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【Warning】
※尊厳死から発展する上層部の発言に
不快感を催す可能性があります。
3人は、ラップトップからの騒ぎに釘付けになっていた。
あのままではフロアが破壊されるだけと判断したヘンリーは、手元から停止命令を2体に飛ばした。
続けて、シャルに個別指令を出した。
レアールのアクションにイーサンが小さくせせら笑いながら、首を横に振る。
「何よ」
事態に凍り付いていたレイシャは、怪訝な顔で放つとデスクに戻り、溜め息をつく。
これが続くと厄介だが、初めての事でもある。
彼女は半ば諦め、ヘンリーを僅かに振り返った。
彼の様子は、横のイーサンとは真逆だった。
首を傾けたまま、Rの様に瞬きも忘れ、デスクに右手を付き、液晶にやや前のめりになっている。
首の位置がジリジリと戻り、それに合わせ目付きは鋭利になる。
そして姿勢はそのまま、ドアの向こうの廊下に耳を攲てた。
徐々に騒がしくなってくると、数秒してドアが激しく放たれる。
「ひゃあっ!」
ターシャは黒い床に放り投げられ、転がり、俯せになった。
補佐2人は肩を大きく竦め、床の彼女に目を剥く。
シャルは片手を腰に、静かにヘンリーの背を見つめ、判断を待つ。
部屋は一気に、荒い息遣いで籠る。
デスクにやや前屈みに右腕を預けていた彼は、その肩越しにゆっくり床の彼女に鋭い目を向けた。
奇々怪々な空気が漂う空間に投げ込まれたターシャは、僅かに首を上げ、床一帯を恐る恐る見渡す。
3人の足先を確認しては、正面に向き直り、徐々に顔を上げていく。
そこには、容姿の殆どが黒い男が立っていた。
傍で椅子が軋み、驚き振り返ると、別の黒い男が椅子に逆向きに腰かけ、背凭れに両腕を預けながらこちらを見下ろす。
「派手なお出ましね」
その声に肩を弾ませ、その男の反対側を振り返る。
黒い女は腕組みし、横目でこちらを見下していた。
「無事に連れて来た」
その声にヘンリーは鼻で呆れを放ち、床に落としていた鋭利な目をふと伏せ、音を立ててラップトップを閉じた。
逆光を受け、顔も不明慮な黒と化す者達。
ターシャは鳥肌を立て、恐々と再び正面に向く。
「………状況に苦しむか…」
低く、緩やかな声は、彼女の耳に滑り込もうと床を這った。
彼はそっと振り返り、空いたデスクスペースに腰かけ、足組みする。
「遷延性意識障害により治療、覚醒困難。
よってお前の親は尊厳死を下した。
馬鹿な手違いはあったが搬送対象となり、ここに居る…
………どうだ……クリアか……」
緩やかだった口調は突如ペースを変え、彼女は恐怖に目が震えた。
その言い終わりは、僅かに面白がってもいた。
顔は強張り、体を起こす力は一向に湧かない。
「尊厳…死……」
声を震わせ、小さく零した。
「親に死んでって言われたのよ」
横からの声に驚きの息が漏れ、両手で僅かに上体を上げる。
整理できず困惑し、目のやり場に戸惑った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




