババアはお断りって、日本では思ってたのにさ。


 右も左も、勝手が分からない異世界に飛ばされ、親身に助けてくれたのがソフィーだ。ヒナが親鳥についていくかのように、カムロはソフィーしか見えなかった。


 掃除も洗濯も料理も、ソフィーに手ほどきしてもらって、なんとかできるようになってきた。だって、十四人の弟妹の面倒を見ているソフィーに、自分の世話までしてもらうわけにいかないし。何もできないと、生きていけないわけで。


 日本では舐め腐って生きてきたけど、異世界では必死にならないと生き残れない。チート能力のない、ただの凡人。魔物に襲われたら、震えて命乞いするしかないザコ。幸い、この村には魔物は出ないらしいけど。レンジも洗濯機もコーヒーマシーンもパソコンも、何もない世界。でも、本はある。言語チートはあったので、本は読める。


 世界は変わっても、物語の基本構造は同じだ。何か欠けている主人公が、障害にぶち当たり、もがき、成長し、目的を果たす。欠けた存在が、少し立派になるのだ。


「ソフィーに、ソフィーだけの物語を贈るよ」

「ふふ、楽しみね。私、あまり読むの速くないんだけど。助けてくれる?」

「もちろん。なるべく読みやすくする。難しい言葉は使わない」


 カムロの、カムロによる、ソフィーのための物語。出版する必要はない。一文字一文字、丁寧に書き綴り、自分で装丁して、ソフィーに捧げるんだ。


 ソフィーの家族と共に食事をし、すぐ近くの自分の家に帰る。ロウソクに火をともし、羽ペンをインクに浸し、慎重に書く。筆がのっていると、明け方まで書いてしまうこともある。ウンウン悩んでるうちに、机に突っ伏して寝てしまうことも。


***


 ハッと目が覚め、カムロは飛び起きた。


「ここは、どこだ?」


 見慣れたアパートの一室。いつものベッド。点滅しているパソコンとスマホ。


「そんな、あんなにリアルだったのに。まさか、夢落ちなんて。うそだ、うそだうそだー」


『異世界に転移して優しい異世界オネーさんと結婚。まったくバツになっとりませんがなーって、市民からのクレームが殺到しそうなので、夢落ちにしましたー』

「くっ」


 腹立つー。神経を逆なでする、やや小バカにしているような口調に、怒りが最高潮に達した。


『心を入れ替えて、まっとうに生きなさい。もう盗作と不正はしないように』

「くっ」


 カムロは見慣れた天井を見上げながら、ギリギリと歯を食いしばった。ガバッと起き上がると、パソコンの前に座り、ワードを立ち上げる。


「くそっ、バカにしやがって。誰の真似でもない、オリジナルの傑作を書いてやる。そしたら、もう一度、ソフィーの元に戻してくれよ。頼むよ」


 カタカタカタ、カムロは一心不乱にキーボードを叩く。


「ヒゲを剃ったらお隣の天使ちゃんが、ときどきデレて俺をダメ人間にさせてくるのだが。最高傑作だ」


『混ぜたらええってもんちゃうで。オリジナリティーゼロやな』


 うさんくさいエセ関西弁で突っ込まれたが、カムロは気にせずパソコンに向かう。

 カムロはオリジナルの傑作を書き上げることができるのか。それは、神のみぞ知る、のかもしれない。


***


 サナはいつものように、憂鬱な気分で出社した。パソコンを立ち上げ、自社サイトを立ち上げると、いくつもアラートがつく。要注意作家が新作を投稿すると、いち早くお知らせがくるように設定しているのだ。どんよりしながら、カムロの新作をクリックする。


「カムロさんの新作、これか。『陰キャなパクリ作家、異世界転移して現地女性と結婚しようとしたら、神様がイジワルで日本に帰されました。十万ポイント取れたら、また異世界に戻してもらえるらしいので、心を入れ替えてオリジナル小説を書きまーす。オリジナリティはありまーす。カムロ、行きまーす』だって。相変わらずタイトルなっが」


 サナはコーヒーをすすりながら、カムロの新作を読んでいく。


 ふざけたタイトルの割に、真に迫る描写。ダメ男が反省して、好きな女性のために必死でがんばるストーリー。サナの頬を涙が伝った。


 読み終わると、サナはすぐさまネット掲示板の、盗作ウォッチスレを開く。世の中には膨大な作品があるのだけど、ネット民はすぐさまパクリとパクられ作品を見つけ出すのだ。すごい草の根活動なのだ。


 ネット民の書き込みを見ながら、サナは首を傾げた。いつもと様子が違う。


『カムロがオリジナルを書いている、だと』

『いや、そんなわけ、ある、のか?』

『え、カムロ、どうしちゃったの? 心入れ替えた?』


『うそーん』

『ウソ松、乙』

『ありえん』

『ウケる』


『タイトル、捨て身すぎて草』

『ちょっと見直したかも』

『おまいら、騙されるな』

『引き続きウォチよろ』


『今北産業。説明キボンヌ』

『ちょっと、ふっる。やめい』

『禿同』

『いや、ちょっと待って。意外といいんだって。全俺が泣いた』

『ヒャー、読んでみるー』


 ネットの盗作ウォッチスレがざわついている。祭りだ。パクリ四天王カムロの新作が、どうやらオリジナルらしい。しかも、ちょっと泣けるかも的なヤツ。サナは、いつになくすがすがしい気分になる。


「カムロ先生、その調子でがんばってください。願いを叶えてくださった神様、どうもありがとうございます」


 サナは不甲斐ない自分の代わりにカムロを変えてくれたどこぞの神様に、心から祈りを捧げた。



※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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