[13]
8/28, 29 レイシャの過去をお送りします
※2100字前後。
…
……
………
解剖医であり、エンバーマーの資格取得に励む中、製薬会社で研究職勤めだった。
― 何でよ!
遺体を冷凍保存からエンバーミングに切り替えて、恒久的に保存されてる例がある!
毎度そちらがお求めのものをこうして挙げてるのに、今度は何!? ―
化学的、外科医学的技術を通して追求され、誕生した遺体保存方法。
長きに渡って遺体を安置する為に、医学、生理学の知識の上で処理を施す。
死後変化を遅延、抑止し、生前の健全であった頃に近付け、遺族の心理的負担を緩和するといった理由等から誕生した技術。
私はそれを、高く評価していた。
しかし、上司や周囲の人間は、人体に強い興味を持つ私と考えが大きく違っていた。
“それに関しては当時、その遺体に対する考え方が、今の我々と違っていた事も大きい。
偉大な存在であり、その姿を失くしてしまわず、残しておきたいという希望がその時、多数派であった事から許された。
それには未だに膨大な維持費もかけられている。
仮に一般人に適用しても、非現実的だ。
そもそも受け入れられないだろう?
火葬もしくは埋葬して別れる。それが普通だ”
私だって別に、馬鹿ではなかった。
だが、思考が違う故に変わり者呼ばわりされる私が提示する案に、実績を作る機会を持たせてもらえない事が殆どだった。
― 人体の仕組みが実際に見られる教育的意義があり、実物の人体パーツを展示公開していた例もある。
私が希望する新薬の研究は、過去を上回るより美しい人体を表現できる可能性がある ―
“調べたんなら分かるな?
それは、情報開示不十分で実施中取り止めになってる。
幾ら仮に許可や意思表示があったとは言え、多くの議論が生まれ、開催しても畳まれた。
考えろ。
一体どこの研究施設が、そんな難題のあった世界にわざわざ足を突っ込むと思う。
お前はうちの看板に傷をつけたいのか?
現段階のエンバーミング技術で十分だ!
死者を何だと思ってる。
大人しく持ち場で医薬品の研究だけしてろ!
人体の維持なんて、他が専門的にやってる!
うちは結構だ。忙しいから退け”
新しい遺体保持方法を広めたく、署名集めも試した。
周囲が旧式に囚われている様に感じていた私は、時代に応じた新技術を生み出し、新たな当たり前を作りたかった。
しかし、人に話して回っても、誰も聞く耳を持たなかった。
その殆どの理由は、死者に対し、偏屈な拘りを持つと噂される私だからだ。
“何で死体にあんな拘るの?気持ち悪い。どうかしてる”
“あいつのせいで、研究者や科学者が変人呼ばわりされんだ。
止めてもらいたいぜ、異常だろ。
そんなに死人が好きなら墓場に住みゃいい”
“自分もそうして維持されたいってお望みか?
今でも見ていて痛々しいのに、残られてもな”
“言われた事をしてりゃ楽な会社なのに。
ああも周りに合わせられないんじゃ、転職しても無理でしょう”
“聞いた?死んだ人をいつか起こせるって発言。
防腐処理技術を最初に生み出した人、気の毒ね。
教育環境を疑う。どんな生き方してんだか”
日々、聞こえるのはそんな声だ。
それらによる恐怖と苦痛は過度なストレスになり、体は勝手に動悸と震えを起こす様になった。
それでも、強気を必死に保った。
― 最初に言った、何十年と安置されているその遺体に施している事が、納得できないの。
プラスチックなんかにパーツを殆ど入れ替えてる。
皮膚だって。
それは本人とは実に呼び難い姿だわ。
なのにいつになっても維持費をかけ、安置してる。
周囲はそれを受け入れ、好奇心から見に訪れ、感動までしてる。
私が提案する保持方法の研究が成功したならば、パーツ交換をより最小限に留められ、より本人に近い状態で安置できる可能性が高い。
それは別に、医師や科学者といった専門職の為にだって活用できるはずよ!
それが成功した先の未来では、起こせる可能性だって見えてくる!
永遠に生きる事や、長生きの為の研究や論理を生み出す事は、他の科学者だってやってる事だわ! ―
“ほら見ろ。
また死者を起こせるだのとほざくだろ。
お前が持ち掛けるものを受け入れ、実績を作った暁にはこちらが訴えられちまう!
いいか、遺体の公開に感動する者がいるからと言って、その復活を求めるまでは、無い。
死んだらそれまでだ!
ゾンビ映画の観過ぎか?ったく。
道理を弁えろ!何度言わせる!技術は賢く使え!
人体を玩具みたく弄り回す事ばかり考えるな!”
― 冗談でしょ…!?
今のは既存の技術を侮辱する発言だわ!
人が真剣に考えて作り出しているものに、そんな言い方は無いわ! ―
上司はいつだって、私が視界に入ればまともに目も合わせようとしなかった。
己の仕事を進めながら片手間に返答し、私が去るのを待ち望んでいるのだ。
“お前に言ってるんだ。今回の執着は最悪だな!
いいか、死んだら冥界に魂が昇る。
この世に居場所は無い。
起こしたところでロボット。結局本人じゃない。
まともな案を持ってこられないなら辞めてもらう!
その、人体に対する思考や行動は、冒涜に値するぞ!
数日保持された状態で対面する、それで世間は満足してんだ!
もういいだろう、出てけ!耳障りだ!”
世の中そういうものだと、いつか受け入れてやっていけるのだろうか。
そんな自分を想像できなかった。
適応力や忍耐力が無いと、家族からも言われるばかり。
昔から、人が見る方向の逆側が気になってしまう。
それをしないように努力しても、上手くいかず偏屈呼ばわりをされ続けた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




