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俯く目にかかる髪の隙間から、彼はターシャを睨め上げた。
向こうの空気や発言はすっかり、下らないものでしかない。
その、耳障りでワンパターンな正を、美を、ただ一生ブレる事無く貫いていろ。
知ろうとせずに生きていく事が、如何に恐ろしく、何を齎すか。
それを最期まで知る事無く、呑気に生きていろ。
そんな感情が、闇に佇む光の無い目に渦巻いていた。
レイシャはターシャから大きく目を逸らすと、間を置き、言った。
「相変わらず挙って同じやり方を繰り返し続けて、人からはみ出さないよう己を守って、そっちが気色悪いのよ。
ただ真似事をして、大した発見も進歩もしないまま、終わり。
刺激も、個性の欠片も無い」
再びターシャに激しく振り返った時、その目は彼女を虚仮にしていた。
「突出した、遥かに個性的な手を使う。
一線を越え、リスクに敢えて突っ込み、この目でその世界を確かめる。
恐れられるアクションを起こした先で、新たな可能性、思考、利益、策を生み、未来は開拓される。
実際にそうした偉人のデータを取り入れた上で、現代という世界は成立している。
そちらが煙たいあまり排除した人間が揃えたデータですらも、結局いつかは手に取る時が来るのではなくて?
そうして都合よく流れる時間は、人間が存在する限り途絶えやしない」
互いの距離が縮まり、鋭い声は一層、ターシャに寒気を齎す。
「我々が手掛けるのは、生々しい再生。
どこぞの埃を被った中身の無いプラスチックだのとは、違う。
アマンダ・マクレーンの細胞は、ここで再び生きてるのよ」
ターシャの皮膚は粟立ち、反射的に立ち上がっては後退る。
皮膚に似ていた物が、散らばったプラスチックであろう目が、箱から散乱した金属類が、ただ形成されているだけだろう。
それらで溢れかえる現場を、実際に通過してきた。
その一方、自分が遺体呼ばわりされていた事を、思い出す。
ロボットの間を切り抜ける中、生温い何かが足に触れた事もまた、過る。
先程の、理解不能な会話の中に紛れた、人体解剖や防腐処理という発言。
「嫌…嫌止めてっ!」
あの殺風景な家屋で、アマンダの肌にわざわざ保湿等をしていた事も、勝手に引き出される。
「そんなのっ…
そんなのあんた達が都合よく表現してるだけでしょ!?
生きてるって勝手に思い込む、自由過ぎる行為よ!
ここに、生きた人なんて居ない!
彼女は亡くなってる!それは変わらない!」
両耳を激しく塞ぎ、レイシャから数歩離れる。
“自分がここに居る事からお察しが付かないのね”
その言葉に混乱し始めた。
まさか、自分が機械にされると言うのか。
目が高速に泳ぐ。
「違う!組み合わせた作り物っ!
そうよっ!見てきたっ!
そうに決まってるっ!」
つい、叫んだ。
ただ悪戯に、パーツを組み合わせて作られているだけだ。
本物の人間だなんて、馬鹿げている。
「……静かにしろ…………」
低音は、気付けば間近で振動した。
真っ黒な彼の背格好と表情が、露わになる。
光を失った目で圧をかける背後には、ここよりも明るい部屋があった。
丸い大きな謎の籠に、ターシャの目は更に震えた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




