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僕は病んでない  作者: モノ脳
白上編
6/13

思考の挙句の道化師

周りからの刺すような視線、自分の身体の輪郭を明確に意識させられるような孤立感。家に帰ってから僕の中では今日の放課後見た夢が何度もフラッシュバックしていた。その度にそれが本当のことであったかのように、何度も僕の胸は痛まった。何を以て絶望を克服するというのだろうか?ふとそんな疑問が僕の中に浮かんだ。つらい状況から抜け出すことを言うのなら、ある意味僕はあの夢を克服したということだ。ではこの胸の痛みは何だ?つらかったことを無かったことにすることを言うのならそれによって得られると白上が言う精神の成長とは何だ?分からないことだらけだ。それでもこの胸の痛みがその成長の要因になるのは確かそうだ。だから僕はあの時、この絶望を克服できたならと思ったのだ。気持ちが悪いほど頭がよく回る。このようなことをよく考えることがさらに僕自身を傷付けることにしかならないと、忘れてしまうことが精神的健康のためには最善だと分かってはいても、考えてしまうのは僕の性なのだろう。


―この痛みは消えるようなものではないのではないか―


ふとそんな考えがよぎった。結局、この胸の痛みは自分の過去や経験がフラッシュバックすることで起きる痛みだ。―僕の場合、それが夢の中の事であるのがややこしいけど―過去は変えられない、である以上この痛みから逃れるためにはその事を忘れるしかない。それを克服と呼ばないのなら、克服とはこの痛みを乗り越えるようなことを言うのではなく、むしろこの痛みを正面から受け止め、痛みを感じながら生きることを覚悟する事を言うのではないか。でもそうならば白上は自身の恋人を殺したというとんでもない後悔によって胸の痛みに今も苛まれているということだ。それでいてああも普通にいられるものだろうか。それに覚悟したところで精神の成長というのが得られるのかも分からない。未だに白上の言っていることが完全に全部理解できる訳ではない。だからそういうのは白上に聞いた方が早いかもしれない。ちょうど明日土曜日は白上とゲームを進める約束をしている。その時に聞けばいい。そう思って僕は寝ることにした。




白上と進めていたゲームをついにクリアした。エンディングはプレイ時間に見合うほどの感動モノであった。現代に二人プレイの長編感動名作というこんなニッチなゲームが発売された事が、そしてそれを僕が遊べたことが中々の奇跡のように思えた。でもそのエンディングを見ている時でさえ、僕は昨日沸いた疑問を白上に聞くことに興味が向いていた。ゲームの感想を少々語り合った後、白上に聞いた。


「この前、白上さんは絶望の克服が好きだと言っていましたけど、そもそも絶望を克服するってどういうことですか。」


「ふむ。どう答えようか。絶望の克服が精神の成長を生むって前も言ったけど、精神の成長に大事なステップが絶望なんだ。もっと言えば、自己否定だよ。今の自分を否定することで少なからず自分を変えようとするだろう?そうして変わろうとする先の自分というのは今絶望を感じているその状況すら受け入れられる強い自分だ。その強い自分に変化することが克服だと僕は思っているよ。」


「そうすれば、絶望している時に感じる孤立感とか心の痛みも感じなくなるんですか?」


「いや、無くならないな。少なくとも僕はだけど。そういう痛みはずっと残り続ける。ただそれに対して自分は変わったのだ。過去の自分とは違うのだと言い訳をして少し痛みを我慢できるようになる。それを繰り返していけば、大体の理不尽には我慢できるほど強くなる。そうして我慢強くなることが僕が求めている精神の成長というものだ。」


白上は僕の疑問にあっさりと答えてしまった。やはりこういうことは白上に聞いた方が早い。そして今また新たに白上に疑問ができた。


「何でそこまでしてそう我慢強くなりたいんですか。」


「さぁ?僕にもよく分からないな。でも強くなりたいと思うのは人として当たり前じゃないか?ただ僕は体よりかは頭を回す方が好きだったし、頭を回し続けた先にあった強さが理不尽を受け入れる強さだった。それだけだと思うよ。」


それを聞いて僕はとある事を思った。まだ白上のことが完全に理解出来たわけではない。今から僕が言うことが当たっているかも分からない。ただ僕は白上にその言葉をぶつけて見たくなった。白上がそれに対してどんな反応をするかを見てみたかった。だから僕は言った。


「白上さん、あなたはただ臆病なだけでしょう?」


僕の口角は無意識に少し上がっていた。

白上君、面倒くさい語りは嫌われるぜ?

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