表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/24

11.王家の影だけど、似顔絵を描いてます

 グレンツェール王国の学院で、似顔絵ハンコが大流行りだ。仕掛け人はもちろんゾーイ。

 学園の友人たちと手紙のやりとりをするときに、スタンプ押したらかわいいよなーと思ったのがきっかけだ。


 スマホのメッセージアプリでスタンプ送る感じのことが、できればなと考えたゾーイ。似顔絵ハンコを作ることにした。似顔絵を描けそうな人物は、既に見つけている。王家の影、ナタリーだ。以前、エーミールから見せてもらった報告書に、ナタリーが描いた貴族の似顔絵が載っていた。シンプルだけど、特徴をつかんでいる絵。ハンコにピッタリなのだ。


 エーミールの了承を得た上で、ナタリーに来てもらう。


「ナタリーの腕を見込んで、お願いしたいことがあるのです。私の似顔絵を描いていただきたいの」


 ナタリーは戸惑っていたようだけど、ゾーイの説明を聞き、快く引き受けてくれた。


「封蝋用の印章ありますでしょう。あれを、似顔絵にして、封筒ではなくて、中の手紙に押したいのです。そしたら、私の顔をすぐ思い出してもらえますもの」


「印章ということは、私の描いた絵をもとに、彫るのですね」

「そうなの、ハンコ職人にお願いしようと思っているのよ。ナタリーが描きやすくて、かつ職人が彫りやすい大きさを決めないといけないわよね」

「ハンコ職人たちに聞いてみます。いくつか見本を作ってみます」


 何日かしたあと、ナタリーがハンコの見本を持ってきた。


「完璧ですわ」

「え、もう?」


 ナタリーが引くぐらい、ゾーイは感激した。机にハンコと、ハンコを押した紙を載せただけで、絶賛だ。一番大きいので、一片が人差し指ぐらいの長さの角ハンコ。一番小さいのは金貨ぐらいの丸ハンコ。大きいのは笑顔や、ウィンクをしているゾーイ。小さいのはデフォルメされたゾーイ。


「これ、全部いただきますわ」

「いえ、そんな。これはまだ見本ですので。ただの木彫りですし」


「これで、十分よ。だってね、ナタリー。木彫りだからこそ、すぐにできたのでしょう。金属だともっと時間かかるわよね」

「その通りです」


「私、予感がしますの。これ、絶対に流行るわ。貴族から注文が殺到すると思うの。木彫りでどんどん作って売っていく方がいいと思うのよね。落ち着いたら、高位貴族から金属ハンコの注文を受ければいいのではないかしら」


 ゾーイの予感は的中した。まず、ゾーイの友人の高位貴族令嬢が飛びついた。


「ゾーイ様。先日いただいたお茶会の招待状。とっても素敵でしたわ。あの似顔絵ってどうされていますの? わたくしも、作ってみたいのです」

「ナタリー画伯が絵を描き、それをハンコ職人が仕上げてくれるのよ」


「紹介してくださいませんか」

「もちろんですわ」


 そんな感じで、あっという間に学園のご令嬢たちが似顔絵ハンコに夢中になった。高位貴族から下位貴族に一瞬で広まり、富豪平民も食いつき、似顔絵ハンコは驚く速さで王都を席巻した。


「ウィンクのハンコ、かわいいですわよね。ハンコの下の一文もキュンときますわ」


 ゾーイはハンコの下にひと言メッセージを添えているのだ。『クッキーはサクサク派です』『ケーキはシットリ派ですの』『猫も犬もどっちも好き』『ピンクを着たいけれど、ピンクの風評被害がまだ……』『寝違えました』など、正直どうでもいい内容だ。でも、お堅い内容の招待状に、一文だけくだけた内容を書くと、距離感が縮まっていいと思っている。


 ご令嬢たちも、招待状の返信に小ネタを書いてくるようになった。『お茶会には縦ロールで行きます』『ピンク、着ます。もういいですわよね』『しっとりチーズケーキをお持ちしますわ』『我が家の猫さまを連れていきます』『しっとりクッキーもお試しあれ』『庭に美しいバラが咲きました』『弟が思春期で大変です』


