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十二話 宝石の重さ

瓦礫の山から宝石化したおばあちゃんを引きずり出す頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。


「……重っ。これ絶対、人間の重さじゃないよね」


宝石化した身体は、見た目の割に異様にずっしりとしていた。

私とミノルだけではピクリとも動かない程の重さ。


「無事だと思いたいけど、生きてるとも死んでるとも言えない……」


ミノルが宝石の肌にそっと手を触れる。


「『最盛と再生(さいせいとさいせい)』の反応なし。今のおばあちゃんは生命として認識されてない可能性が高いな」


私はおばあちゃんの顔を覗き込む。

驚いたまま固まった表情。

助けを求める暇すらなかったのだろう。


「……治す方法はないの?」


「分からない……けど、能力の始祖であるエンプレスなら、何か知ってるかも」


「始祖ってどういう意味?……まぁつまり、能力のことなら一番詳しいエンプレスに聞くのが一番ってことね!!ミノルはエンプレスがどこにいるのか知ってる?」


「この前一緒にプール行った時にもちょっと話したけど、エンプレスはソラリスにいる筈だよ」


なるほど。

エンプレスに会うためにはソラリスに接触が必要。

つまり、話の通じないミルククラッドのような使徒達と戦闘になる可能性が高い。


「……私、探すよエンプレスを。おばあちゃんを助けたいし、ソラリスの危険さをエンプレスに分かってもらわなきゃ」


自らソラリスと接触することを決めたものの、意志と反して手足は震える。

怖い。恐ろしい。


能力を持っている。

何度も戦いを潜り抜けた。

とはいえ、普通の中学二年生なのだ。


「正直に言うよ」


ミノルが私の肩を掴む。


「僕は文楽に戦ってほしくない。今まで無事でいられたのは運が良かっただけだと思うし、むしろ能力を持ってるせいで危険な目に巻き込まれてると思う」


「……」


「……元はと言えば、能力を発現させたのはエンプレスだ。助けてもらったこともあるけど、ソラリスにいる今のエンプレスは敵かもしれない」


私はエンプレスを味方だと思ってるけど、何を考えているかはよく分からない。

だったらエンプレスに直接聞けばいい。


ソラリスには駄菓子屋のおばあちゃんの宝石化を解除した後、ちゃんと謝ってもらう。


私だけだと少し不安だから、正直ミノルにはついてきて欲しいけど。


「ごめんミノル。それでも私……いや、我は行くぞ!!”鬼火纏いの燐”に恐れる物は無い!!」


私とソラリスとの戦いが始まる。


--


白い回廊は、音を吸い込むように静まり返っていた。


壁も床も天井もすべてが同じ色。

光を拒まず、しかし温度を感じさせない白。


ミルククラッドは、その中心を歩いていた。


(……おかしい)


歩調を乱すことなく、思考だけが微かに波立つ。

ローブに付着していたはずの返り血が跡形もなく消えている。


(あの時、あの子ども達の救済は完了したはず。私の神通力にて確かに子ども達の境界は世界と同化した)


違和感を覚えつつも歩調が乱れることはない。


回廊の奥。

光が屈折する祭壇の前で、ミルククラッドは正座する。


「――教祖様」


後ろで正座をしている大量の信者達は、誰一人身動き一つせずに静寂を保っている。

コツ、コツと足音が響いた後に、祭壇の奥から人影が現れた。


それは人間の形をしていながら、肌の一部が金属のように鈍く光り、別の部分は結晶のように透き通っている。


ファルサ石川。


ソラリスの教祖。


「報告を」


声は低く、落ち着いている。


怖くはない。

恐ろしくはない。

ただ、粛々とした振る舞い。


「はい。駄菓子屋にて教祖様の救済痕を確認した後、神通力『幽濁の接触(ミルククラッド)』により、二名──神通力を持つ中学生と思しき個体を救済しました」


ファルサ石川は頷く。


「入信の誘いは?」


「勿論です。しかし、どうやら悩まれているようでしたので救済して差し上げました──ただ」


ミルククラッドは、一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「使徒【ミルククラッド】どうした。私の顔を見ろ」


白い床から目が離せない。

いや、頭が、身体が動かせないのだ。


祭壇の奥から、ひょこっと幼い女の子が顔を覗かせた。


「お父様に隠し事があるのかなー?動けないんでしょ?」


「……」


脂汗を流しながら、頭に全力を込めて前を向く。


ほくそ笑む少女は石川めぐみ。


──ファルサ石川の娘。


「──申し訳ございません。ローブに付着していた血痕が消えていたため、救済が漏れている可能性を考えられます」


その瞬間。


カツン、と乾いた音が回廊に響いた。


ファルサ石川の指先が自らの腕を軽く叩いた音だった。


「中学生の神通力について詳しく話せ」


「はい。中学生二名は"文楽"、"ミノル"と呼び合っていました。ミノルの神通力は恐らく"触れた対象の傷の状態"を戻し、文楽は"骸と炎"を玩具のように扱っておりました」


「それだけか?」


ミルククラッドは小さく頷く。

先ほどと違い、身体は意のままに動く。


「──それだけで使徒【ミルククラッド】の救済から逃げおおせるとは思えん。何か()()()がある」


ファルサ石川は、ゆっくりと歩き出す。

歩くたび、宝石が擦れるような、金属が軋むような音が混ざる。


「"悩みは人間の未熟さから生まれる"。ソラリスの障害となれば排除するまでのこと。ご苦労だった使徒【ミルククラッド】」


身体が軽い。

教祖様に私の心は救われた。


--


使徒【ミルククラッド】の報告の最中、信者達に紛れてエンプレスはいた。


(身体が動かない。あの少女は石川めぐみか──変わった能力だ)


湧き上がる好奇心を抑えて観察に徹する。


(石川めぐみやファルサ石川、少し硬いがミルククラッドも問題なく動けている)


眼球だけを動かして周囲を見渡す。

周囲の信者は、膝の上に置いた指先を曲げたり、まばたきをしているため、動こうと思えばいつでも動ける状態に見える。


──私だけ能力を受けている?

多くの信者が集う中、何故私だけ?


(石川めぐみはミルククラッドに集中しているようだし、有象無象の信者の中から、私だけを狙うとは考えにくい。今、この場にいる全員が能力の対象となっていると考える方が自然だ)


使徒や信者達と私の違いは──


能力の仕組みに気が付いたエンプレスは、口角は上がらなかったがニヤリとした。


──信仰心の有無。

これが、石川めぐみの能力を紐解く鍵だ。


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