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過去描写 ※2300字
明日より、元のターシャとのシーンに戻ります
現段階で治療困難であっても、未来で治癒の可能性が見えた時に向け、人体冷凍保存の論理までもがある。
人は、人をその様に扱う事を考えつく。
不可能だ、異常だなどと言われていても、その追求は、誰かが何処かで続けているだろう。
それにより、ヒントは生まれ続ける。
何れそのヒントが拾われ、また別の人間が開拓しようと試みる。
この世に人間が存在する限り、それは続くのではないか。
人の尊厳とは、倫理観とは一体何なのか、行き着かない答えを求めようとする所もまた、人が引いていく原因だった。
今、当たり前になっている事が、以前は否定されていた事なんて山程ある。
いつか自分も、誰かの希望や夢、願いを、叶えられる存在になりたかった。
矛盾を嫌いながら、矛盾を生み出す我々人間。
都合良く理由をつけ、この先もより良い未来に向けてと言いながら、あらゆる開発をし続けるだろう。
自分の防腐処理方法で、本人と呼ぶに最も近い状態を生み出したい。
また会いたいという願いを、今よりも更に質の良い状態で可能にしたい。
家族は、私の思考を不安に思うばかりだった。
働く事が不向きで、早く家庭に入れと言う始末。
こうも懸命になるのは、何も自分の為だけではなかった。
表舞台で戦いながら傷付く友人や、自身の能力を押し殺して生きる彼を、私が頑張る事で何とかしたかった。
しかし、私の行動は冒涜か。
声は、突然出なくなった。
一般と並ぶ考えを持ち続けられない私は、そんなにも厄介か。
ならば死んでやる。
幾度となく、そんな気持ちに駆られた。
しかしその度に過るのは、友人の顔だった。
お互い誰かの役に立とうにも成果が出ず、思いつめる中、何とか日々を共に生きた。
変わり者の私に、笑って寄り添ってくれていたその存在は、ブレーキになっていた。
でも、状況の都合から友人に打ち明けにくい事もあった。
そんな時、彼の元を訪れ、感情や経験を只管打ち明けた。
それまで話した事も無かった、希望する研究の事。
それに対して浴びせられた言葉。
厳しい業界で苦しむ中、せめて、私と彼の役に立てればと呟いた友人の事も。
彼は、じっと聞いてくれた。
― AIやロボットを使うの、流行ってきてるでしょ?
脳を作ろうとしてる話もあるんだって。
長く生きる為にって、人が考えてるのよ?
いつかこの先、永遠の命や復活って、有り得そうじゃない?
例えば、綺麗に保持されて眠る姿じゃなくて、起きられる日がもし来るなら、凄いわね。
AIの技術がもっと発展すれば、ただのロボットなんて事も言えなくなるんじゃないかしら ―
― ……?
ははっ!初めて聞くよ、そんな発想……
けど、先の想像をするのは嫌いじゃないよ……
違った考えや着眼点は必要さ…発見する為には…
…でも…人と違っている事は…
なかなか聞いては貰えない…
君は凄いよ…… ―
友人と同じで、彼も私を否定しなかった。
初めて会ったのは、彼が自宅の庭でロボットを動かしていた時。
その能力や、ロボットそのものに惹かれ、通い詰めるようになる。
私や友人に似て、どこか疲れている顔をしていた。
目をフラフラさせて自信が無さそうに、間をもって話す。
何か不安なのだろうが、清涼感がある声には真っ直ぐさも感じられた。
そこに重なる笑みは、本当に優しい。
最後に見た、忘れられない姿だ。
そんな彼が、急に数週間も不在にし、友人と共に心配する日々が続いた。
後にやっと再会した時は、その変わり様に動揺した。
顔付きも口調も、体も豹変し、私を怒鳴って突き放すまでになった。
その際に知った彼の失業、そこで垣間見えた家族関係にも、心底絶望した。
変わり果てた彼はまた、不在になる。
放っておけず、在宅していないかどうかを見に通い続ける傍ら、友人が自傷行為を続けてしまい、帰らぬ人となった。
“また会おう”のテキストに気付いたのは、何時間も経ってから。
友人宅で、その死を目の当たりにした晩、過ったのは他の誰でもない、彼の顔。
勢いで飛び出し、夜道を駆けた。
友人の職場は、以前よりその身に起きていた虐めや誹謗中傷に対し、結局懸命に取り合う事をしなかった。
私はそれに噛み付いた事もあるが、状況は変わらず。
とうとう、彼女のブレーキになれなかった。
悉く何もできない自分を悔やみ、怒りは治まらなくなった。
大切な2人が身を置く環境や、周囲の人間が憎く、許せなくなり、感情の整理がつけられなくなっていった。
泣きながら彼の元へ駆け付けた時もまた、最悪だった。
しかし、奇跡的なものでもあった。
彼もまた、ここから去ろうとしていたのだ。
黒いワゴンを横に、真っ黒な姿で、目深に被るキャップの下から、鋭い目を私に向けて。
そこに搬入されている物が何か、企んでいる事が何か、言われなくとも直ぐに気付いた。
彼は、いつか私が口走った想像を、独り、試そうとしていた。
知らぬ間に、大罪を犯すまでになってしまっていた。
私の発言が、その後押しをしたのだ。
彼は半壊し、別人に豹変した上、海上の持ち場へ完全に身を移そうとしている。
大切な2人の消失を背に、結局何もしてもらえないこんな所で、独り生きろと言うのかと、激しく怒鳴った。
どうか連れて行ってと、ただただ懇願した。
泣いて縋る私を、彼は幾度となく拒んだ。
その最中、友人の死を告げると、突き放そうとする手は止まった。
2人はたった1度切りの対面に終わり、その死の衝撃は大きかった。
お互い、碌でもない人生を送る中、やっと出会った理解者だ。
落ちるならば、一緒がよかった。
誰よりも、傍に居たいと思った。
自分のせいであるからこそ、熱望した。
ただ、彼にとっては予定外の事だった。
― …………最終判断には………絶対従え…… ―
Yesと言わねば突き放されていたであろう、未だ不明瞭な約束。
仲間が増えた今、アンドロイドを含め全員が、それを胸に留めている。
それに首を縦に振った瞬間から、私達は始まった。
………
……
…
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




