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僕は病んでない  作者: モノ脳
白上編
2/13

理解と欲求


―は? 殺した?人を?白上さんが?―


頭の中に入ってきた情報は僕を混乱させた。嘘にしては意味が分からなさすぎるし、本当にしても今僕にそれを打ち明ける意味が分からない。しかし意外にも僕の中で事の真偽は早くついた。彼の顔を見て確信したのだった。目の前で僕に向けて口角を上げている白上さんの目にこの告白を嘘として終わらせる気はなかった。白上さんは恐らく嘘をついていない。その上で僕に「目の前に殺人犯がいる状況」を与えて反応を見たいのだろう。彼の少しだけ上がった口角は僕の次の言葉を待っているように思えた。自分でも不思議なほど頭がよく回った。今までにあまり感じた事のない感覚だった。しかしそのよく回った頭でも次の僕の最適な行動は思い浮かばなかった。何をどうすべきかも分からないまま僕は会話を続けた。僕自身浮かんだ数多ある疑問の中でなぜこれが最初に出てきたのかは分からなかったけど。


「それを僕に言って何がしたいんで..す.か?」


自分が震えている声しか出せないことに気づいた。白上さんは軽く笑いながら言った。


「君は僕と同じだと思ったから」


やはり彼は冗談でなく言っているようだった。僕の中で白上さんが殺人犯であることが確かな事実として実感を帯びてきていた。これ以上何かを聞けば白上さんが冗談を言っているという信じたい希望を消してしまうことになるかもしれない。そう思ったことで僕は白上さんは嘘を言っていないという僕の脳の判断を信じきれていないのだと初めて気づいた。僕はもう何も言えなかった。一秒一秒が恐ろしく長く感じた。十数秒が立ち、白上さんが溜め息をついた。僕が何も聞いてこないのを残念そうにしているようだった。溜め息の後、白上さんが話し始めた。


「君、人に興味ないでしょ。」


それは初めての挨拶の時、僕が白上さんの態度に感じた感想であったはずだった。それが今、白上さんから僕に向けて放たれていた。確かに僕は人よりは他人に対する関心が薄い。しかしそれを人に指摘されたことはなかったし、自分でも他人には分からないことだと思っていた。自分の性質を想定外に言い当てられて、少し恐くなった。白上さんは僕の緊張を読み取ったらしく、予想通りといった様子で少し上機嫌になって話を続けた。


「引越しの挨拶の時の君の感情のこもってない声と態度ですぐ勘づいたよ。ああ、興味ないんだろなって。そしたら親近感湧いてきたんだ。話すようになってもこうして一緒にゲームするようになっても君は僕のことをあまり知ろうとしなかったでしょ。今さっきの君の質問みたいに会話の隙間を無くすための話題として質問する事しかなかった。君のその精神性は僕と似通ってると思うんだ。君になら僕の気持ちが分かってくれるかもしれない。そう思ったから話したんだよ。」


白上さんの言っていたことに間違っていることはなかった。白上さんは僕の心が見えていたかのように、これまでの僕の行動原理を理解していた。最初の挨拶の時、僕が感じた変な感覚はやはり親近感であったようだ。自分と他人が似ていると思ったことがこれまでになく、恐らくはそうなのだろうと納得していたあの感覚と同じものをあの時白上さんも感じていたらしい。僕はもう白上さんの言葉に混乱しなくなっていた。白上さんが僕の行動原理を理解しているように僕だって白上さんの気持ちが彼の行動からすぐに分かるのだ。先ほどから僕が白上さんの小さな仕草から彼の気持ちが読めるのも、白上さんと話が合うのもきっとずっと僕たちが互いの気持ちを瞬時に理解できていたからなのだろう。ああもう認めるしかあるまい。()()と僕は似ている。そう結論付けると僕はこれまでの謎が解けた達成感と頭を回し続けていた疲弊感でいっぱいになった。僕にはそれがただ気持ちよく感じられた。僕が白上からの告白の後、最初にこんなことを聞いたのはそれが身の安全よりも何よりも一番気になっていたからであることにも気づいた。自分のことながら分からないことが理解できた喜びは大きかった。一つ疑問が解決すると他の疑問も解決したくなってきていた。その欲求に身を任せるまま、


「僕が警察に通報するとは思わないんですか?」


と聞いた。もう声は震えていなかった。白上は僕の様子を見て少し笑って


「君は通報なんかしないだろ。僕にまだ聞きたいことがあるだろう?君は()()()()()だ。」


もう白上の僕の心を覗くような言葉を何も不思議に感じなかった。そうだ。僕は白上がなぜ殺人をしたのかを聞いていない。客観的に見れば警察に通報することが僕の安全や倫理観のためには最善であるこの状況においても僕には自分の知識欲を満たす事のほうが大事に思えた。白上のような自分と似通っていながら僕の既知の範疇にない存在を目の前から逃すことを僕の頭は許容してくれなかった。

―白上が危害を加えてこないのを確信していたのも理由だろう―僕は自分の口角が上がっていることに気づいた。それもしょうがないことだろう。白上の殺人の理由を理解できれば先程感じた気持ちよさをまた感じられるのだろうから。僕が白上に殺人の理由を聞こうとした時、白上がゲームをやめた時と同じように、惜しみながらも楽しみをとっておくような顔で言った。


「今日はここまでだ。また明日話そう。」


思わず


「何で!」


と言って僕は自分の声の大きさに驚いた。白上は


「もうすぐ大学の後輩が宅飲みにくる。ゲームだってまだ終わらせてないだろ。今日全て話してしまうのはもったいない。」


納得はできなかったが、いつか話してくれるならとその場は引き下がった。


自分の家に戻ると頭の疲れがどっと痛みを持って襲ってきた。興奮していたのも相まって何も考えずしばらくぼーっとしていた。疲れが和らいだ後、一瞬警察に通報することを考えたが、やはり実行する気にはならなかった。僕は学校の宿題など全く忘れたまま眠りについた。

何この書きにくい主人公

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