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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#06. Please wait 決定
69/189

[20]




 ターシャは突然の事態に悲鳴を上げ、体勢が崩れる。

そのまま震えながら、正面の2人の光景に目を奪われた。




 その後ろでは、レイシャが彼の豹変に驚きのあまり立ち竦んでいる。

目を見開き、小さく彼の名を呟いた。

そして、反射的に数歩前に出た時、ヘンリーと目が合う。

緩まっているその眼差しに、彼女は止まった。

乱れた精神状態でイーサンが放つ力は、ヘンリーでなければ抑制は困難だった。




 レイシャは両方の拳を震わせ、足元のターシャをジリジリと睨みつける。






 ヘンリーは、未だ発作で暴れる彼の耳元に近付き、静かにと言う様に、口から小さく息を漏らした。

抑える左腕にもう一度力が加わり始め、前のめりになる彼を背凭れに更に押さえ付ける。




「…ろっ…すっ…!」




冷や汗を流しながら、苦し紛れに囁いた。

その声にヘンリーは再び、今度は短く先程と同じ息を漏らす。

そのまま、彼の右脇へ回し込んでいた手で、体を叩き始めた。




それはまるで、秒針を刻む様に、体内へ程良い振動を届ける。

つい、何かと意識がそちらに向いてしまう力加減で、6回刻まれ、止まった。






 やや天井に向く姿勢で、黒い腕に抗えないまま、彼はどこか別の所に視線を向けていた。




 ターシャは眉を顰め、ただ、眺めていた。

初めて見る、恐ろしい光景だった。






 ヘンリーの手が止まった時には、酷く荒れていたイーサンの動きは治まり、肩で激しく息をするに留まった。

先程までの流暢さは失われ、別人の様である。




彼の視界はやっと安定し、ふと我に返るなり、己の失態に絶望する。

目を覆っては、何かを必死に呑み込む様に、沈黙し続けた。




 ヘンリーは、正面の壁と手元の彼に、視線を往復させるだけだった。

そして、彼の胴体に回していた腕を解くと、去り際にその左肩をそっと叩いた。




 ターシャは静かに、そのまま元の場所に戻るその男を目で追う。

彼女には理解できなかったが、端の椅子に佇む彼はもう、先程の様に話す事無く、今は顔を突っ伏し、震える手で髪を握っていた。




 そこへ後方から鼻で笑う声がし、肩を跳ね上げながら振り返る。




「ご立派な娘様に拍手よ。

人を発作に追い込む天才は実に逸材ねぇ。

お友達に伝えてみてはどうかしら?

あんたの為にこれだけ言ってやったと。

味方してもらえるかしらねぇ」



「黙ってっ…」



未だ恐ろしい光景が身に染み付いており、その一言を放つだけで精一杯だった。






「所で…

自分がここに居る事からお察しが付かないのね、ネズミちゃん。

安っぽい、薄っぺらい、陳腐な表現なんてしないで頂戴」



蔑んだ目を浮かべるレイシャの声に、ターシャは震えて振り返る。






 レイシャの目は痙攣し始め、小さく歯を鳴らした。

ターシャが映るそこには、黒い砂嵐が、ある記憶を象り始める。



「恐ろしいですって……」



 悲しみで溺れた真っ黒な過去が象られては、早々に亀裂が入る。

あの時、不意に送り付けられた“また会おう”に、血の気が引いた。

表舞台に立つ世界で誹謗中傷に耐えられず、友人は自殺した。

そんな、痛く、恨めしくてならない画は、不意に砕け散る。






 レイシャの拳は、更に震えた。

分かっていながらこの生き方を決断したにせよ、結局腹が立つ。

今でも大切に想っている筈の友人に向かって放つ、そいつの言葉に。

未だ理想に繋がる結果を齎せていない、現実に。

自分達だけが、異常な目で見られ続ける事に。




「……止めろ……今更……」




元の場所でヘンリーが、顔を伏せたまま、囁きに近いトーンで言葉を落とした。

怒りに全身を覆われかけていたレイシャもまた、彼の発言により徐々に抑えられていった。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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― 新着の感想 ―
[一言] ヘンリーは精神的抑制が得意なんだね。 必要以上でも以下でも無く、鎮静化する医者の様にも今は見えるけれど、 強制的範囲が強すぎる気がして、今はまだ好きになれないかな。 レイシャは信頼はあって…
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