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「不採用だ……
ここに来るのは屍か…協力者のみ……
お前は生きた屍……対象外にも程がある……
スペックも低過ぎてアンドロイドにする価値も無い……
治験対象になるか…嫌ならそいつと勝手に焼却炉に入れ……」
その言葉に、シャルが僅かに伏せていた目を上げた。
レイシャは眉を顰め、落ち着きを取り戻していたイーサンは顔を強張らせる。
その傍らでターシャは、アンドロイドというワードに硬直する。
「メンテの余地は無い…
シャルロット・デイヴィス、お前はここまでだ…
焼却実行に入れ」
最後は、補佐2人に目配せしながら強く放った。
初めてのアンドロイドの処分。
これまでメンテナンスで維持してきており、処分の選択はした事が無い。
イーサンは、不安な目をヘンリーに向けた。
保安官には、予備バッテリーと予備データ基盤を複数仕込んでいるからだ。
「…い…いいのか?そんな急に」
しかし、その声に覆い被さる様に、ヘンリーは鋭い威嚇の目を向けた。
嫌悪に満ちた黒い双眸は、先程イーサンを落ち着かせた者とは思えない。
その豹変に、彼は喉を縛られる様な感覚に陥る。
直ぐさま、レイシャが慌てて彼を呼び、静かに首を振って否定する。
それはまるで、何も通じやしないと言う様だった。
2人は少々混乱しながら、部屋を飛び出した。
「ここに連れて来る任務は正式に完了した。
処分理由は無い」
シャルの淡々とした意見に、彼の様子は一層変わり始める。
「…クソみてぇに半端な忘却喰らいやがって……
イかれたなぁ……
最後まで貴様はっ………
面倒なっ………」
彼の瞼は失い、徐々に呼吸を荒げ始めた。
ジリジリと厭悪し、体が小刻みに震える。
大きくなる鼓動は体内に響き、視界を揺らした。
そこに何が見えているのか、誰にも捉えられない。
振動する見開かれた目は、彼女に憎悪を滾らせている。
次第に汗が滲み始めると、急に黒い左肘に掴みかかり、爪を立てた。
目は細まり、まるで激痛に耐える様子の中、荒くなる息までも抑えようとしている。
その間ずっと、シャルから目を逸らす事は無い。
「他の任務がある。私は戻る。
そいつが逃げた時、また連れ戻す」
「ほっつき歩いてろっ……
最後に試してやるっ……
抗ってっ……見せてみろっ……
その崩れるザマっ……もう一編っ…
見てやるよっ……!」
彼女の成れの果てを想像しているのか、身に犇めく痛みを堪え、小さく笑いを含ませながら放った。
何かに取り憑かれた様に、瞳孔は開いている。
ターシャが見ている事など、彼からは抜け落ちていた。
「このままその発作が続けば、長くは立っていられないわ。
そもそも以前から安定していない。
だから誤った判断をしてしまう。
大人しく寝る事ね」
「っ!?」
発言に吠え飛ばしかけた時、金縛りが起きた。
視界は霞み、声が出せない。
彼は、ただ彼女が立ち去るのを見届ける事しかできなかった。
人の体を細かく分析するアンドロイド。
それもまた、組織の1つの理想だった。
立ち去った彼女は、彼に体調の危機を報せたまでである。
しかし、彼はそれを穏やかに受け取る事ができなかった。
ターシャは、酷い言葉を放たれていながら平然と去る彼女に、恐怖していた。
その傍ら、恐る恐る隣を振り返る。
デスクに腰掛けたまま、まだフリーズして息を荒げていた。
なかなか体が動かない事に、苛立っている。
目に見えぬ拘束に強引に抗い、傍のラップトップに手を伸ばし、キーボードを数秒叩く。
その間まだ、息を必死に整えているのが窺えた。
その異常な姿に、ターシャは小さく後退る。
ドアの先にはシャルが居るだろう。
逃げ場が分からず、ただ彼から今は距離を取った。
「……そんな…選択は……どうでもいい…か……」
彼女は目を細め、先程の焼却というワードから想像する。
働かせるだけ働かせ、己の都合で廃棄するというのか。
「イかれてるだなんて…あんたが言える口!?」
ラップトップは音を立て、閉じられた。
彼は、鋭い流し目を彼女に向けて立ち上がる。
高く伸びた黒い者に体が跳ね、ターシャは更に後退る。
最初に対面した人間でなくなり、未だ何かに耐えながら、正気を半ば失っている。
視界が揺れているのか、接近し始める足取りは安定しない。
そこへ、黒い左手は徐々に彼女に伸びていく。
「嫌っ…寄らないでっ!寄るなっ!」
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




