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異常な光景に身震いし、顔を覆っては指の隙間から釘付けになる。
女はミストを止め、手足や首、顔と、丁寧に肌を点検し始めた。
その後、テーブルを振り返り、提げていたケースを置くと、そこから黒い箱が取り出された。
それに目を凝らすと、注射器が光る。
小さな透明の別容器から透き通った液体が中に移されると、針管から少量漏れた。
女はそれを、彼女の細い両腕に打っては淡々と仕舞う。
次に白いボトル容器が取り出され、また両腕に数滴、液が落ちた。
まるで日焼け止めでも塗るかの様に、丁寧に首や顔、足にも延ばされていく。
一連の作業が終わったのか、器具類を全て片しては、その場を後にした。
1分程待った後、ターシャは静かに扉を開ける。
アマンダは既に服を着ており、ベッドに腰かけ、床に視線を落としていた。
その横顔もまた本人そのものであり、先程巡らせていた思考などどこかへ飛んでしまいそうになる。
彼女は気付き、ターシャを振り返った。
「何されたの!?」
バタバタと駆け寄り、顔や首、腕に触れていく。
「水分と油分の補給と、保湿剤の塗布。
常在菌って数や種類があって、合わさって平衡状態を保って、拮抗現象を起こすんだって。
それが崩れると、別の悪い菌が入った時に肌が傷んだり、感染症になりやすいとか。
ここ、良い化粧品があるのよ!
ターシャも使わせてもらう?
常在菌と一緒で、美肌菌っていうのも必要で、それを上手く保つものがあるの」
口をパクパクさせる事がやっとの状態である。
理科や科学なんかには殆ど興味を持った事は無かったが、皮膚を大事にしている事は分かった。
しかし何故、そんな事に気を遣う必要があるのか。
触れていた彼女の頬や首、手足をよく観察していく。
柔らかく、実に綺麗な肌である。
そこにはちゃんと骨も感じた。
目も光っており、潤っている様に見える。
瞳までもが、彼女そのものに見えてならない。
「……ねぇ…アマンダ…?」
貴方は、ロボットなの?
その一言が、尋ねられない。
おかしいと先程まで思っていた自分は、どこへ行ったのか。
今、また、こんなに目を奪われているのか。
信じられない事態に身を置いている事を、一時忘れさせる。
しかし我に返り、目を瞑り、首を振った。
これは違うのだ。
ターシャは、先程の自分の考えに意識を戻す。
「あんた…人じゃない…ね…?」
「ターシャ・クローディア」
突然の声掛けに一驚を上げ、飛び上がり、ターシャはアマンダについ激突してはベッドに激しく乗っかった。
壁に背と後頭部を強打したが、痛みもそっちのけに、呼吸は荒くなる。
先程の女が外から窓を開け、こちらを見据えていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




