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「新型でしょ?」
「Rだ」
「は!?」
極めて淡白な返答につい声を上げ、咄嗟に口を噤む。
逃げる様にエレベーターに乗り込むと、クローズボタンを乱暴に連打した。
「センサー反応は1度切りだ。複数押したところで効果はない」
「分かってる。そこじゃない。
何で新型じゃないの。彼は何て?何?誰か変換予定?」
「System Rebirth及びSystem Real/Ray製作スタッフを、
トップとレイシャ補佐官の他にもう1人立ち上げる為に、
この遺体で試験をする」
レアールが少々高いセクシーな声で、淡々と説明した。
「ああ…そう……」
間も無く自分の通過幅を認識したビルが先行する。
担架の幅を認識したタイミングでそれに続くレアール。
レイシャは半ば飽き飽きしながらも納得していた。
アンドロイド製作に本格的に当たる事ができるのは、拠点のトップである博士とレイシャのみ。
その彼女が現在、拠点外に居る事が向こうにとってどれ程ハードな状況なのか。
そんな事は派遣される前から明確だった。
取り入れる予定の新技術は整っていても、未だ着手する気が湧かないのは、AIの未熟さに引っ掛かっているのだろう。
不可能と言われている心、空気を察知する能力の反映。
生きた人間にとってすら無限の課題に値する項目に、今も尚、時間と労力を費やし奮励努力している。
彼等は、何としてでも可能にしたい。
レイシャは顔を顰め、俯きながら重たい息を吐いた。
組織が最終的に目指すのは、人間と呼んで然るべきアンドロイドの誕生。
聞こえこそ普通で、極めて有り触れている。
だが彼等が意味するそれは、進化を兼ねた復活であり、再生だ。
その為に段階を追って、やっと使いこなせるまでに至ったのがSystem Rebirth、通称R。
今目の前に居る彼等と、拠点に残るもう2体だ。
この型の量産を叶えるのにも、かなりの時間を要した。
新型も、いくらRの派生モデルとは言え、そう容易には進まないだろう。
さっさと持ち場に復帰して高性能AI技術開発の続きをしたい。
この派遣中に得た人間のデータといい、AIそのものの資料といい、揃えられる新しい情報は十分入手できた。
後は持ち帰ってトップを奮い立たせるのみ。
遺体を乗せた担架は、ビルにより開け放たれたバックドアから収められる。
「ご苦労様。気を付けて」
「誰に言ってる」
背中で零しながら運転席にビルが乗り込んだ。
レイシャは足早にその真横へ移動し、窓ガラスを指で叩いた。
エンジン音が鳴り、目が合う程度に開いたそこから彼女を見る。
サングラスの向こうで細められたダークブラウンの瞳が、車内灯の光を僅かに受けて光った。
「さっさとそっちに帰らせて。
後ビル、あんたのそういう所、修正してもらいなさい。
って事、彼に言っておいて」
「女が付かないからか」
「あら気にしてるの?ならまだ望みはあるわねっ―
言い切ると同時に車は発進され少々仰け反った。
車はあっさり街の暗闇に消える。
時刻を見ると10分も経過していない。
束の間であれ、仲間との密会はやはり心地良い。
後は一時的に止めたカメラの映像確認を終えれば、宿直のフリはここまでだ。
さっさと帰宅し、新型開発に向けての思考を巡らせようと、颯爽とその場を去った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。