3日目「お父さん」
三限目「お父さん」
しいな様より下された指令・・・お父さんですか・・・う~ん。
このまま、はっちゃけようと思っていたのに、親父かあ・・・急ブレーキをかけざるを得ませんなあ。
エッセイの多投は避けたいと思っていますが、致し方ありません。
やるべきだと私の心が言っている(笑)。
三日目はジャンルエッセイで。
「苦い思い出を振り返れるようになったんだ」
先日実家に行った時のことです。
秋に親父と母がこじまんりとした夫婦の絵画展を行うので、その話題をしていました。
夫婦2人で作った手作り絵画展のポスターを私と奥さんに見せ、
「どれがいい?」
と親父が尋ねてきます。
「どれでも」
と、私。
「こら」
と、奥さん。
「・・・あ、ごめん。どれも昭和みたいな手作り感があってよかっちゃない」
「そう」
と、2人はまんざらでもない様子でした。
ふと、私は思いだしました。
「ほら、親父が大病を患った時に作った絵本があったやん」
「ああ、あれね。お父さん」
「おお、あるぞ下書き。この前でてきた」
「あれ完成してなかった?」
「いんや」
親父が持って来た白い画用紙には、鉛筆で書かれた懐かしい絵がありました。
「ああ、これ」
「そうそう」
「ほら、この絵本、看護師さんや先生にみせて涙を誘ったって」
「それがな俺、覚えてないっちゃん。お母さん、覚えとるか?」
「いや、私も分からん。あの時壮絶やったから」
どうやら、3人とも当時の思いが食い違っています。
この絵本「○○ちゃんの折り鶴」という題名でした。
もう10数年前のことです。
親父が熱烈にやろうとはじめた絵本でした。
○○には姪っ子の名前が入ります。
内容をかいつまんで説明すると、姪っ子が親父の手術の成功を祈って、折り鶴を折って親父に渡します。
親父はその折り鶴を持って手術に挑みました。
手術の最中にその折り鶴が、脳内で舞って思いが通じ、手術が成功し平癒し、最後は皆で喜んで大団円という・・・ベタなお話でした。
親父が絵を描き、私が親父から聞いた話を文にしました。
そして、治ったと思った親父が、病院の人たちに見せて好評を得たという流れだったんですよね。
そのあたりは親父もうっすらと覚えていました。
で、これ完全なるオチがありまして、実は親父治ってなかったんですよね。
しばらくは良かったんですが・・・。
で、親父怒って、この絵本のこと、うやむやになったんですね。
私は気持ち半分、破り捨てたと思っていました。
信じていたのに・・・親父の気持ちは痛いほど分かります。
結局、妹が機転を利かせてくれて東京の虎ノ門病院に勤めるその道の名医をネットで探し、アポをとってもらって、親父と母は思い切って東京での再手術に賭けました。
これが上手く行って現在に至っています。
妹の機転がなかったら、今の元気な親父はないでしょうね。
本当に紙一重だったと思います。
こうやって、あの頃の思い出をなんとなく話せるようになったのは感慨深いです。
こっちから言いだしたんですけどね(汗)。
せっかくの名(迷)絵本でしたから・・・。
「あの時はよか話って思ったんやけどな」
親父が苦笑いして言いました。
「やね」
私は頷きます。
「やけど、あんまし思いだしたくなか」
「やね」
と、父と母。
「そうやったね。ごめん」
と、私は当時の壮絶さを思い謝ります。
前だったら触れないようにしていた、あの出来事が話せるようになったんだと、ちょっぴり嬉しいようなほっとした不思議な気持ちになりました。
今は懐かしくも思えるけど・・・。