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【書籍発売中】断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック発売中)


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10/24

10.エンジニア聖女の仕事と恋と

 さて、つつがなく契約書の調印式が終わり、次の大仕事は、護衛の選抜である。もうね、「目がー、目がー」な状態でございます。どこの歌番組ですかって言いたくなるぐらい、美麗な若者たちがね。そんなキラキラした目で見られるとね、身の置き所がございません。変な汗がダラダラ出る。こんな生活、送れない。心と体に悪い。


「はあー、もう、無理。緊張しちゃって。私、分かりました。おっさんがいいです。おっさん」


 慣れないことをしたもんだから、失礼なことを口走ってしまうユッコであった。


 エンジニア室の、ちょっと枯れかけた、キョドッた感じの、不器用なおっさんが、ユッコの心のオアシスなのだ。もう、若くてキラキラした人は無理な体質になってしまったのだ。


「申し訳ないって思っちゃうし。一緒に並んだときの絵面を想像すると。恥ずか死ぬ」


 ぐはあー。想像してゴロゴロ転がりたい気持ちになる。あのピチピチのお肌に囲まれたならば。自分の毛穴が気になって、仕事が手につかないに決まっている。


 異世界の人たちは、ユッコのおかしな言動をとても大らかに受け止めてくれた。そして、ユッコが一緒にいてもドキドキしない、いい感じに疲れた大人を連れてきてくれた。ありがてえ。


 五人のイケオジたちが護衛を担当してくれることになった。素敵だけど、いい具合に枯れているので、ユッコの心臓が耐えられる感じである。


「皆さんがずっと張りついているわけではないですよね?」


 きっとシフト制だろう、そうだといいな。ビクビクしながら聞いてみる。


「最低ふたりは護衛におつきします。ユッコ様の行動範囲、見られていることによる居心地の悪さ、様々なことを考慮しながら、護衛体制を柔軟に変えていきます」


「すごい人件費ですね。そんな価値が私にあるんでしょうか」


 どこの大統領ですかって、気が引ける。


「ユッコ様。どうか護衛されることに慣れてください。異世界から来られた聖女様は、魔力が多いと知られています。誘拐されて、魔力の強い子どもを作ろうなどとする、ゴミクズがいないとは言い切れません」


 ひゅっ、ユッコの喉が鳴った。


「それは、絶対にイヤです」

「もちろんです。ユッコ様に、指一本触れさせません。ですから、どこに行くにも、必ず護衛を伴ってください。ここはユッコ様の元の世界ほど安全ではありません」


 ユッコはコクコクと頷いた。インドア派のユッコ。格闘技の覚えもなく、足も遅く、どちらかというとドンくさい部類だ。発車のベルが鳴っていても、階段を駆け上がったりしない。さっさと諦めて次の電車を待つタイプだ。大人しく、屈強な護衛に守られていることにする。


 護衛にがっちりガードされて、王宮を移動する。ユッコの仕事は、王都を覆っている結界を強化することらしい。王都の上空を覆っている、ガラスみたいなドーム状の何か。それで魔物の侵入を防いでいるそうだ。ウィルス対策、セキュリティ対策みたいな感じかな。ユッコは少しワクワクして、魔導士たちの職場に入っていった。


「わーファンタジー。いや、社畜?」


 目の下にクマを作った魔導士たちが、魔法陣を書いている。紙に羽ペンで。


「そっかー、魔法陣って羽ペンで手書きなんだ。それは大変だわ」


 書き間違ったら全部やり直しってことかしら。アンドゥで処理取り消しとかないもんね。地獄じゃん。


 一番奥のとても広い部屋で魔導師団長が待っていた。部長って感じの、頼れる雰囲気のオジサマだ。ユッコはホッとした。意識高い系でカタカナ語を羅列する、シュッとした若手社長タイプは気後れするのだ。日本語で言ってほしいなーって思ってしまう。


「ユッコ様。お出迎えに行かず、申し訳ございません。結界にほころびが見つかりまして、原因を調査中なのです」


 黒板に魔法陣の一部が書いてある。きっとそこが問題個所なのだろう。バグって、見つけるの難しいもんね。分かる分かる。例えばそう、大文字が小文字になってたりさ。いらない空白が入ってたりさ。


