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胃から突き上げそうになるのを堪え、今の内に移動を決心する。
記憶を手繰り寄せ、浮かび上がったのはサウスのロビー。
妙に手の力が強い黒い男に連れられ、白衣の連中と、火傷した男に向かって投げ飛ばされた場所。
皮膚を持たないロボットが、そのフロアには居た。
床を恐る恐る這い、扉の外に出ようとした所、また忙しない足音が真上から聞こえてくる。
ターシャは再び、階段下の奥へ身を隠した。
僅かに覗いてみると、慌てて扉に消え去ったのはあの黒い男だ。
まだ上には人が居るだろう。
この階段を使って下りて来るのだろうか。
ならば、出払うまで身を潜めておくべきか。
体調の異変から、そう素早く動ける状態ではない。
焼却現場の妙な臭いによる不快感を、少しでも落ち着かせようと蹲る。
留まっていて正解だった。
またしても駆け下りる音が響き始め、意識を集中する。
今度は、アマンダを自分の型だと言っていた男だ。
「ビルとレアールをサウスへ移動させてくれ!
ウェストの製造機に居る。
2人が移動したらジェレクを頼む。
俺は負傷者に回る!」
こちらを気にせず、電話を手に走り去った。
ターシャは再び、静まり返った薄暗い階段下で安堵の息を漏らす。
(アマンダ…)
会いたい。
アンドロイドと知りながらも、これまでを見ていると、どうしても放っておけない気持ちになる。
墓石の前で祈っていた際、そこに本人が居なかった事を思うと、返して欲しいと思ってしまう。
脳内では、あの真っ暗で機械音がしていた部屋で耳にした、3人の歪な発言が巡っている。
また、この先のロビーで聞いた、女の言葉も。
一体何故、奴等はもっと正しく力を発揮できなかったのか。
「っ!」
鋭い頭痛がし、考えるのを止めようと首を振る。
そのせいで、眩暈が微かに起きた。
やはり、いつまでもここに居る訳にはいかない。
恐る恐る這い出て立ち上がるが、立ち眩みが起き、再び膝を付いてしまう。
船の元へ向かう。
ここから何が何でも出て、助けを求めよう。
アマンダや、他の故人をどうするか、警察と決められるだろうか。
ターシャはフラフラとドアに近付き、気配を確かめながら扉を開く。
妙な咳に喉を痛めながら、冷たい床を忍び足で駆けた。
向かうは、サウスの船着場。
その船を、何としてでも動かしてやる。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。