三鷹とミタカ
三鷹のあの言葉、どんな気持ちで言っていたのだろうか。白上の自殺を見たから神経質になっているだけかもしれないが妙に耳に残って忘れられないのだ。僕はまた隣がいなくなった自分の部屋で考え事をしていた。いや、やはり気のせいではないだろう。あれは三鷹がいじめに反応したほぼ初めての言葉だ。何か意図はあるはずだ。しかしそれを知るにはなぜ今まで黙っていたのかを知る必要があるように思えた。…しばらく考えても答えは出てこなかった。もし相手が白上であったならば何かしらの推理は働いたのだろうが。そもそも三鷹の思考を読もうとしたこと自体初めてなのだ。僕は三鷹にも何か考えていることがあると今初めて気づいたのだ。三鷹が嫌がらないからとかいう適当な理由は僕を三鷹のことについて思考停止させるには充分出会ったようだ。
とにかく明日からは三鷹のことを少し知ろうとしようと決意し、ベットにつく事にした。
今朝は今までに信じられないくらい寝起きが良かった。それに起きる時間も早かったのでいつもとは違い、始業の20分前ほどに学校に来ることにした。前にこの時間に来たのはいつであっただろうか。いや、そもそもそんなことあっただろうか。教室に行くと、三鷹が一人で何か本を読んでいた。個人的にタイムリーな人物に少し驚いたが、でも何だろう三鷹らしい気がする。とりあえず席に着く事にした。クラスに2人だけなのにその2人が前後の席に座るのは少し不自然な気がしたがどうなのだろうか。気にしすぎだろうか。僕は黙ったままが気まずかったのと三鷹と話してみたかったので
「今日なにかテストとかあったっけ。」
とどうでもいいことを三鷹に聞いてみた。三鷹は目を丸くしてこっちを見た後、
「何もないよ」
と小さな震えた声で答えた。それにしても驚きすぎだ。…もしかして僕が来ていたことに気づいてなかったのか?確かに僕が教室を入ってから一回もこっちを見てなかったけど。…どうしよう、会話が終わってしまった。もう天気のことしか話すことがない。そもそも無理に話そうとするのもキモいのか?あーもう、何でこんなこと考えてるんだ僕は。好きな子相手にドギマギする中学生じゃあるまいし。相手は男の三鷹だぞ。いやご時世的に別にそれでも問題ないんだろうけど。いやでも僕はそうじゃないっていうか。ああこんなの考えるのが一番キモい。堂々として話しかければ良いだけなのだ。…何を?それが分からないからこんな事考えてるんだろ本当に!必死に話題を考えた挙句、簡単な答えに気がついた。僕の目は節穴だったのかもしれない。
「…何読んでんの?」
全く色々考えてたのが馬鹿みたいだ。テンプレだろこんな話題。
「……… 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」」
三鷹はまた驚いて固まった後教えてくれた。だから驚きすぎな気がする。しかしどうしよう僕が本を読まないせいかこの後の会話の続け方が分からない。
「面白い?」
「…そう思ってるから読んでる」
そうだよね!じゃなきゃ読まないもんね!
「どこがとか、聞いてもいい?」
「えぇと、特定のシーンとかじゃなくて、全体的にこう、書かれてる人の本質みたいなとことか、王道なのだけれど描き方が秀逸で僕はそこが好きかな。この本、銀河鉄道の夜だけじゃなくて他の短編も一緒に載ってるんだけど「よだかの星」とか特に…」
三鷹は黙ってしまった。それはきっと急に語り出した三鷹に僕が少し驚いてしまったことに気づいたからであろう。話してみて分かったことだが、三鷹は意外と親切な普通の人だ。彼がいじめられているのはただ時の偶然のように思えた。だからこそ気になることはある。三鷹は依然黙ったままで僕の反応を気にして気まずそうにしている。
「ねぇ、何でさ、いつもは黙って何も言わないままなの?」
こんな事をこんな乱暴に扱うべきではないのは分かっている。でも僕には丁寧にこの件を扱う技量も無ければそれに適した立場でもない。こう聞かなければ、僕が三鷹の返答を聞くことは出来ないように思えた。彼を傷つけたくはないが、それはあくまで第二以降の目標で第一には僕は自分の知りたいことを知るために行動しているだけであった。昔の僕ならば、徐々に三鷹との仲を縮めて探るように彼を分析していたかも知れない。白上の死を経てから僕は今というのをこれまでより少し大事にするようになった。興味を持った謎を解き明かせるのならば、三鷹が傷つくかどうかなんて些細なことに思えてしまった。白上のせいで僕は自分が他人に興味がないと実感してしまったのだ。実感してからはよりそういうふうに振り切れたように思う。僕は多くの期待と少しの罪悪感を持って三鷹の答えを待った。三鷹は顔に影を落とし、先程までの困りながらもどこかに嬉しさを兼ねた表情も怒りを含んだ顔に変えて
「別にいいでしょ、何でも」
それは三鷹の拒絶であった。流石に僕は衝動的すぎたようだ。僕の気持ちは多くの罪悪感と少しの落胆に変わっていた。強引にやって失敗したのだから最悪なことをしたのだ。僕は後悔した。ああもうこうなってしまったからにはもっと三鷹を傷付けてでもより強引に口を割らせるしか方法がなくなってしまったじゃないか