「ああ、これ、ループになってますね」


 魔法陣も言語フィルターがかかっているらしく、なんとなく意味が読める。魔導師団長がいぶかしげにユッコを見る。ユッコは黒板の魔法陣の隣に、矢印を書いた。


「ここ、処理終わりにすべきところを、また開始になっちゃってませんか。だから延々と処理が続いて次の処理が始まらないんですよ」

「がっ、おっ」


 魔導師団長は奇声を発すると両手を上げ、両手を降ろし、ユッコの手を握りブンブンと振った。


「ありがとうございます。さすが聖女様」

「日本でこういう仕事していましたから。お役に立ててよかったです」


「お恥ずかしい。一日眺めても原因が分からなかったのですが。ユッコ様は一瞬でした」

「そういうものですよ。自分でコード書くと、間違いに気づきにくいんです。他の人がパッと見て、違和感あるところを潰す方が早いんですよね」


「勉強になります」

 魔導師団長に涙ながらに懇願され、ユッコは色んな魔法陣を確認する。


「これはまた。大掛かりな魔法陣ですね。うーん、複雑すぎてよく分からないな」


 ユッコは壁に貼られた巨大な魔法陣を見て、たじろいだ。大きすぎて視界に収まらない。


「ちょっと離れて見てみますね」


 逆側の壁に行って、そこから眺めてみると、なんとなく全体像が分かった。防御の魔法陣のようだ。魔導士たちが期待を込めた目でユッコを見つめている。ユッコは緊張をやわらげるために、手をギュッと握ってパッと開いた。


「どこが問題かまでは分かりませんが、糸口は見えたと思います」


 ユッコは震える手でチョークを握り、黒板に絵を描く。


「ものすごく複雑な魔法陣ですが、基本は三構造だと思います。危険物が防御壁に近づいたら警告を出す。危険物が防御壁にぶつかったら跳ね返し、さらに大きな警告を出す。ぶつかった箇所に魔力を集め、修復をする」


 おおっと室内にどよめきが起こった。


「一つひとつは、それほど難しいことではないはずです。これらの処理を、ひとつの大きな魔法陣で対応しようとするから、問題が難しくなります。ひとつの大きな魔法陣ではなく、処理毎に小さな魔法陣を作り、次の処理に連携する方がいいはずです」


 これは先輩のエンジニアたちに徹底して叩き込まれたことだ。「すげーコードを書こうとするな。誰もが分かる単純なコードが一番いいんだ。それを組み合わせれば、書くのも直すのも楽だからな」って。


「時間と魔力を必要とする大魔法ではなく。簡単に作動できる小魔法を組み合わせて、大きな結果をもたらす、そういうことか。なるほど」


 魔導師団長はパッと明るい表情になった。


「例えばですね、危険物が防御壁に近づいたら、光らせる魔法陣。防御壁に当たったら跳ね返す魔法陣。光って跳ね返ったら警告音を出す魔法陣。ぶつかった箇所に魔力を集める魔法陣。修復する魔法陣。これぐらい分解すれば、簡単で小さな魔法陣にできませんか?」


 ユッコは黒板に小さな円をいくつも書き、つなげて大きな円にする。


「あちらの世界に、曼荼羅というのがあるのですが、強そうでしょう?」

「強そう」

「単純なのに強そう」

「ユッコ様、ありがとうございます。防御をもっと単純で強くできそうです」


 ユッコの胸が熱くなった。エンジニアの皆さん、ありがとう。皆さんの教えが、異世界でも活かせています。すごいです。皆さんのおかげです。ユッコを育ててくれた、全ての諸先輩方の顔が思い浮かぶ。


「よし、あとひとふんばりだ。今日中に終わらせて、今日は家に帰ろう」

 魔導師団長の声に、魔導士たちが歓声を上げる。


 それからも、ユッコはがんばった。自分の持ってるノウハウを異世界用に少しアレンジする。魔導士たちがきっちり家に帰って、仕事とプライベートを両方充実させられたらなって願っている。日本では、権力も能力もなかったから。ここでは、ノブレスなんだもの。オブリージュしなくては。


