魔王軍と王女 4話
ギャングウルフが俺に目掛けて飛びかかってきた。一応王国で片手剣は買っていたが、攻撃を受ける一方で手に取ることができない。俺は必死に師匠に教えてもらったばかりの初級の火魔術を唱えた。
スズク 「"ファストファイア”」
火力こそ低かったが無事に成功した。ギャングウルフは怯み一瞬スキができた。その間に剣を取り出すことができた。安定せずブレブレの剣だが魔術師の苦手な接近戦をこなせるのでありがたかった。俺はその場で強く踏み込み下から上へ大きく剣を振りかぶった。断ち切ることはできなかったが、見事ギャングウルフの首を切ることができ意外にあっさり一匹倒せた。
スズク 「この調子ならいける。」
しかしそう思ったのもつかの間、奥から他のギャングウルフとはあきらかに格のちがう個体がでてきた。
その個体は周りのギャングウルフはチンピラのような格好をしているのに対し、知性あふれる容姿をしていた。例えるならば、メガネをかけていて読書時間に広辞苑を読んでいた綺麗な七三分けが特徴の真面目くんだ。元の世界の同級生Yくんって子がそうしていたから鮮明にイメージができる。
レイカ 「あれは稀に生まれるメガネ個体だね。オラつく遺伝子に逆らって真面目になったタイプのギャングウルフだ。高い知能を持っていて、群れの中にいるだけで全体の指揮が上がるからとても厄介なんだよ。」
つまり群れのリーダー的存在というわけか。こりゃあ一筋縄じゃいかないな。
そう考えていた瞬間、メガネ個体の首が跳ねられて俺の足元に転がってきた。あまりにも一瞬の出来事で目を疑った。すると横から白髪の天使のように輝いて見える美女が歩いてきた。しかしなにかゾッとするような感覚が襲ってきた。俺の生存本能が言っている。こいつには近づくなと。
レイカ 「このギャングウルフはあなたがやったの?」
なにやってくれてんだ師匠ーーー!
白髪の美女 「あなた誰?私は今気分がいいの。3秒以内に答えて。さもなければ殺すわよ。」
レイカ 「私はレイカ・ギルティア。ただの魔法使いだよ。」
白髪の美女 「ギルティア...どこかで聞いたことがあるような。まあいいわ。あなたのことは許してあげる。その神経の太さと顔くらいは覚えておいてあげるわ。次はないからね。じゃあね。」
そういって白髪の美女は去ろうとしたが...
レイカ 「ちょっと待ってよ。私は名乗ったけどまだあなたの名前を聞いていない。」
呼び止めないでくれよ。本当に余計なことをしないでくれ。
白髪の美女 「ふふっ面白い子ね。私に名前を知りたいのね。あなたの気持ちわかったわ。でも教えてあげな~い。私って~天の邪鬼だから。」
レイカとスズクの心の中 「面倒くせ~!天使のような見た目と違って性格悪いタイプの人間だ。」
こいつ師匠に負けないくらい面倒くさい性格なのでは?この気持ちは二人を敵にまわすから心の奥にしまっておこう。
レイカ 「ケチだな~。もう知らなくてもいいや。興味なくなった。さようなら。」
白髪の美女 「知りたくないの?なら教えてあげる。私って~天の邪鬼だから。」
何度も繰り返すようだがこいつ面倒くさい!超がつくほど面倒くさい!最初っから名乗れよ。あとこいつすごく単純だな。
白髪の美女 「私は魔王直属の幹部でアストラ魔軍ウラヌスだわ。あなたも魔王様に絶対的信仰を。そして信仰するものには救済を。これでわかったかしら?私の凄さと魔王様への愛が。あなたは特別に生かされたのだから恩なら魔王様に言ってください。」
レイカ 「ところでなんだけど、ウラヌスが片手に持っている少女はなに?」
ウラヌス 「なぜ気づいたのかしら?私の光魔法で光学迷彩をかけていたのに。知られたなら隠す必要はないわね。どうせあなたたちは今から死ぬんだし。さようなら。」
ウラヌスの発言後になにもないところから赤髪の少女が現れた。
赤髪って確か王族じゃないのか?つまりウラヌスは王女誘拐をしていたのか。それと師匠のせいで、魔術の実験に来たのになぜかピンチになっている。
ウラヌスはなにか透明なものをレイカに向かって投げた。
レイカ 「残念だけど私には意味ないよ。光でガラスのナイフを見えなくしてもね。私は闇魔法で視界に入る光魔法の光をシャットアウトできるからね。それに私には一切の攻撃が効かないよ。」
レイカ 「シャドーミラー」
レイカの周りを黒いモヤが覆う。
必死になってウラヌスはガラスの結晶を作り出して飛ばしたりしているが...
レイカ 「意味ないよ。今発動したのは私の周りをワープゲートで囲む闇魔術だ。君がいくら攻撃をしようとワープゲートにすべて吸収されて、私に当たらないまま私の正面から後ろへと通りすぎていく。」
ウラヌス 「ならば物理で叩く。」
ウラヌス 「ルパートの滴」
そういうとウラヌスは自分の拳にガラスをまとって殴りかかってきた。
解説しよう。ルパートの滴とは溶融させたガラスを冷水に落として作られた滴形のガラス製の物体。特殊な原理である一点の部分がものすごい強度になっているんだ。ちなみにその部分は20トン近くの力でも壊れないんだとか。
しかし強力なパンチを放ったが拳は空を切った。
レイカ 「物理でも当たらないよ。それに私は君の能力に予想がついてきた。それは小規模な光魔法とガラスを自由自在に作り出すツールだね。それだけでは私に攻撃できないからこの戦いは無意味だね。」
ウラヌス 「ならば玻璃息」
ウラヌスの息から白く綺麗な煙のようなものがでてきた。
ウラヌス 「これは原子レベルで小さい鋭いガラスの粒子だ。息を吸うたびに貴様の肺に入っていき傷つけていく。そして貴様はシャドーミラーを発動していても息を吸えている。つまりすごく小さなものはワープゲートを通すということ。どうだ!」
レイカ 「確かに有効だね。ゴホッゴホッ。でも決定打にはならないね。もう飽きたから死んで。さよなら。」
レイカ 「シャドーミラーカッター」
レイカを覆っていた黒いモヤのようなものがウラヌスに向かって飛んでいった。
ウラヌス 「攻撃を仕掛けてきたか。だが強固なガラスの壁が私を守る」
レイカ 「壁とか関係なく貫通するから。」
抵抗むなしくウラヌスの胴体に黒いモヤが巻きついた。
ウラヌス 「これはなんだ?説明しろ。」
レイカ 「ワープゲートはね入ってるものがある状態でね解除すると、次元の間によって入ってるものが引きちぎれるんだよ。わかるよね。」
師匠は今日一番の笑顔を見せて話している。弟子の俺でも恐ろしく感じるほどに。
ウラヌス 「魔王様があなたを粛清しにくるでしょう─────。」
師匠は魔法を解除した。その結果ウラヌスは上半身と下半身がバラバラになって絶命した。
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