ヒロインだけど出番なし☆
「やってらんねぇ」
ヒロインことアリエルは、シャンパングラスを傾けながら独りごちる。
私が乙女ゲームの世界に転生したのは、
ちょうど一年前のこと。
本来なら婚約破棄の場であるはずだが、目の前ではメインヒーローである第一王子と悪役令嬢のセシフィリーネの婚約式が行われている
周囲にはその他のヒーロー達。
皆、が笑顔で祝福している
それを末席から見る私はヒロインだ
ヒロインのはず。
前世の記憶がよみがえり、自分がこの世界のヒロインだと気づいた時、私は思わずガッツポーズをした。
やったー。人生大逆転!
だって、だって。
前世では地味OLで、残業三昧・飲み会不参加・社内恋愛ゼロの生活だった私が!
気づいたらチート美少女設定で異世界転生。
ヒロインで、しかも攻略対象が全員イケメン?
夢あるよねこれ!
シナリオ通り、男爵家の庶子だった私は実家から引き取られ、ウキウキしながら貴族院へ入学。
心のなかではもう、薔薇色の学園生活をフル想像してた。
王子様との運命の出会い、図書館での手が触れ合うイベント、雨の日の屋根下避難とか、王道イベント全部くるでしょ。
——だったのに。
現実は、甘くなかった。
というか、バグってた。
悪役令嬢のセシフィリーネも転生者だったのだ。
しかも彼女、ちっちゃい頃から前世知識をフル活用して、石鹸、化粧水、保存食、水道整備、薬草の量産、教育改革……などなど。
チートもいいところな活躍っぷり。
ゲームでいう「敵役」のはずが、
「国の恩人」ポジションを完全に確立していた。
しかも、公爵令嬢っていう最高クラスの家柄付き。
攻略対象たち?
もちろん全員デロデロです。
誰が見ても「あ、もう惚れてるわこれ」ってレベルでメロメロ。
で、私?
……即・撤退しました。
空気読む女子ですから。
ということで、貴族院では男爵令嬢らしく地味に生活。
マナー?きちんと学びました。
学業?真面目に取り組みました。
髪?控えめに結いましたし、装飾も質素に整えました。
つまり、平穏無事をモットーに一年間を過ごしました。
そりゃ攻略対象たちはイケメンでしたよ?
前世では王子推しだったし?
でも、彼らがセシフィリーネにしか目を向けてないの見て、私は悟った。
「無理ゲーだな」って。
近づいてもイベント起きないどころか、むしろ世界のバグ扱いされてゲームオーバーになりかねない。
前世が地味OLの私にとって、イケメンと話すとか、目を見るとか、もう無理無理無理。
ヒロインなだけあって顔は可愛いんだけどね。
卒業を控えたある日、私は一通の手紙を受け取った。
それは、ほとんど接点のなかった実の親からだった。
内容は、政略結婚の通達。
「卒業後は、42歳の子爵の後妻として嫁げ」
それだけ。あとは日取りと荷物の指示が数行書かれているだけで、そこに私への思いや感情は一切なかった。
いやいやいや
嫌ですよ。
推しのイケメンや、攻略対象イケメン達は諦めたけれど
私さ、ヒロインですよ!
顔面偏差値かなり高いですけど!?
何でオッサンの後妻やねん
しかも、そいつめっちゃ評判悪い奴ですやん。
-ってことで、私はこの国を出ることにした。
幸いなことに、隣国とはいま平和そのもの。
セシフィリーネ様のおかげで、インフラはバッチリ。
水道・道路・治安・貿易、全部整ってる。
しかも、隣国の王子も攻略対象のひとりだったから、あちら側の受け入れ態勢も完璧。
ほんと、セシ様には感謝しかない。
旅の途中で盗賊に襲われたり、聖獣と契約したり、S級冒険者に助けられたりなんて、そんな乙女ゲー的展開はもちろんゼロ。
むしろ、快適。安全。平穏そのもの。
ありがとう水道整備。ありがとう国交正常化。
私は、無事に隣国へと到着し、第二の人生をはじめることになった。
学生時代、真面目に淑女マナーを学んでいたから侍女でもいけるし、
前世の事務職スキルを活かして商家に勤めるのもアリ。
家もないし、過去の立場なんてどうでもいい。
ようやく、自分の人生を自分で選べる。
そう思ってた——のに。
……どうして隣国で7歳年下の第三王子の正妃になってんのかな、私。
ショタタタタッ
【完】