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3%の兄と100%の弟

初めまして、kabu10です。(かぶと)と読んでください。

鳥の唐揚げが好物です。自分で作るのが得意です。おすすめはニンニクましまし。

「…たったの3%? テリオス様は100%だというのに、なんという結果か」

「3%なんて誤差にしかすぎないではないか。あまりにも可哀想だ」

「レグランツ家はこれからだというのに…神はあまりにも無慈悲だ」


 儀式の最中であるにも関わらず、周囲からは口々に落胆や失望の声が聞こえてくる。


 この世界では、五歳の誕生日にスキルを授かることができる。『スキルの差と年齢の差は絶対に埋まらない』という諺が庶民にまで浸透しているこの世界において、どのようなスキルを授かるかは、文字通り人生が決まる瞬間と言える。


 昔は十歳以降にスキルが享受されていたそうだが、早々にスキルをもらった方が効率が良いだろうという理由で、今では五歳という若さで人生が決定づけられるようになってしまった。


 一般にスキルは五段階にランク付けされる。最高ランクである神域級から、英雄級、豪傑級、精鋭級、凡人級。弟のテリオスのスキルは【神倒滅却(デイサイド・オリジン)】であり、その効果は〈自身の能力値に各能力値の100%を乗算する〉である。


 この世界において、一部の例外を除き、能力値というのは滅多に上がらないものとされており、鍛錬を積んだ大人と遊んでばかりの子供とを比べても数十程度しか変わらないのが現実である。


 ゆえに、スキルが重要とされる。五歳という若さでスキルを享受することになったのも、努力による成長率が少ないことも一つの要因なのかもしれない。そんな努力が報われにくい世界において、弟のスキルは当然の如く、神域級にランクされた。ある能力値が50だとすると、その100%、つまり50を乗算するため、五歳ながらに2500という馬鹿げた数値に跳ね上がる。これは他の神域級の中でも上澄みの上澄みと言えるだろう。


 一方、テリオスの双子の兄である僕のスキルは【微小増減(アキュムレート)】で、効果は〈あらゆる対象のパラメーターを3%増減させることができる〉というものだった。テリオスとは対照的にザ凡人級である。ある能力値が50であれば、51.5となるものすごいスキルなのだ。なんの努力もなしに、プラス1.5!ワオ!


 ちなみに、庶民の同年代の子達の凡人級のスキルでさえ、5%増加や10%増加以上は珍しくない。凡人級の中でも下層の下層。つまり、僕は生後五年で人生の輝かしいレールから真っ逆さまに落ちたということだ。


「静粛にせよ。我がレグランツ家は伯爵家であり、その武功によって確かな地位を築き上げてきた。これは先代、先々代の英雄級スキルによるところが大きい。本日、テリオスが私と同じ神域級スキルを授かったことは我が家のさらなる発展に寄与することは間違いない。その一方でヘルメスのスキルには凡人級であった。しかし、これは不吉の前兆でも、没落の前触れでもない。道端で家畜の糞を踏みつける程度の事故である。これしきのことでレグランツ家が衰退することなどありえない」


 父、アレイス・ロイ・レグランツ伯爵は、戸惑いなど微塵も感じさせない表情と声色で、周囲を牽制した。この儀式では、周囲の貴族も一同に介し、それぞれの家の力を見定める場でもある。ゆえに、僕のような凡人級スキルが現れてしまうと、それはつまり貴族間のパワーバランスに不均衡を生じさせる要因となり得るのだ。父、アレイスはこの事態をおそれ、瞬時に先ほどの演説をおこなったのだ。そのおかげか、周囲から聞こえる声は揃いも揃って弟の神域級スキルで持ちきりである。


 テリオスは、神域級のスキルを授かった高揚感など微塵も見せず、むしろ罪悪感に押しつぶされそうな顔で僕を見ていた。


「兄様、僕は……」


 縋るようなその瞳は、僕を憐れんでいる。双子の弟である彼は、これまで何をするにも一歩先を行っていた僕を誰よりも尊敬してくれていた。そんな僕が、よりによって自分の百分の一以下の倍率しか持たない凡人に成り下がったことが、彼には耐えられないのだろう。


 いやいや、テリオス。そんな顔をしないでくれ。僕は内心で、ガッツポーズを堪えるのに必死だった。やった……! これで完璧だ。これで『期待の神童』という重荷を弟に丸投げできる!


「……ヘルメス」


 演説を終えた父、アレイスが僕の前に立った。周囲の貴族たちは、まるで腫れ物に触れるような視線を僕に投げかけている。父の瞳は、冷徹な当主としての光を宿していた。


「お前には、レグランツ家としての体面を汚さぬよう、相応の処置を言い渡す。……後ほど、私の書斎へ来なさい」


「……はい、父上」


 僕は殊勝な顔をして頭を下げた。周囲には追放の宣告に聞こえただろう。実際、そうなるはずだ。これからさらなる発展を目指す伯爵家の代表である父が、無能な僕に時間を割くのは周囲から見ると非合理でしかなく、他の貴族からの印象も良くない。つまり、父の意思に限らず、僕をそばに置いておくことはできないということだ。


 だが、僕にとってはこれこそが自由への片道切符。


(あーあ、早く辺境でもどこでもいいから、こんな息苦しい生活から抜け出したいな。のんびり隠居した生活が僕を待っているはずだ。)


 こうして、僕の輝かしかった(はずの)エリート街道は一瞬で崩壊し、史上最高に効率的な隠居生活、FIREへのカウントダウンが始まった。

1週間に5回更新できたら万々歳。応援の程よろしくお願いします。

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