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空は僅かに明るくなっていた。
冷たく、素っ気ないそれを眺めながらのクルージングは、最悪だった。
急遽帰還命令を受けた、成り済まし任務中だった男。
ジェレクの運転に揺られながら、意味を全く成さない無味の気晴らしを喉に流し込み、溜め息をつく。
「なぁジェレク…速度落としてくれよ…」
「早く帰りてぇって言ってたじゃん」
事態を気にする素振りもなく、彼は悠々と部下を連れて運転していた。
話し過ぎる特徴は抑えられたのかどうかだが、少々別の特徴が入った様にも思える。
「ああだが近付くにつれ漏れなく別のもんも近付いてくんだよ!
いいだろちょっとくらい!」
「死ぬってんなら、遅かれ早かれ一緒じゃん」
コックピットの縁に右肘を乗せ、片手運転に切り替えて一点を見つめる。
「お前誰にプログラムされた!?
わざとだろ!最高にムカつくぜ!」
彼の硬い肩に掴みかかりながら言い放っては、フラフラと空笑いする。
そしてコックピットの背凭れに力無く手をかけては、ムカつくそのチビの背を叩き、無意味な八つ当たりをする。
「大体シャルもシャルだ……
あいつはいい、メンテすりゃ……
俺は終いだ…」
「変換すんなら保安官はありえねぇ。
てめぇは骨格製造専門Rだろうな。
金属パーツオタクなんだろう」
男は缶を握り潰し、力無くフロアに叩きつけ、呆れる。
「保安官勢は何でそうなんだ!?
俺等のRの方がセンスあんじゃねぇかよ絶対」
「俺達は俺達でセンスはある。
てめぇらが追求して手掛けんのは向こう向けの人間だろう。
比較する時点でちげぇ」
「お前なんかが向こう行ったら敵しかできねぇよ…
おちおち目も放せっか」
「言い掛かりはよせ。
相手と場所なら選ぶぜ。なめんじゃねぇ」
こいつが言う相手と場所とは何なのだ。
男は溜め息混じりに首を横に振る。
「混在実験はパスしてる。
犬は怖がって逃げてったが、婆さんには好かれた。
孫に似てるだなんだのと勝手に思い出語ってくれてたが、ああなりゃ誰でも孫に似て見えんのか。
だとすりゃ、偉く妙じゃん。
孫が俺のルックスに似てるってとこだけ取りゃあ、その孫は悪くねぇ。
ああ後ボールが飛んできやがったから、ベンチからバスケットにシュート決めてやった。
まぁまぁの歓声を頂いたぜ。
完璧じゃん」
「何がだ!
ああ、せめてレアールに来てもらいたかったぜ…
モデルの色気は大したもんだ…
少々遊んでみたかった…」
「バグか?
レアール・キャンベルは保安官だ。
遊びのプログラムはされてねぇ。
ガス抜きなら他に女が拠点にわんさかいんだろう。
パーツオタクは鋼鉄に欲情すんのか。
超異常じゃん」
気付けば足を組み、爪先を時折揺らすといった自然行為も見せる。
「てめぇはっ…!ああうるせぇ!
さっさと速度落とせ阿呆!」
「拒否だ。
ウィリアムズ補佐官が喚いてるぜ。
さっさとてめぇを連れて来いってな。
大方、横でトップの血が騒いでるって事じゃん」
男は何も放てないまま、深々と顔を突っ伏した。
ジェレクは足を下ろし、引っ掛けていた右手でシフトレバーを勢い付けて上げ、速度を早めた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




