2α着任挨拶ー司令たちの場合
お読み頂きありがとうございます。不定期投稿ではありますが、2週に一本は投稿するようにしたいとおもっております。よろしくお願いします。
ヘットナー少将は着任した83大隊付官の着任挨拶を受けていた。
(これはまた癖の強い奴を送ってきたな……しかもこじらせた状態で送ってきやがって……)
本人に先立って身上書が送られてきているヘットナーとしてはなんとなくミューラーの心情が見えているのである。
「私が第八戦闘車連隊司令、コンラート・フォン・ヘットナー少将だ。あなたにとっては思うところが多いとは思うがこれからよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
声音が強ばったのを見逃すほど間抜けではない。案の定拗らせている。隠そうとはしたのだろうが全く隠れていない。これをあの変人デュッケの所に投げ込むと何が起るか分かったもんじゃないがまあそこはデュッケのことだから上手くやるだろう。変人だが優しさと懐の広さは持ち合わせている奴だ。
事務的な次項を数点話して下がらせるとヘットナーの付官が現れた。
「随分と突き放されるのですね」
「不貞腐れてる奴に何を言っても無駄だからな」
「ご自身の経験ですか?」
「何を言う、私は希望と高い意欲を胸に意気揚々と着任したんだ」
「絶望と無気力を連れて不貞腐れて挨拶すら適当にやった、が正解でしょうが。ともあれ彼からしたら司令と対立してたら突然変人の巣窟と名高い中央軍とは名ばかりの辺境守備隊に送られたと言う所でしょうか」
「まあ、そうだろうな。その程度しか情報が出ていないというのは良いことだ」
「良いこと……なのでしょうか」
「この部隊の特性上中身がばれてもらっては困る」
「まあそうですがそうも言ってられないでしょう。そのせいで定期的にひねくれすぎて使い物にならなくなった奴が来るのは大いに問題です。ただでさえ人手不足なんですよ。なのに審査を突破出来た数少ない人まで……」
「落ち着け。飛ばされたくらいでひねくれて使い物にならなくなるような奴はその程度だったと言うことだ。うちは本部の開発実験隊とは違って戦闘部隊なんだ。この連隊がここに居る意義は何を隠し持ってるか分からない奴が国境にいるという事実にあるということは何度も言ってるだろう」
「分かりました。ですが……この人手不足はどうするんですか。特に下士官不足は問題ですよ」
「それは……どうしようかねえ……妙案はないかい?」
「無いですねえ……」
彼らの興味は新しい83大隊の付官から人手不足への対応へと流れていった。
その頃、83大隊司令のデュッケのもとには83大隊幕僚、エルネスティが来ていた。
「どうだった?」
「やはり左遷と感じているようです。まあ、仕方ないでしょう」
「どうなると思う?」
「勤め上げると思いますよ。変にプライドは高い奴ですが、まあ丸くなるかと。案外強かな奴ですし」
「士官学校では留年したんだっけか?」
「ええ。1年留年です。でもなんだかんだと生き残っていました。士官になってからはもっと揉まれたようなので生きていけると思いますよ」
「そうか」
「はい。では私は付官を呼びに向かいますのでこれにて失礼させて頂きます」
エルネスティが帰るとデュッケは手許の書類を持って立ち上がった。
「さて、彼がこれを見たときどう思うかな?」
付官室の鍵を開け、書類庫にそれをなおした。新しく来る彼はそれを見てくれるだろうか。