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数十人と住み着く拠点の憩いの場も、博士から設置許可が下りた。
渋々だったそれは大方、酒なんて部屋でもカフェでも飲めるのに、といった所か。
居場所が限定されているからこそ、部下達は別の娯楽スペースが欲しくなった様だ。
元々空き倉庫だった所を、大工のRと手分けして改造した。
しかし、出来上がったものの、誰も彼と酌み交わした事は無かった。
濃い電球色が仄暗く灯るパブ。
木彫のテーブルとカウンターが設置され、数々のアルコールが壁に並ぶ。
低めの音量で合間を縫う軽やかなジャズは途端、各スマートフォンに飛び込んだ緊急連絡の反応に掻き消される。
「遺体脱走!?」
部下に拡散された情報は、補佐官からだった。
「な?あいつは性格的に向いてねぇって。
ハリス様もしくじったな。
あの骨格オタクには、大人しくパーツの量産させてりゃよかったんだ。
俺の勝ち」
勝手に賭けの対象にされていた成り済まし中の仲間。
負けた連中は渋々デジタルマネーを送信している。
「ここらに居んの?指示無いけど、探すべきじゃ?」
「放っとけ。出れっこねぇ、そう書いてある。
保安官が連れてくさ」
ウィスキーのロックを片手に、男はノートパソコンと睨み合っている。
「バイオ実験の餌にすりゃいい。
それか治験モニターか!懐かしいぜ」
臨床開発モニターの経験も兼ねたバイオテクノロジー研究に長けた男は、呑気にスクリュードライバーを流し込んでいる。
「こうなる意味が分かんないわね。
死亡判断どうしたのよ。もしやダミーに下した?」
冷えたモヒートを口にしながら、女は言った。
「まさか見越した事が実際に起こるとはな。
手ぇ抜かなくて良かった」
隣でキーボードを叩き続けながら言う男は、この拠点で唯一のハッカーであり、酒に溺れる事も知らずそれをやってのける優れ者。
どうも賭けに勝利した男の口座を覗く実験中か。
「誰が仕切って作ってると思ってる。
余裕で通過だ」
直に飲み切るウォッカトニックを片手に、元造形師の男が悠々と放った。
「トップ、流石にキレるんじゃない」
「キレるなら補佐官だろう。
トップは想像つかねぇ。
こないだのボヤでも、壊すなよって一言だけだったんだろ。
まぁ顔はおっかなかったらしいがな!
Rayの施術の時に会ったけどすげぇぜ。
パーツ位置も瞼の仕込みも1発で合わせんだ。
前日の顔面データ見るだけでだぞ。
理由聞いたらただ一言、計算。
これで声が聞けたのは3回目だ!」
ハッカーの男は博士に非常に興味があるらしく、機会があれば無理にでも接する様だ。
そこへレアールが入店した。
彼女はメンテが完了した男のRを率いると、その場が一斉に歓喜の声で埋もれた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