 お茶会の話題作りにピッタリなので、とてもありがたいと評判だ。


***


 王家の影ナタリー。今は、ナタリー画伯と崇め奉られている。どうしてこうなった。

 それは、もちろんゾーイ様のおかげなのだが。それにしても、それにしてもだ。


「王家の影としてもらっている給料の一年分が、一か月で稼げてしまった」

「人手が足りません。職人を増やさないと。ああー、お金が貯まる一方で使う暇がない。信じられないー」


 ナタリーとハンコ職人たちは、嬉しい悲鳴を上げながら、泣き笑い。猫の手も借りたい、忙しさ。


 ナタリーは、影としての腕は、そこそこだ。突出して秀でたところがない。平均的な影だ。一撃必殺はできないし、一瞬で魅了して情報を聞き出すこともできないし、変装がうまいわけでもない。一生、パッとせず、うだつの上がらない影で終わると思っていたのに。


「ナタリー画伯の絵はね、線が少ないのに、情報量が多いのよ。すごいわよ。人の特徴をとらえるのが上手なんでしょうね。描きこんでいるように見えないのに、その人だって分かるの。天才だわ」


 ゾーイに手放しに褒められて、ナタリーは視線がウロウロしてしまう。もとはと言えば、ゾーイの婚約破棄騒動が始まりだったのだ。


 ナタリー、ついていないことに、あの日が当直だった。そして、ゾーイが断罪されているのを、なすすべなく見守っていた。無能の極み。もう、絶対クビ。そう覚悟していたのに。


 最後の仕事と思って書いた報告書が、ゾーイの目にとまってしまった。断罪中の色んな貴族の表情を、言葉では伝えにくいので絵にしたのだ。まさか、あれが。まさかまさかの連続だ。


 そして、画伯として色んな貴族家に出入りし、似顔絵を描くようになったわけだが。おかげで王家の影のえらい人に褒められてしまった。


「ナタリー画伯のおかげで、どこの貴族家でも入り放題。ナタリー画伯のおつきというテイで影がスルッと入り込める。昇給」

「ええー、本当ですか。ありがとうございます」


「昇給だけではない。ハンコ部を立ち上げることになった。ナタリー画伯が部長だ」

「部長。部長って何をすればいいのでしょう?」

「今まで通り、似顔絵を精力的に描きなさい。絵心のある影を採用していくから、育てなさい」


 部下までできてしまった。


「部長は絵に専念してください。諜報は我々がしますので」

「あ、でも、線の引き方、教えてください。私が描くとゴテゴテしまって」


 とても気の利く、できる部下たちに囲まれてしまった。いいんだろうか。


「ハンコ、画期的です。ハンコのおかげで、ほぼ全貴族の顔と名前が一致するようになりました」

「部長のおかげです。私、なかなか名前と顔が一致させられなくて。苦労していたのです」


 部下たちにとても感謝されて面はゆい。影の最初の仕事は、主要貴族の名前と顔を覚えることだ。ナタリーは、顔はすぐ覚えられるけど、名前は苦労した。


 貴族一覧表の名前の隣に、似顔絵を描いてなんとか覚えていたのだ。その経験が、活きた。


「影がもらう貴族一覧表の名前の横に、小さな似顔絵ハンコを押していこうか」

「高く売れますね」


 部下が目を輝かせている。


「売るか、その分の予算をもらうか、上に相談してみる。影全員に利のあることだから、予算がおりそうな気がする」


 無事、正式な業務となり、予算がおりた。


「他国の分も少しずつ作ってくれ」


 ちゃっかり、業務が上乗せになったが、仕方がない。似顔絵ハンコ、他国からも依頼がくるのだ。


「ハンコ部、これから出張が増えますね」

 部下たちはホクホクした顔で他国の地図を眺めている。


「他国の諜報なんて、選ばれし者の仕事なのに。まさか、やることになるとは」

「他国の諜報専門の影が一緒に行ってくれるらしい。私たちは、まずは似顔絵に集中しよう」


 ナタリーと部下は気を引き締める。ひとつの似顔絵の高評価が、次の依頼を産むのだ。一つひとつの仕事を大切に、地道にコツコツだ。


 こうして、グレンツェール王国の諜報能力は飛躍的に上がっていったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