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シャルは、ビルに強引に投げ込まれた流れで床を前転し、立ち上がる。
彼女が頭から突き破ったそこは、薬剤室。
ビルは、正面で揺れる破損したドアをシャルに向けて蹴り飛ばすが、即、凪払われた。
突入し、攻め寄ると、彼女の左腕を左手で引っ掴む。
全握力が加わり切るまでに、呆気なく袖から腕が抜かれた。
彼女は横1回転しレザージャケットを脱ぐと、裾を握ったままになるビルを右手で引き寄せ、腹を左足で1発蹴る。
彼は反動に数歩下がるも、袖を握ったまま立位を保つ。
衝撃でジャケットが中央から半端に裂けたが、引き千切れる前に彼女ごと引き寄せた。
距離が瞬時に縮まり、彼女の後ろ首を右手で掴み手前に引き寄せ、屈折させる。
そのまま腹に左膝で打撃。
顔を引き上げ、その手で顔面に右拳を飛ばす。
その反動で、彼女は隣で歪んで横転していたステンレス台に吹っ飛んだ。
彼は、仰向けになった彼女の胸部に間髪入れず右踵を落とすも、足首がロックされた。
彼女が起き上がると同時に後方に押しやられ、背後から転倒。
しかし早いリカバリーで即、身構える。
左横から彼女の蹴りが横面目掛けて飛び込むが、左手首で瞬時に阻止。
流れでその右足首を引っ掴んでは、あらぬ方向へ捻り、金属音を立てる。
だがその捻りは足先で抵抗され、数秒軋み音が上がる中、見合った状態で止まる。
彼女は右足を解放すべく、左手で彼の胸倉を掴み、引き寄せて頭突きした。
彼は首が仰け反ると同時に、後方へ転倒。
掴まれていた彼女の足首は解放される。
首は容易く復旧し、彼は床に両腕を付くと、左足で彼女の下顎を高々蹴り上げた。
その顎先は仰け反るも、バランスは瞬時に確保され、彼女は立位を保つ。
前で中腰になる彼の右横面に左足を振り入れる所、透かさず制御され、固定。
彼は、その手を彼女の左膝に手早く持ち替え抱えると、引き寄せた。
その後、ハンマー投げの如く左側の薬台に向かってスイングし、投げ飛ばす。
床一面が薬剤とガラスに塗れる中、彼女は背を向けた状態で立ち上がる。
襟首を掴まれる寸前、その手を右手で掴み、止めた。
そのまま後方の彼の胸倉を左手で掴むと、手前に引き込み、背負い投げの如く振り下ろす。
ガラス破片が散乱する床に彼は叩き込まれ、剥き出す肌に複数刺さった。
彼が身を起こす最中、彼女は額を踏み、叩きつける。
更に首に掴みかかろうとした所、鼻の間近をガラス片が過り、躱す。
彼は床に飛散していたそれを左手で拾い上げ、起き上がりながら素早く襲いかかる。
早い切り付けは宙に残像を残し、刃先は彼女の喉元にやっと僅かに触れた。
直線を引かれた皮膚からは、銀の光を微かに見せる。
彼は直立姿勢になると、更に目にも留まらぬ速さで乱雑に切り付け続けた。
その全てを華麗に躱す彼女は隙を見て、その手を肘から掴んで折り上げ、外側に大きく捻り倒す。
だがそれは反対の手で透かさず復旧され、彼女は髪を掴まれると、転倒しているステンレス棚に顔面から叩きつけられた。
強引に俯せにさせられ、そのまま、頸椎、胸椎、腰椎と流れる様に既定の3か所を激しく手刀打ちされる。
軋み音は上がり続けるが、彼女は一向に静止する気配は無く、寧ろ殺意を思わせる動作速度は上昇する。
ターシャは激しく連続的に起こる乱闘音に縮み上がり、耳を塞いで呼吸を荒げていた。
このまま逃げ切ろうと向きを変え、必死に立ち上がろうとした時―
「ひゃあああっ!」
背後から研究員に首を掴まれ、通過していた部屋に一気に引き込まれた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




