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ウェスト1階ロビー
ガラス扉の下の角から、中庭の激戦を窺うターシャ
ターシャは、保安官達の速過ぎる激しい戦いに目を奪われていた所、忙しないヒールの音が接近してきた。
「あんたも羨ましい程に運が良いのねぇ」
苛立ちながらスマートフォンをダイヤルする。
レイシャを目にしたターシャは、慌てて立ち上がり、逃げようとした。
しかし、あっさり右腕を取られてしまう。
「とっととウェストロビーに来て!」
例の戻ったばかりの部下に怒鳴り、通話は断たれた。
銃声は未だ轟き、直ぐ傍のガラス扉付近に火花を散らす。
どうやらレアールが、2体に固定されたシャルを横から更に攻撃した様だ。
レイシャは舌打ちすると、銃弾を避ける為、ターシャの腕を掴んだまま、ガラス扉横の壁に身を隠した。
ターシャは宙で抵抗する左腕も拘束され、解こうと必死に体を揺さぶり続ける。
「放してこの悪魔っ!
あんた達なんか地獄に落ちろっ!」
「楽しみねぇ!
天国だ地獄だ、そんなものが実在するのかしら」
レイシャは彼女を手前に引き寄せると、激しく壁に叩きつけた。
痛く、悲惨でたまらない状況に、ターシャは声にならない涙が伝う。
「あら、お家が恋しくなったかしら?」
冷酷な目でレイシャは揶揄った。
「よくも人の体を引っ掻き回したわねっ!
何て残酷なのっ!許さないからっ!」
「我々技術者にしてみれば造作も無い事よ。
大体、今更許しも理解も結構。
うざったいから寧ろしてくれるなっ!」
レイシャは、その小さな背に体重をかけ、押さえ付ける。
ターシャは怒りを滲ませながら、掴まれる腕を揺さぶり、抵抗し続けた。
「どうかしてるわ!
あんたの仲間が死んでも、同じ事ができるの!?
あんたがこんな事してるって知って、悲しむ人が居ないなんて事、無い筈でしょ!」
レイシャの鋭い目は一層細まり、揺れる。
彼女の視界に寸秒、血に塗れた両手が過る。
それを追う様に涙の悲鳴が轟いては、消えた。
「生意気に心に語り掛けるの?
言ったでしょう。
そちらさんと一緒にしないで頂戴。
己の言う事が、生きてきた環境が、他も同じであると当然の様にほざいてんじゃないわ」
ターシャは壁に押し付けられ苦しむ中、更に怒りに震え、顔を突っ伏す。
「どうせ貴方がたは倫理的問題だの、人の尊厳がどうだの、法律がどうだのと並べ立てるんでしょう?
ああ美しい事この上ないわ!
大層ご立派ねぇ!」
彼女がターシャを押し付ける力は、見る見る増していく。
「で?
それらの思考が一体何を助け、守り、生み出してくれてるってのよっ!?
結局何をしてくれたのよっ!」
じわじわと声を張り、最後には怒りに語気を強め、震える。
次第にその顔は崩れ始めた。
浮かび上がる、大切な2人の笑顔。
失われ、豹変した。
警察を含め彼等を取り巻いていた環境が、人間が、家族が、悉く憎たらしい。
それを払う様に、大きく顔を背ける。
動悸は高鳴り、周囲の音を消し始めた。
来る。
溢れ出す悔いと痛みに、息が震えた。
(私は…彼等は…沢山尽くした筈だ…
体が壊れても……なのに…)
視界は闇により収縮する。
最悪の過去の入り口が開くと、急激に嵩張りながら、流れた。
………
……
…
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




