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#01. Access 搬送
上層部から与えられた任務を行う、本拠地の保安官である。
その為に必要な特別動作も組み込まれた、現時点においても十分と言って良い存在だ。
#05. Error 誤搬送
反吐が出る程下らなかった職員は、この手で変換し、配下にした。
もう、横槍を入れ、封じようとする者は居ない。
他のRには無い保安官のスキル。
一体いつ、どこで発揮するのか。
どこまで意味があるのかと、疑問に思う部下達も居た。
そんな彼等も、今やスポーツ観戦の如く、大人しくなった保安官達に窓から釘付けになっている。
「ははっ…」
補佐2人の肩が跳ねた。
突如耳に飛び込んだ、笑い声。
振り返ると、ヘンリーから沸々と笑いが漏れ始めた。
2人は目を剥き、動揺する。
損壊が激しく、見るに堪えない容姿に変わり果てたシャルが、面白くてならない。
また、実に攻撃的な仕上がりを見せる後の3体に、もっと殺れという感情が滾っている。
その笑いはまるで子どもを思わせ、止まらず、この上なく奇妙に楽しさを見せ、声は地面を軽々と転がる様だ。
今に限らず、彼はふとした瞬間、まるで時が止まっていると思わせる程に、幼い顔を浮かべる時があった。
「……ヘンリー、おい…」
1人で急に爆笑し続ける彼に、イーサンが流石に止めようとその肩に触れる。
レイシャは数秒それを凝視し、青褪め、恐怖と心痛に手を震わせながらその背に触れる。
しかし未だ、彼の異常は止まらない。
そんな中、器用に煙草の火だけは消している。
保安官のしぶとい仕上がりにもまたご満悦か。
顔を突っ伏し、挙句の果てに腹まで抱えて笑っている。
脇の2人は冷や汗を流し、焦った。
レイシャは只管、治まれと願う様に、丸くなる彼の背を擦り続ける。
焦りと恐怖が、彼女の呼吸を勝手に忙しなくさせていた。
乗せている手は、冷たく震えている。
この最悪の現象は、シャルに防腐処理を手掛けた時以来だった。
初めて目の当たりにしたその時こそ、恐ろしくてならず、彼女は泣きながら彼を止めた。
今はまだ、感情を抑えられている。
それでもやはり、耐えられないものがあった。
許せない。
彼の真っ直ぐで堂々とした笑顔はもう、二度と見られないのか。
目から零れそうになるものを堪え、未だ笑いに項垂れ揺れ続ける黒い背中に覆い被さる様に圧し掛かると、顔を埋めた。
イーサンは囁く様に彼を呼びながら、見えない何処かに落ち続ける彼を引き上げる様に、意識を向けさせようと背中を叩いていた。
2人の声など、今の彼には一切聞こえていない。
それは2人も分かっていたが、何もしない訳にもいかない。
数分笑い続けて気が済んだのか、やっと上体を起こし始める。
それと同時に、寄り添っていた2人は離れた。
彼は未だ微かに笑いを零しながら顔を上げ、再び下のモニターを続ける。
静まりはしたが、額から汗が滲み、こめかみを伝う。
彼自身もまた、己を止めようとどこかで藻掻いていたのだろうか。
虚ろな目は、まだ光の流れを残す彼女を捉えていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




