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「止めてっ!放してっ!」
「押さえてろ!」
研究員達に強引にステンレス台に乗せられ、四肢を押さえ込まれる。
目の前ではシリンジが光った。
「これが使いもんになったら俺も昇格っ!」
「お前図に乗りすぎだろ…何も反省してねぇな…」
「あんたは無理!トップを軽く見過ぎ!」
3人の会話の中、ターシャは怒号を放ちながら首を激しく振り、近付く針管を避ける。
だが首を強引に掴まれ、左側に無理矢理倒され固定された。
「放してえええーっ!」
その叫び声に引き込まれる様に、壁が凄まじい勢いで破壊された。
立ち込める砂煙の中、隣からシャルが現れ、ターシャの両足を押さえる男を左横に激しく凪払う。
声を放つ間も無く男は壁に激突し、床に突っ伏し激痛の悲鳴を轟かせた。
後の研究員が金切り声を上げると、ターシャから手が解かれ、シャルは彼女を胴体からあっさり引き上げ、肩に担ぐ。
その背にビルが掴みかかるも、彼女は激しく振り返る遠心力で払い除けた。
そのまま右足で彼の胸部、腹部、寸秒置き左足で右横面目を蹴り飛ばす。
その間もターシャは目を閉じ、絶叫は止まない。
「おいシャル連れてくな!そいつは俺のだぞ!」
「私が連れて行く」
シャルは移動しては部屋のドアを蹴破り、廊下を疾走した。
「阿保かあいつは!」
シリンジを持ったまま、男の怒号が飛んだ。
「ひゃああ!ちょっと!腕が!救援呼んで!」
ビルは部屋を飛び出す直前で足を止め、女の涙ぐむ悲鳴を振り返る。
シャルが凪払った男の左肩が脱臼し、開放骨折が生じていた。
「退けと行ったぞ」
彼は目を逸らすと2秒、どこか一点を見て静止。
その後、シャルを追った。
焼却室ではイーサンとレイシャが、部下達の動きを見ていた。
彼等は焼却準備と防護体勢を整え、補佐2人の脇にも、最低レベルの防護服とガスマスクが抱えられている。
シャルが停止後、直に接触して対応する部下達には、呼吸器を背負ったまま保護される高レベルの防護服が纏われていた。
そこへ、2人のスマートフォンが振動する。
「マズイ…怪我させやがった…」
つい声を震わせて呟いたイーサンに、辺りを駆け回る数名が足を止める。
「………シャルに絶対近付かないで!」
レイシャは冷や汗混じりに周囲に放つと、表情を一層険しくさせ、救援指示の連絡を入れ始めた。
薄暗い焼却室には、完璧な耐火設備が整っている。
消火剤や、水を張ったバケツも有事に備え、激しい緊張が犇めいていた。
彼等の防護服越しに立つ騒ぎ声が、シールドを曇らせる。
シャルの歪な破局的忘却は、ターシャをヘンリーの元へ運ぶ事に一層執着させていた。
その為ならば、仲間であれ関係無く、阻止するものは排除する判断に切り替わっている。
その影響で怪我人が出た事に、レイシャもイーサンも青褪めていた。
ビルの情報によると、間も無く彼女はサウスの中間フロアから連絡橋を通過する。
その先は、焼却室があるウェストへ到達する。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




