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「専門医?研究員?」
あの時、不意に宙に消し飛び、赤く染まり果てたその姿。
しかし、今そこに居るのは間違いなく彼女である。
まるで人形を思わせる可愛らしい容姿は、どういう訳かそのままで、恐ろしく美しい。
「アっ…アマっ……!?」
どうして居るの。
それ1つ聞くにも、顎が酷く震え、発声を妨げる。
「アマンダ」
軽やかで、フレンドリーな名乗りにまた、一驚を上げる。
「あ、待って、その顔…その髪…友達かしら?」
彼女はそっとしゃがみ、ターシャを数秒凝視すると、肩を指先で触れた。
堪らずその手を払い、鉄柵に力を込め必死に立ち上がるも、崩れる。
不意にその脇を支えられてしまった流れで、聢と目が合った。
ダークブラウンの親友の目が、そこにある。そして―
「ターシャ!
髪が伸びてるけど、その目と顔付き、そうね。
入って!」
彼女は部分的に、声を高く放った。
そして手を差し出すのだが、下半身が言う事を効かない。
いつまでも立ち上がらないターシャの手を軽々掴んでは、大きく手前に引いた。
その力は普通よりも強く、若干痛い。
また、冷たい。
「は、はなっ…放してっ…放してっ!」
処理できない状況に震撼は止まらない。
この事態に藻掻き続け、いつまでも動かないターシャを、アマンダは軽々膝から抱き上げた。
「ひゃああっ!」
恐怖に慌てふためくが、またしても軽やかな足取りで彼女は、出て来たちっぽけな家へターシャを連れ込んだ。
柔らかな光を灯すその家は、荒々しく息を立てる彼女を、悉く奇妙に、優しく誘った。
「そんな報告なんかできる訳ないでしょうが殺されるわよっ!」
ターシャの確認を疎かにした女研究員が、震える声で叫んだ。
脇では、彼女を追いかけていた女研究員が、己の作業スペースに突っ伏していた。
連絡橋で足を崩した所、他の研究員が駆け付け、ここに連れられている。
ただ一言、今は放っておけとレイシャから告げられ、一方的に通話が切られた。
前代未聞の異常事態に、部下達は戸惑っている。
「死亡判断が付いてなかったってんなら、あいつが何かしら処分を受ける。
お前は大丈夫だろ」
ぬけぬけと発する男研究員が、安置室での確認を怠った彼女に向けて放った。
「この馬鹿!他人事!?
大体私はコード修正をしてたのよ!?
それをわざわざ中断して、搬送後確認を変わってやった挙句、備品補充までさせられて!
こんなはずじゃなかったでしょうが!
そもそも誰がすべきだったってのよ!?」
その鬼の形相は、元々その動きの担当であった彼に激しく向く。
しかし彼は、悪かったと肩を竦めながらせせら笑った。
「だが、とか言うお前も結局、碌に確認しなかったんだろ?」
彼女は血相を変え、デスクのペン立てやファイルを怒りに任せ激しく薙ぎ倒した。
デスクに拳を叩きつける音に、嘆きが混じる。
「なぁ…シャルは判断できなかったって事か…?」
荒げる呼吸だけが、空間を震わせた。
研究員達の表情は曇る。
「いくらあいつがしくじったって、Rは死亡判断が出来る…
だがあいつは、気付かなかった…
月次点検はつい最近だぞ……」
時系列を遡りながら男は困惑の渦に巻き込まれる。
月次チェックの対応をしたのは彼だ。
己が招いた最悪のミスなのか。
その手は次第に震え、顔面は蒼白になる。
「もう起きちまった……判断を待て……」
監督はしかし、険しい表情に溜め息を付く。
その後、淀む空気はしばらくして散り散りになった。
そこには、突っ伏す彼女と、焦燥を滾らせる彼女。
そして本来、安置室での確認担当であった彼の、3人だけとなった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




