表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#05. Error 誤搬送
49/189

[21]




 その手前の女に、元造形師の男が悪戯に笑った。

彼女の露出した腕にそっと、余りのダミー材料で造ったあるパーツを這わせ、揶揄い始める。




「!?ぎゃああああ!」




その叫声は猿に近い。

酔っているからこそ余計に、それは周囲の耳を激しく劈く勢いだ。



「るっせぇな!お前は声がデカイ!

大袈裟過ぎだ!」



「そんなもん見せられたら当然でしょうが!

何作ってんの!さっさと仕舞ってっ!」



見せられた生々しくできたそれを、見慣れている男達は平然と笑い、冗談交じりの暴言が飛ぶ。

一方女達は呆れ、目を逸らし失笑するだけだった。






「そんなリアル過ぎるもんばっか作ってるから、除け者にされんのよ」



「ここではお役に立ってる。

見る目が無かったのは向こうさんだ。

お前さんもここに居るって事は、似たり寄ったりだろ」



今度は苦さが特徴的なネグローニを片手に鼻で笑った。






「移動式公衆トイレからの成り上がりよ。

向こうで死ぬよりここで役に立って死ぬ、その方がまだ生きた心地がする。

全ての痛みを払拭できる訳では無いにせよ、向こうにいるより断然回復したわ。

私が居る前では、それ、出さないでよね。

うんざりなのよ」



要らぬ思い出に蓋をする様に瞼を閉じ、ホワイトルシアンが彼女の口に触れた。

別に、医学や科学等といった専門知識は皆無だった彼女は、体内に多くの傷を負った者である。

その横で彼は目を丸くさせ、肩を竦めて小さく笑った。






 何かが抜きん出ているからと言って、必ずしも評価をされ、受け入れてもらえるという訳では無かった様だ。

居場所や人を点々としては、上手くいかず失敗をしてきた。

どこかで認めてもらいたかっただけなのだが、それが、向こうと呼ばれるこの拠点外の世界で、どうして見つけられなかったのか。

それは、自分達には忍耐力や適応力が無い、ただの我が儘な人間だという事なのか。

彼等はふとそんな事を考え、酷く痛かった日々を思い出しては急に、静かに、どこか遠くを見た。




挿絵(By みてみん)




― 必要の無いもんなんて…本当は無い………

  本当は…だ…………

 ただ…それを何処に置くかだ…… ―






 この場所もまた、リスクしかない。

しかし、それでも良かったのは、ここでは役割があり、先がある。




負った傷を癒せ、また笑える。

ここでだけは、笑っていていいのだ。




そして、誰もくれる事の無かった言葉をくれ、居場所をくれた彼の傍に、居たくなった。

同じく、心身を壊される痛みを知る、1人の人間として。






 レアールは胸に掛かる髪を取っては数秒、毛先を見て手放す。

その後ふと、ジャズ音だけになっていた空間に滑り込んだ。



「声がデカイ件について、来る際に小耳に挟んだ事がある」



部下達は彼女に目を向けた。



「以前は酷く眠れなかった。

あの女は、最中でも声がデカイ。

そこには何の色気も無く、ただ只管に雄叫びを上げるヒヒだ、と」



瞬時、哄笑が渦巻いた。



対象の女はそれに大層怒り、血相を変え、話題の声量を鋭く上げ始める。



「失せなレアール!何なの補佐官!

最低なコードね!」



「女でありながら、雄叫びを上げる。

嗜みの欠片も無いという事を、報告してあげたのよ」



対照的な色気を持つアンドロイドに馬鹿にされ、爆笑の渦が巻き起こる。

冷酷な表情のまま彼女はそっと踵を返すと、ドアの向こうの闇に消えた。

小刻みに鳴るドアベルもまた、その場の騒音にあっという間に呑まれてしまった。










MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