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エレベーターで2体と合流する。
ジェレクは、ミラーレンズのサングラスを光らせていた。
視線の先では忙しない指使いに、細かい銃声と衝撃音が鳴り響く。
ヘンリーはターシャを掴み直しながら、ジワジワと首を傾げ、彼に目を細める。
「………何の任務だ…」
「ワールドトーナメントで報酬を頂く。
その為にレベル、タイム、キル数、何もかもトップになって、スペックを上げる。
バトルロイヤル、リーグマッチ、ランクマッチで只管勝ち抜く。
チーム戦はウザい。
どいつもこいつも使いモンにならねぇくれぇ雑魚。
あいつ等、ゲームに向いてないぜ。
ソロで抜けるのが絶対的」
ヘンリーは、自分の部下にふと呆れる。
冷ややかで引き攣る表情は、ターシャと被っていた。
扉が開き、乗り込むなりターシャの抵抗で屋内が揺れる。
レアールがそれを振り返ると、彼女の脛を思い切り蹴った。
悲鳴が上がり、一瞬にしてその場が静まる。
「脚使いがなってないわね。
バタつかせるだなんて、見苦しいわよ」
ヘンリーは、早く着けと胸で囁きながら、階数表示を見上げた。
1階に着くと強引に下ろされ、2体はそのまま外へ消え去る。
ヘンリーはターシャを掴んだまま、更に直進。
ロビーに着くなり、ターシャは悲鳴を上げた。
真っ白で青白い照明が射し込むそこは、ゼロ達が数体行き来する空間。
書類やコンピューターを扱うそれらは、上の階で見た時とは全く動きが違っており、穏やかだった。
ターシャは怒りに歯を鳴らしながら、その情景に時折目を瞑る。
背後で掴まれる手に力が込められ、鬱血を感じ、麻痺もしてきた。
奥へ続く薄暗い通路を突き進み、冷えた重いドアが放たれる。
そこ一帯は灰色の空間で、排気ガスの臭いと人の声がした。
3人の研究員は、突如現れたヘンリーに肩を大きく跳ね上げ、つい声を上げる。
「トッ…!?」
彼とは数える程しか対面した事のない彼等の顔色は、豹変する。
厳つい目付きとオーラに、帰還したその馬鹿はつい後退った。
その震える体に向け、ヘンリーはターシャを投げ飛ばす。
「てめぇの女だ…対応しろ…」
「はあっ!?」
悍ましい表情から僅かに笑みを見せると、足早に彼は立ち去った。
脇で立ち尽くしていた仲間1人が口笛を鳴らす。
ヘンリーから監督を仲介し、ここに留まる様に言われていた。
この場で殺されると勝手に思い込み、精神が不安定になっていた所である。
だが、予想外の展開に興奮し、ターシャを掴みながら震えた。
そこへ、血相を変えた女が接近する。
「あんた何!?ほんとお騒が……
それ、あたしの服じゃないのよ!」
「ちびってやがる...」
その横に立っていた男が真顔で呟く。
「ちょっと!人の服になにしてくれんのよ!」
女は癇癪を上げ、ターシャの肩を激しく押しやった。
背後で掴まれていた腕に力を加えられると、男から安堵の笑い声がした。
「いいぜやってやる!治験だ!
新規の抗ウィルス剤試そうぜ!」
3人は、自分達の持ち場へターシャを連れ去った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




