[13]
フロアはまた、あの冷たい滑らかな床に変わる。
摩擦と共に背中から伝わる冷たさに、恐怖する。
エレベーターに引っ張り込まれた時だった。
歯を鳴らし、勢い付け上体を起こした。
足首を掴むシャルの右腕に掴みかかり、バランスを崩させようとする。
しかし、微動だにしない。
シャルは振り返りざまに、ターシャに掴まれた右腕を軽々引き寄せ、彼女の胸倉に掴み直し、一気に立ち上がらせる。
そのまま彼女の腹を両腕で掴んでは持ち上げ、右肩に容易く担いだ。
同時にエレベーターが止まり、扉が開く。
ターシャはシャルの体に両手足をバタつかせ、只管抵抗する。
しかし暴れる両足は、シャルの空いた左腕であっさり押さえ込まれ、固定された。
途方も無く固いホールドに、焦燥しながら突っ伏す。
そこへ、彼女は止まった。
状況が分からず周囲を見渡すと、そこは最初に目覚め、出て来た廊下。
後方から、ヒールの音が迫り来る。
振り返るには限界があり、事態を把握しきれない。
怖さに声が小さく漏れる。
「レアール。
シャルったら、ちっとも話しを聞かないの。
レスポンスも無い」
アマンダは、送り続けていた通信に応答しない彼女の異常を伝えた。
ターシャはその声に目を向け、眉を顰める。
妙でならない彼女の発言は、迫り来る音と共に止まる。
そして数秒、現れた相手と向き合っている様子を見せた。
突如、目の前でアマンダが薬剤器具をその場に置き、ターシャを見る。
「上で話す事になるわ、ターシャ。
もし帰るとなったら、教えてね。
また会いたいから」
彼女はエレベーターへ向かい始め、ターシャは肩の上で慌てる。
「ちょ…待っ…アマンダ!
あんたも来て!話すなら一緒がいい!」
上が何なのかは分からないが、人間が居るのだろうか。
ならば彼女を突き付け、説明させてやろう思って放ったその声に、アマンダは足を止める。
しかし
「何故、ターシャ・クローディア。
彼女がここに来る理由は無い」
背後から声は滑り込んだ。
やや高く、色気あるその声は、ヌルヌルと背筋を這った。
「下で待ってる、ターシャ。
私じゃ、決められない…
でもきっと、また会えるわよ」
そして、彼女に被さる様にレアールがターシャに回り込み、向き合った。
それについ、驚きの声を小さく溢す。
パブに消えた、美体系のあの女だった。
その向こうでは、エレベーターの開閉音が、静かに消える。
状況に苛立ち、ターシャは唇を噛んでは血相を変える。
「あんた達一体何!?
気色悪い変なものいっぱい見たのよ!?
バイオ何とかだなんて絶対嘘!
本当は何してるの!?
あの子は死んでしまって、もう居ない人なのに!
こんな事、おかしいでしょ!?
有り得ない!どうかしてる!
こんなの、気味悪いわ!」
怒りに声を震わせ、感情的に訴え続けた。
だがレアールは、片手を腰に、言い終わるまで待ってやるといった態度で、彼女を見据えていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




