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「こんな時間に偉く懸命だな。
俺の娘と目鼻立ちが似てる。
仕事がよく出来るんだろうが無理するなよ。
そう言う人間は、大抵助けてと言わない。
それに端が気付いた時には、手遅れになってたりもする。
本音や話は、我がの為に適度に誰かに聞いてもらう事だ。
あの子は上手くやれてるかなぁ」
「あの、違うんです!」
これでは、掃除の女性と同じ流れになってしまう気がした。
「あたしは関係者じゃない。
だからここから出たいの!」
男は数秒、ターシャを見てから両手を腰にやる。
穴が開く程彼女を見つめては、首を傾げる。
「ああ分かった。
通りで顔を知らない訳か。
研究資料の受け取りなら、一旦船着き場で待ってろ。
来客は、そう言う規則だ」
何故、その様な返答になるのだろうか。
出会う人との受け答えが、上手く成立しない。
先程の微生物の採取とやらは、何を意味するのか。
ターシャは恐怖に後退る。
目前の彼は結局、踵を返し、家の中へ姿を消してしまった。
立ち尽くす中それを見届けては、その場を一気に駆けた。
敷地の縁に沿って走り続けていると、疲労が突如、足を止めた。
こんな孤島から出る手段は限られている。
このままでは、どこに居ようと見つかる。
気持ちが急き始めると、自然としゃがみ込む。
来客や船着き場と言っていた。
そこに行けば、外部との接点が取れるだろうか。
分からず、またも不安が込み上げた。
ついそこの鉄柵に手を預け、顔を突っ伏す。
「助けてっ…」
遺体、ゾンビ、猿。
一体全体、何故そう呼ばれるのか。
この通り生きているにも関わらず、そうある事に動揺されてしまう世界。
大量の気持ち悪いロボットに、金属の手足に大量の目玉、妙な粉末に異臭、溢れる分裂した人間のリアルなパーツ。
その映像が堪らず不快で、胃から苦い物が僅かに上がり、海に吐き出した。
黒過ぎるそこに歪む、自分の顔。
洟も涙も、次第に溢れ出た。
過る両親、そしてアマンダ。
どうしようもなく会いたい衝動に、心臓は捥がれそうになり、激痛の声が零れた時だった―
「誰?」
「きゃあっ!」
声と同時に叫び、振り返る。
瞬時、その身は凍てつき硬直した。
こんな夜に、そのボルドーのパーティードレスは酷く映えた。
揺れるウェーブがかったココナッツブラウンの長髪。
背は同じくらいの、まるで人形の様に可愛い。
「はっ…はぁっ!?」
ターシャは鉄柵に激しく背を叩きつけては、腰を抜かす。
開いたままの口から零れる唾液も構わず、呼吸を荒げ、瞼は完全に失った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




