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港町。
長く広い波止場に、仕事を終えた船舶が多く並ぶ。
深夜1時。
漆黒の海には漣が立っている。
肌寒い気温など、彼等には関係無かった。
沈黙漂う真っ暗な車内の助手席で、レアールが足を組む。
白い美脚がレザーコートの隙間から露わになった。
丈が短いレザースカートから伸びる色気に、隣の男は無関心を貫く。
どうやら博士は、嘗ての性格を彼にはあまりプログラムしていない様だ。
そんな独特な彼等は、上層部から与えられた任務を行う、本拠地の保安官である。
その為に必要な特別動作も組み込まれた、現時点においても十分と言って良い存在だ。
また後の最新型System Real/Ray、通称RealまたはRayの製作に向け、日々開発されたシステムやパーツを試験的に内臓され、実験を受けるモデルでもある。
ハンドルが次第に切られ、レアールは少々右に傾く。
サイドミラーに、長い睫毛を持つライトブラウンの瞳が映った。
街灯が後方に颯爽と延びては通過を繰り返す。
オレンジの灯は、車内の静寂な2体の顔を照らし続けた。
その肌は、まるで生きた人間を思わせる程に細胞の健康状態が保たれていた。
中身が金属骨格である事など微塵も思わせない容姿。
しかし、いざ会話をすればまだまだ人間らしくは無い。
ここまで広げられても未だ狭い限定的なプログラムの中での行動は、悉く無機質さを残し続けている。
正に課題を等身大に描いた型だ。
車は街を抜け、港付近のパーキングに到着。
誰も居ないそこに、大袈裟に開閉している訳でもないのにドアの音は響いた。
バックドアから担架が引き出され、閉まると同時に車は施錠音を上げる。
テールランプの一時の点滅がサングラスを赤く灯す。
前後のナンバープレートの差し替えも、ビルは秒で終えた。
車は後に、レイシャが別車庫へ移動する段取りだ。
波止場への坂道をスムーズに下る2体。
その先では、波に揺れて並ぶ数々の船舶。
それらの最も隅に停泊している、黒尽くめのスポーツジェットボートに着いた。
闇に身を溶け込ませながら、納体袋はビルに軽々持ち上げられる。
レアールは担架を手早く畳むと、後部に設置されているプラットフォームに飛び乗り、船内へ積み込んだ。
そして彼に両腕を伸ばすと、そこに投げ込まれた納体袋が綺麗に納まる。
そのまま、壁に沿って据えられた黒のロングシートに淡々とそれを横にさせた。
彼が乗り込むと、船体が揺れた。
係留ロープを素早く解くとその場に乱雑に投げられる。
照明も点けず視界が悪い等お構い無しに、コックピットに腰かけサングラスを外し、エンジンをかけた。
早い所では既に漁に出ようと準備し、起床してる者もいるだろう。
だからこそスピードが重要になる搬送作業。
今回も人目に付く事無く、彼等は波止場から徐々に離れ、船着き場内を旋回。
堤防とテトラ帯の隔たりの間に空く沖への出口に、ボートの進路は定まる。
エンジン馬力の高いスポーツボートの速度は僅か数秒で時速80kmまで上がり、その場を一気にずらかった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。