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2nd Stage

 翌日、朝食を済ませると近くのスーパーでのバイトに行くために玄関から外へ出た。


 ドアを閉めて鍵を掛けていると、隣の部屋の住人と顔を合わせることになった。数日前にコーポに入居したばかりというその男は、事務所主催のお笑いライブで何度も目にしているピン芸人だ。


「おっ、赤井か。これからバイト?」

「そうだけど。根来ライ(ねくライ)は何のバイトをしているの?」

「バイトっていうけど、何でそんなことを聞くんだ」


 話しているうちに、相手と気まずい状況になりそうなので挨拶をしてからバイト先へ向かうことにした。


「俺のバイト先はあいつにも伝えているのに、なぜあいつはバイト先のことを言わないのだろうか」


 芸人なのに愛想のない根来の態度は、お笑いライブの楽屋でもしばしば見受けられるのでそんなに不思議ではない。


 そんな根来が隣人になる事実を初めて知ったのは、今から数日前のことだ。バイト先から帰ってコーポの自分の部屋へ行こうとすると、隣の部屋に引越し業者が2人がかりで荷物を持って入る様子に気づいた。


「誰が入ってくるのだろうか?」


 ほのかな期待を抱いていたその時、隣の部屋へ入ってきたのは根来その人だ。よりによって馬の合わない芸人が隣人になるとは……。


 しかも、俺が暮らす事故物件の部屋とは違い、隣の部屋は通常通りの月6万円の家賃となっている。


「やっぱり、訳あり物件だったのがまずかったのかも……」


 今さら後悔しても後の祭りだと思う。当分の間は、彼とは穏便に接したほうがよさそうだ。




 地下鉄の新宿駅で相方の赤沢と出会うと、お笑いライブが開催される歌舞伎町のホールへ向かっていた。


 その途中で、赤沢から気になる一言をつぶやいた。


「なあ赤井、ちょっと聞きたいんだけど」

「どうしたんだ」

「あんな芸人のどこが面白いのか……」


 赤沢が言うその芸人は、お笑いライブで漫談を案じていても客の反応がいまいちというのが芸人たちの間で知られていた。それが、いつの間にかお客さんの間で高い人気を誇るようになったのが気に入らないようだ。


「根来ライのことか?」

「そうだよ。根来のことを陰で悪口を言っている芸人もいるから、評判はかなり悪いけどね」


 いつになく苛立っている赤沢の姿に、俺は黙ったままで相方の言うことを聞き流している。


 人々が行き交う中、俺たち2人は急ぎ足でホールのある歌舞伎町のビルの中へ入った。ここは、お笑いライブに適した80席ほどのホールだ。


 楽屋へ入ると、そこには俺たちと同じように出番を待つ芸人たちの姿があった。その中には、お笑い新人大賞で優勝した笑ジャックの2人もいた。


 笑ジャックから発せられるオーラは、まるで俺たちとは別世界にいるかのようだ。それに引き換え、俺たちのようにお笑い新人大賞に出ても予選落ちだと人気芸人への道は夢のまた夢と言われても仕方がない。

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