 恋の方は、少しずつ、慎重に進めている。護衛のリーダー役のイェルクとイイ感じなのだ。きっちり念入りに調査をして、未婚で彼女もいないことは分かっている。


 他の護衛四人と、魔導師団長の協力はとりつけている。みんな、生温かい笑顔で聞いてくれる。


「護衛してるときのピリッとした顔とか目つきとか。すっごくカッコイイ」

「うんうん」


「でも、イェルクさんのちょっとお疲れモードの顔も好きなんですよね」

「ははは」


「必ず扉を開けてくれるんだけど、そのときの肩の動きとか、腕の長さがキュンッとするというか」

「ははあ」


「たまに一緒にごはん食べるんだけど。好きな肉系をワーッて食べて、最後にいやそうに野菜食べるのが、なんかいいなあって」

「へー」


「女性を見た目で差別しないじゃないですか。きれいな人も、そうでない人も、どっちにも適度な距離感があって。紳士だなー」

「ふーん」


「今日こそは、デートに誘います」

「がんばって」


 もう、みんな私のバカ話を聞くのがイヤっぽい。すっごく背中を押してくれた。いけいけって。


「あのー、イェルクさん」

 他の護衛たちがすぐに察して、ほんの少し離れてくれる。


「次の非番の日、デートしませんか」

 離れている護衛たちが、一瞬目をつぶった。ダメだこりゃ、みたいな顔。なんなの、失礼だぞ。


「ユッコ様。ユッコ様に誘わせてしまうなんて。一生の不覚です。もちろん、よろしくお願いします。王都のいい感じの場所を調べておきます」


 イェルクは真っ赤になりながら、真摯に答えてくれた。


「あ、それはもう大丈夫。行きたいところと、デートプランはもう立ててあるんだ。三つ案があるから、どれがいいか選んでください」

「用意周到すぎます」


 イェルクが頭を抱える。


「だって、私エンジニアですから。要件定義と仕様書作成、得意なんですよ」 


 ユッコは準備してきた計画書のひとつを広げる。

「こちらはですね。おいしい日本料理で胃袋をつかんで、乗馬で距離を縮めるぞってやつです」


「わー、全部言っちゃってるー」

「そこは秘めてほしいかもー、男心的にはー」


 外野がうるさいが、ユッコはまるっと無視する。


「ゾーイ様直伝のあちらの料理が食べられるカフェ。支店がついにこちらの国にも来たって言うじゃないですか。楽しみですよね。ここでまず軽くサンドイッチとか食べて。持ち帰りのお弁当買って、乗馬にいきましょう」

「わー」


 イェルクがわーって叫んだ。


「ユッコ様。これは、ふたりだけのときに詰めませんか」

「私たち、ふたりっきりになれること、ありませんよねえ」


 常に護衛がふたり以上ついてるんですけど。どないせいと。


「ユッコ様。魔導士の部屋なら安全ですから。そちらで、おふたりでぜひ」

「俺たち、扉の外で待機してますんで」

「あら、そう? じゃあ、そうしようかしら」


 護衛たちがかわいそうな子を見る目でイェルクをチラ見している。


「ちなみにユッコ様。イェルクの胃袋つかむ料理は、カフェの料理ってことみたいですけど。間違ってないですか? ユッコ様の自慢の料理とかの方がよくないですか?」


「あ、ごめん。私あんまり料理得意じゃないんだ。インスタントラーメンならできるけど。こっちには売ってないしねえ。それに、専門家の料理の方が、おいしいじゃない」

「ええ、まあ、そうですね」

「そう、なのかな」


 護衛たちが首をかしげているが、イェルクがまた、わーって言った。


「大丈夫、大丈夫です。俺、ユッコ様に料理作ってもらおうなんて、そんな図々しいこと思ってませんから。むしろ俺が、俺がいつか何か作りますよ。肉を焼く感じですけど」

「楽しみです」


 みんなのニヤニヤ笑いが最高潮に達した。


 働き者のエンジニア聖女と、堅物護衛の恋が始まりそうである。


 ホワイトな異世界転生、もっと広まるといいな。ユッコは日本の社畜仲間たちにそっとエールを送った。


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― 新着の感想 ―
ホワイト異世界転生、最高です! 少しくたびれてるイケオジ、シゴデキだけどシャイでわーってなっちゃうイケオジ、最高じゃないですか! エンジニア聖女に幸あれ!
良い感じのおじさんとラブラブするの、いい……!! なんというほのぼのした話…(≧∇≦)b
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