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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#07. Cracking 処分
88/189

[14]




過去描写 ※2300字

明日より、元のターシャとのシーンに戻ります







 現段階で治療困難であっても、未来で治癒の可能性が見えた時に向け、人体冷凍保存の論理までもがある。

人は、人をその様に扱う事を考えつく。

不可能だ、異常だなどと言われていても、その追求は、誰かが何処かで続けているだろう。

それにより、ヒントは生まれ続ける。

何れそのヒントが拾われ、また別の人間が開拓しようと試みる。

この世に人間が存在する限り、それは続くのではないか。

人の尊厳とは、倫理観とは一体何なのか、行き着かない答えを求めようとする所もまた、人が引いていく原因だった。




 今、当たり前になっている事が、以前は否定されていた事なんて山程ある。

いつか自分も、誰かの希望や夢、願いを、叶えられる存在になりたかった。




 矛盾を嫌いながら、矛盾を生み出す我々人間。

都合良く理由をつけ、この先もより良い未来に向けてと言いながら、あらゆる開発をし続けるだろう。




 自分の防腐処理方法で、本人と呼ぶに最も近い状態を生み出したい。

また会いたいという願いを、今よりも更に質の良い状態で可能にしたい。




 家族は、私の思考を不安に思うばかりだった。

働く事が不向きで、早く家庭に入れと言う始末。






 こうも懸命になるのは、何も自分の為だけではなかった。

表舞台で戦いながら傷付く友人や、自身の能力を押し殺して生きる彼を、私が頑張る事で何とかしたかった。

しかし、私の行動は冒涜か。

声は、突然出なくなった。




 一般と並ぶ考えを持ち続けられない私は、そんなにも厄介か。

ならば死んでやる。




幾度となく、そんな気持ちに駆られた。

しかしその度に過るのは、友人の顔だった。




お互い誰かの役に立とうにも成果が出ず、思いつめる中、何とか日々を共に生きた。

変わり者の私に、笑って寄り添ってくれていたその存在は、ブレーキになっていた。






 でも、状況の都合から友人に打ち明けにくい事もあった。

そんな時、彼の元を訪れ、感情や経験を只管打ち明けた。




それまで話した事も無かった、希望する研究の事。

それに対して浴びせられた言葉。

厳しい業界で苦しむ中、せめて、私と彼の役に立てればと呟いた友人の事も。

彼は、じっと聞いてくれた。






― AIやロボットを使うの、流行ってきてるでしょ?

脳を作ろうとしてる話もあるんだって。

長く生きる為にって、人が考えてるのよ?

いつかこの先、永遠の命や復活って、有り得そうじゃない?

例えば、綺麗に保持されて眠る姿じゃなくて、起きられる日がもし来るなら、凄いわね。

AIの技術がもっと発展すれば、ただのロボットなんて事も言えなくなるんじゃないかしら ―




― ……?

ははっ!初めて聞くよ、そんな発想……

けど、先の想像をするのは嫌いじゃないよ……

違った考えや着眼点は必要さ…発見する為には…

…でも…人と違っている事は…

なかなか聞いては貰えない…

君は凄いよ…… ―






 友人と同じで、彼も私を否定しなかった。




初めて会ったのは、彼が自宅の庭でロボットを動かしていた時。

その能力や、ロボットそのものに惹かれ、通い詰めるようになる。




私や友人に似て、どこか疲れている顔をしていた。

目をフラフラさせて自信が無さそうに、間をもって話す。

何か不安なのだろうが、清涼感がある声には真っ直ぐさも感じられた。

そこに重なる笑みは、本当に優しい。

最後に見た、忘れられない姿だ。




 そんな彼が、急に数週間も不在にし、友人と共に心配する日々が続いた。

後にやっと再会した時は、その変わり様に動揺した。

顔付きも口調も、体も豹変し、私を怒鳴って突き放すまでになった。

その際に知った彼の失業、そこで垣間見えた家族関係にも、心底絶望した。






 変わり果てた彼はまた、不在になる。

放っておけず、在宅していないかどうかを見に通い続ける傍ら、友人が自傷行為を続けてしまい、帰らぬ人となった。




“また会おう”のテキストに気付いたのは、何時間も経ってから。




友人宅で、その死を目の当たりにした晩、過ったのは他の誰でもない、彼の顔。

勢いで飛び出し、夜道を駆けた。






 友人の職場は、以前よりその身に起きていた虐めや誹謗中傷に対し、結局懸命に取り合う事をしなかった。

私はそれに噛み付いた事もあるが、状況は変わらず。

とうとう、彼女のブレーキになれなかった。




 悉く何もできない自分を悔やみ、怒りは治まらなくなった。

大切な2人が身を置く環境や、周囲の人間が憎く、許せなくなり、感情の整理がつけられなくなっていった。






 泣きながら彼の元へ駆け付けた時もまた、最悪だった。

しかし、奇跡的なものでもあった。

彼もまた、ここから去ろうとしていたのだ。

黒いワゴンを横に、真っ黒な姿で、目深に被るキャップの下から、鋭い目を私に向けて。






 そこに搬入されている物が何か、企んでいる事が何か、言われなくとも直ぐに気付いた。

彼は、いつか私が口走った想像を、独り、試そうとしていた。

知らぬ間に、大罪を犯すまでになってしまっていた。

私の発言が、その後押しをしたのだ。




 彼は半壊し、別人に豹変した上、海上の持ち場へ完全に身を移そうとしている。

大切な2人の消失を背に、結局何もしてもらえないこんな所で、独り生きろと言うのかと、激しく怒鳴った。

どうか連れて行ってと、ただただ懇願した。




 泣いて縋る私を、彼は幾度となく拒んだ。

その最中、友人の死を告げると、突き放そうとする手は止まった。

2人はたった1度切りの対面に終わり、その死の衝撃は大きかった。




 お互い、碌でもない人生を送る中、やっと出会った理解者だ。

落ちるならば、一緒がよかった。

誰よりも、傍に居たいと思った。

自分のせいであるからこそ、熱望した。




ただ、彼にとっては予定外の事だった。



― …………最終判断には………絶対従え…… ―



Yesと言わねば突き放されていたであろう、未だ不明瞭な約束。

仲間が増えた今、アンドロイドを含め全員が、それを胸に留めている。

それに首を縦に振った瞬間から、私達は始まった。




………


……










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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― 新着の感想 ―
[一言] コールドスリープもこのテーマを考えた時、過ったなぁ。 友人が否定しなかった事こそが大切なんですね。 なのに如何して彼は変わったのだろう? ロボットに熱中する余りかな? 彼だけが堕ちてしまう…
[良い点] レイシャの過去の闇深さ。 それが、どこか現実社会の抱える闇と重なり合う。 そんな心理描写が描かれていると感じました。 [一言] 現実社会の抱える闇。 物書きさんも同様で、人と違う発想を持っ…
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