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帰り道の冒険

作者: 汐見かわ


 朝までしとしとと降っていた雨は止み、空はウソみたいに晴れ渡っていた。むわっとしたまとわりつくような空気が体を覆っている。汗が背中を下りていった。 

 図工で使うかもしれないと思い、持って行った絵の具セットは結局使わずに持って帰って来た。ロッカーにはあまり荷物を置いて帰ってはいけませんと先生が言っていたから。

 絵の具セットと長い傘と、水筒と。今日はまるで金曜日かと思うくらいの荷物だなと思った。


「逃げるぞっ」


 同じクラスのイキりキッズ達が僕の側ぎりぎりを走って駆けて行った。

 おかげで持っていた絵の具セットがぶつかり、僕は少しよろけてしまった。

 むっとした。

 あいつらは周りを見ない。僕が歩いているのが見えてなかったのかな。違うな。たぶんいろんなものが見えていないんだ。

 彼らが騒ぐから授業を中断して先生のお説教タイムが始まる。そのまま終業のチャイムが鳴る。今日も算数の授業は途中で終わってしまった。

 彼らがふざけてどこかに行くから教室移動が遅れる。クラスのみんなが遅れる。全員が揃うまで待っていないといけないそうだ。 図工室に行くのが遅れて授業は20分しか出来なかった。図工が一番好きなのに。

 それでも気付いてないもんな。クラスみんなに迷惑をかけていること。 

 イキりキッズ達はこれだから嫌いだ。

 学校からの帰り道に、干からびたミミズをたくさん見かけた。

 まさか午後からこんなに晴れるとは思わなかったのだろう。移動の途中で雨が止んで、隠れる場所もないからそのまま体から水分が抜けたんだ。どこに行こうとしていたのだろう。辺りにはコンクリートの道しかない。

 カラカラに乾いた細いミミズの近くに弱くうねうねと動いているミミズがいた。まだ生きている。

 僕は持っている水筒の水をミミズに少しかけてみた。

 ミミズはビチビチと体をくねらせた。

 忙しなく体を動かして、僕には元気になったよとミミズが喜んでいるように見えた。

 僕は水筒の水を全部ミミズに注いだ。

 側で干からびたミミズももしかすると生き返るかもしれない。

 小さな水溜りの中で、ミミズはビチビチと動いていた。

 地面に落ちた水は小指程の太さの川をつつと作って側溝に落ちた。

 ミミズもそのまま水をたどって側溝に落ちて、ずっとずっと先へ進み、どこへ繋がっているのかまるでわからない道を進む。うねうねと進む。途中で小さな水場を見つけて休憩をして、また進む。

 休憩をしていると、あの時隣りで干からびていたミミズが後からやって来る。


「やあ、どうも。一緒について行っても良いかい」

「おや、生きていたのですね」

「人に助けてもらってね。良い土を探しに新しい土地へ行こうかと」


 ミミズその2が仲間に加わった。

 二匹はずっとくねくねうねうねと進み、やがて川へ出て川から海へ出るに違いない。

 僕が助けたミミズの冒険がこれから始まるんだ。

 家まではあと少し、僕は小走りに駆けた。

 空は抜けるように青く。持っている絵の具セットがからからからと音を立てていた。




2021年6月作成。

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