4 油断と傲慢
明けましておめでとうございます。
暫く投稿が途絶えておりました。少し休もうと思い寝かしていたら気づいたら年が明けておりました。
またゆるりと投稿していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
大隊に戻ると大隊司令が伝令を走らせ、各中隊長、大隊幕僚が直ぐに会議室に呼び出された。
早速大隊司令が下達事項を伝え始める。
「今週の任務について下達する。今週は第832中隊が国境警備当番に当たっている。本日午後移動し、明日朝上番となるため確実に移動せよ」
「承知しました」
「さて、予定されていたワーレン丘陵における魔獣の計画掃討についてだが、今週の水曜日より開始することとなった。戦闘車連隊からは本大隊を以て当たる事となった。ついては1中隊は残留し内勤、3,4,5中隊及び幕僚班は付官指揮の下ワーレン丘陵に赴き掃討作戦を実施せよ。幕僚班については大隊幕僚より主席幕僚及び三名を選出しこれに充てよ。指名については主席幕僚所定とする」
4中隊長が挙手し、述べる
「本作戦における最高司令官は付官殿という認識でよろしいでしょうか」
「その認識で間違いない」
「付官殿は着任から日が浅く、戦闘車に関してこれから学ばれると伺っております。そのような方が司令官というのは些か不安が大きいのですが」
馬鹿にされている。ミューラー自身付官として赴任する前には幕僚として他の戦闘車連隊に在籍していたのである。都市近郊の部隊であり国境や危険度の高い魔獣の生息域から離れた部隊に居たため出撃経験は無い。現状実戦経験を持つ戦闘車部隊は全68個連隊中第8連隊含めアルヴァーラ樹海及びワーレン丘陵付近に展開する6個連隊しかない。士官、下士官、兵員、どこをとっても実戦経験を持つ者など一握りでしかない。その一握りである彼らは今一握りでない自分を冷笑している。馬鹿にされている。どいつもこいつも……
目の前に司令の手が伸びた。我知らず前のめりになっていたようだ。それを見て明らかに冷笑する面々が見えまた前のめりになりそうになる。
「言葉を慎め」
低い司令の声が流れた。
「来たばかりの彼がいきなり作戦を受け持つことを不安視するのは分かる。だが彼も戦闘車部隊の指揮官としてこれまで務めてきている。それに、指揮官を支えるのが貴官らの役割だろう。それを馬鹿にするとは何事か。貴官らのモールは飾りか?」
会議室が静まりかえる。暫くして、
「我々の思慮が不足しておりました。失礼しました」
主席幕僚が述べた。
「次はない。心得よ。時間が勿体ないのでこの話に関しては後日改めて行う。では、今回の駆除作戦対象について幕僚から」
エルネストが立ち上がった。
「今回の駆除対象は尖角獣の群れで予想される群れの総数は800頭程度です。現在の被害としてはアルヴァーラ周辺の集落が荒らされておりますが現在人的被害は出ておりません。しかしながら群れの規模が目撃の度に拡大しており、尖角獣はやり過ごすことが出来れば安全ですが一度凶暴化すると手が着けられなくなるため駆除要請が出ました」
尖角獣は大型の鹿のような生物だ。雑食性で大きくなると100Kgを超える個体も居る。基本的には穏やかだが一度刺激すると一気に凶暴化する。たちが悪いことに奴らは群れ全体が一斉に襲いかかってくるのだ。ただでさえ体が大きく名前の通り鋭く長い角を持つ連中だ。下手な手出しは自殺行為である。討伐作戦等で落ちた角は市場では高値で取引される。それを目当てに密猟を試みる者も居るが大抵は帰らぬ者となる。
「……彼らが起こす魔法現象に関しては角を投射してくるもの、これに関しては更に直ぐに魔法で角を生やして飛ばしてくることが確認されています。また、これらの他に法撃に対する防御魔法の存在も確認されています。私からは以上です」
そう、こいつら、こういう仕様らしく……。なんで法撃が効かない仕様なんだよ……。にしても……。
「以降は付官、幕僚及び参加中隊長に関しては作戦立案を実施せよ。他は行動準備にかかれ」
暫くすると作戦地図と各中隊の戦闘車の仕様書が展開された。
「ただいまより尖角獣討伐作戦の作戦会議を開始する。私は本作戦で指揮を執る、第八戦闘車大隊司令付、フリッツ・フォン・ミューラー陸軍少佐だ。私にとっては初の実戦だがよろしく頼む。さて、今回の目標の尖角獣についてだが、私は何分実戦経験がなく何が最も致命的な攻撃になるのか分からないので、実戦経験豊富な貴官らにご教授願いたい」
おもむろに手許に資料を出す。
「まずは先程の尖角獣についての発表の中で何故炎弾による攻撃の話がなかったのか。その話から伺おうか」
ここに来ることが分かった時点である程度どんな魔獣に対する戦闘をすることになるのか、調べてんだわ。更に前任者が作ってくれていた申し送りの中には大量なノートに実施した作戦内容の詳細を書き記したものもあったのだ。
着任初日から大暴れはしたくないが、しかし、おかしい。会議で適当な発表など論外である。経験上、計画出撃なら一月は猶予があるはずである。しかも、資料を作成したのが幕僚である以上、今日尖角獣の話が出るのは知り得たはず。
この隊では何が起っているのか。