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目的地までは数十分。
ボートは時に、高々と飛沫を上げ沖を切り裂く。
重いエンジン音とその振動を全身に受けながら、漆黒の海上を照明も無しに切り抜ける。
気付かない内にレアールは髪の乱れを考慮し、アップスタイルに変わっていた。
目前に横たわる遺体を、細かな飛沫を浴びながら凝視する。
ビルは瞬きもせず、ただ進行方向を見据えている。
15分程経過した所で雑音が入った。
無線は、操縦席一帯にザラつく音を這わせ、切り出される。
“本部より搬送班、到着は”
まだ何も見えない遠くの一点を見据えたまま、手元のマイクを起動する。
「20分以内。ゼロ2体待機させろ。ゲートを言え」
“ビル!お前やっと簡潔に言えるようになったか!”
「ゲートを言え」
“何だよ!サウスだ―
言い終える最中でそれは絶たれ、彼は徐々に速度を上げ始めた。
強風は一層吹き付ける。
それでも、振動やカーブにほとんど姿勢はブレず、固定されている2体。
舞う飛沫が増しても、それが目に染みるなんて事は無い。
漆黒の空と海の忘れられた境目を露わにし始めたのは、灰色の土地。
その上には輪郭を闇に溶かし、宙で僅かに赤い点滅だけを浮かべる2基の塔。
迫り来るそれらは徐々に線を立て始め、その間に白いドットの光を灯す。
ボートが緩やかに左カーブを描いた。
サウスに向かって旋回すると共にレアールの背後で飛沫が高く上がる。
進行方向が変わるとより露わになった本拠地は、明確な表面を見せ、直進中に見えなかったもう2基が現れる。
その内の1基の高さは低い構造になっていた。
点々と散らばる照明に灯された、闇に浮かぶ4基の塔は、複数の指定の階から連絡橋が7本伸びている。
同3基を最上階で1周繋ぎ、最も低い1基の最上階から、その3基の中間フロアを4本が1周して連絡していた。
其々の橋の底からは小さな白光が点々と淡く灯り、夜はまるでその部分だけが宙に浮かんでいる様に美しい。
拠点の側面に沿って走っていたボートの速度が落ち、ゆっくりと右に曲がった時、真正面にSouth Gateと記された鉄扉の数メートル手前で停船する。
闇夜を颯爽と駆け抜けてきた2人の存在が、今ではゲートに設置された白と赤の照明に照らされ引き立っていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。