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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#06. Please wait 決定
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[6]




 「そうねぇ…

帰るとなるとボートが要るんだけど、ここの誰かが一緒じゃなきゃそれはできない。

誰が出入りするにしても、目的は互いに確認し合う事が決まりだから、勝手に出たら怒られるだろうし、ターシャは運転できないから危ないわよ。

先にドクターと話した方がいいわ。

困ったら皆そうしてる」




ターシャはふと、テーブルの端に積まれた大量の冊子に気付いた。

咄嗟に1冊取り、目を走らせる。






 そこには今、彼女が放った研究所とやらの詳細だけに留まらず、理解不能な人体模型の様な絵と、恐らくその仕組みが横に記載されていた。

他にもまだ綴られている。

別の冊子の背表紙には、任務であったり、組織図、生活等と記されている物が積まれている。

それらに見入っている間にも、彼女の話は続いていた。




「後、私は向こうにはもう居ない事になってる。

父さんと母さんには会いたいけど、今の貴方みたいに驚くでしょうね。

それ以前に、向こう全体がまだまだ受け入れられないわよね。

だから帰る選択肢はまだ無いのよ。

この先もっと世界の考えが変わったら、帰れる可能性はあるのかもしれない。

だけど、今はまだその時じゃない」



「ああっ!」



ターシャは苛立ってテーブルを引っ叩き、声を上げ、遮った。

ここまでもアマンダは話しながら、時折目を伏せ、器用に手を弄り、両手を座面の縁について体や足を揺らしていた。

実に優雅で、自然過ぎる態度はどうしても違和感しか無い。



「ねぇずっと落ち着かないわね?

酷く緊張してる。横になる?」



ターシャを覗き込み、淡々と尋ねて来る。



「落ち着ける訳ないでしょうが!

何なの!?さっきの話!

そんな生物学みたいな事、詳しくなかったじゃない!

意味が分からないわ!

そして受け入れられない!?当たり前でしょ!?

でも、でもあんたは何でか生きてるって言って目の前に居るから、あたしは一緒に出たいって言ってるの!

だってこんな所、あんたの居場所じゃない!

そりゃ…帰ったらどうするかなんて……

そんな事帰りながら考えるわよ!

とにかく、違う!何もかも、違う!」




気が付くと立ち上がり、泣きながら訴えていた。

酷く疲れ、息が強烈に上がっている。

体から湯気が立ち込めているのではないかと、自分でも分かる程だった。




「大丈夫?座って、ターシャ。

疲れてしまってるじゃない。

でもここ、水が無いのよね。

パブで貰って来ようか」



彼女もまた立ち上がると、肩を上下させるターシャの手を取りながら言う。

家へ連れ込む際と違い、その握力は優しいものだった。




パブだなんてとんでもない。

ターシャは激しく首を横に振って否定しては、彼女の握る手にただ、痙攣する瞼を向けて呼吸をする。

酷い動悸を落ち着かせるのに集中する事しか、今はできなかった。






「確かに私は詳しくなかったわね。

国語とか美術の方が好きだった。

ターシャ、私はここに居ないと騒ぎになる。

未来に向けて、ここでデータを残す生き方をする。

その為に必要な知識を今得てるとこ」



その異様な発言は突如、喉を掻っ切る。

彼女は積み上がった残りの冊子に手を置き、柔らかく言い終えた。






 そんな動作や姿を見て、やっとターシャは真剣に意識し始める。

今になって気付いた。

彼女は瞬き1つしない。

また、声の抑揚はあっても、たまにどこか一本調子な部分もある。

それに一切、表情が変わっていない。

発言に対し、顔の表現が追い付いていない様子だ。




 不安で視界が更に潤み始める。

脳は勝手に、見てきた記憶を引き出し始めた。

だが、それらはどうしようもなく受け入れ難く、また首を激しく振る。

心拍は上がり、その音は背けようとする記憶を揺さぶり続ける。

そして再び、それは漏れだそうとするのだが、必死に頭を抱えて蓋をしてしまう。



結び付けられない。

いや、結び付けたくないのだ。

しかし、疑うべきである。

最悪な事を、これから疑わねばならない。






 そしてとうとう、異常な疑いが生まれた。

その内容は、怖くて堪らない。

とは言えその恐怖と彼女から、目を背ける訳にはいかない。



「ねぇアマンダ……あんた………」






 恐々と震えながら尋ねようとした時、アマンダがふと外を向いた。

それに咄嗟にターシャも振り返る。

遠くから小さな人影が浮かび上がり、近付いて来るではないか。

恐怖のあまり、大きく椅子の音を立てて後退る。



「どうしたの?」



「隠れる!

私が居るって言わないでよ!絶対よ!」



慌てて辺りを見渡す。

身を隠せる所はベッドの下か、先程まで居た外しか無い。

それだけここには、身を隠せそうな場所は無かった。

ターシャは咄嗟の判断で、再び外へ飛び出し、そっと扉を閉めた。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




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