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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#06. Please wait 決定
61/189

[12]




 タイプは滞っていた。

一向に増えないコードの列に対する苛立ちは、時に、舌打ちや溜め息に変わる。




それが堪らず、イーサンはつい離席し、スマートフォンを見る。

予定の来客が通過したと、ビルからの報告が届いていた。

一時この時化(しけ)た空間から逃れようと、ドアに向かった時、背後で大きな回転音がし、肩を竦め振り返る。






 新型System Real/Rayが眠る球体型鉄格子が、背面に転換した軋み音。




 複数に区切られた目標の内、7割域に達したあの日から、あまり進展していない。

それは試験起動をさせる数値だが、未だ何かを叩き込みたいのか、ここに眠っているままだ。





 作業に区切りを設ける案は、似た特性を持つ部下により提示されたものであり、レイシャがすぐに取り入れた。

 昔から、周囲が見えず、聞こえなくなる程極端に没頭するヘンリーは、突然疲労が襲う事はしょっちゅうだった。

体の方から限界を余儀なくされ、やっと体調の異変と向き合う。

区切りを設ける主な理由だった。




 レイシャが不在中のある日、監督が彼を訪れた所、操縦デスクで意識が飛んでおり、騒ぎになった事がある。

その件から至急、イーサンを昇格させたのだ。




 そんな彼はこの夜、今度はキーボードに突如倒れた。

補佐2人に慌てて起こされ、追い出される様に早上がりをさせられていた。

しかし結局、煩わしい報告で起こされている。

捗る訳がないのに、起きている以上は僅かであれ、着手するのだった。






 操縦席足元のペダルが踏まれた事で、方向転換した新型の背面が露わになる。

開いた皮膚から窺えるのは、背骨に似た金属骨格。




 右の縦型ハンドルの操作に合わせ、向かって右のアームが滑らかに胸椎の一部に触れ始める。

細い先端で、器用に噛み合わせを上下に解き、隙間を開く光景は、まるで椎間板をこじ開けている様だ。

ハンドルに付くクラッチレバーで、先端の動作速度を調整している。

アームはそのまま頸椎に上がり、指定した一部でまた、同じ動作が行われる。




左側の同ハンドルの操作で、反対側のアームが作動。

先端で薄いプレートを摘まんでは、解放した隙間に仕込んでいく。




 その後、再び同じ操作で骨組みは整えられる。




左ハンドルの傍に設置されているサイドスティックを握り、微妙に体の角度を変えた。

僅かに手前に倒すと、操作に合わせて手前に頭頂部が傾く。

骨格の納まりに異常は無い様だ。




両脇のアーム操作用縦型ハンドルはやがて、大きく奥に倒され、クラッチレバーの弾き音が2度、暗い部屋に響く。

作業にロックがかかると、ヘンリーはやっと機器から手を離し、両肘をデスクに付いては組んだ両手を額に当てた。






 今、この部屋は最悪の空気で覆われている。

レイシャの手もずっと止まっており、キーボードの横にはスマートフォンが投げ出された状態で佇んでいた。

イーサンは逃げる様にノブに手を掛けるが―




「…いつ着く………」




底を這う様な声がふと、空気を震わせた。




「15分くらい…かな」




 彼が返答すると、座席が軋んだ。

ヘンリーは疲労を最大に放出しながら、首や肩を回す。

そして重い腰を上げ、隣のデスクに開いていた黒のラップトップのエンターキーを押した。




 切り替わった画面は、カメラの映像を4分割で映す。

右下画面には中庭、シャルがターシャを引き摺りながら、アマンダと共に枠外へ消えた。

その左画面に、サウスのロビーで彼等がエレベーターを待ち始める姿が映る。

ターシャを連れて来る。

それに拘るシャルに目を細めた。




 その映像を覗きに、補佐2人が彼の脇にやって来る。



「どうするんです…?」



ヘンリーはいつの間にか口にしていたボトルを離し、顰め面を向けていた。

こいつがどうせ連れて来るだろう。

その妙な執着がどれ程のものか、単に見たかった様だ。

睨みつける表情のまま、端の彼等に気付かない程度に、彼は引き気味に小さく笑った。






まるで、気色の悪い奴だと言いた気に。






 俯いたまま、フラフラと方向転換する。

イーサンの肩に軽くぶつかっては、再び操縦席の前で止まる。正面の部屋に灯るスポットライトの光が、僅かに彼の顔を照らした。



「……見物…」



そしてまた、そこに眠るアンドロイドの背と向き合う。

手はふと、正面のキーボードに触れ始めた。

広がる大画面に表示されていた作業進捗から、別のデータへシフトする。

目の前のアンドロイドの遺体データが開かれると、またシフトした。

数回、データの往復が続く。

現れたターシャの遺体データと被る箇所に、彼は目を凝らし、小首を傾げた。









MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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