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数台の洗濯機が設置されており、1台のドライヤーが作動中だった。
完了するまで残り5分の赤表示が出ている。
周囲を再度見渡し、忍び足で入る。
温かい扉の中には、数枚の衣類が回っている。
何でもいい、まともな格好をしたい。
そんな気持ちが高ぶり、一時停止のボタンを即刻押した。
開くと、またもや幸運が目に飛び込む。
女性用の衣類だ。
小さく感嘆が漏れると、手早く引っ張り出しては床に広げる。
スポーツ系の下着に白の半袖シャツに黒のジーンズ。
「最高っ!」
つい声が漏れ、巻いていた布を解いては着替え始める。
ただ服を身に纏っただけなのに精神が一気に整い、深々と息を吐いた。
しかし、まだ終わっていない。
姿勢を低く、その部屋を後にする。
誰かが住み着いているとなると、並ぶ扉から人が突然出てきてもおかしくない。
1つ1つの扉に意識を集中させては、廊下を進み続ける。
まずは建屋から出なければと、階段扉を探していく。
代わり映えのない廊下を、忍び足でまるで泥棒の如く進む。
「……泥棒…?」
不意に止まり、その格好を眺め、顔を顰る。
実に不本意な行動は一層不快感を増すと、強い嘆息に変わった。
困惑する最中、再び視線を周囲にやる。
そこで目に付いたのは、木彫のデザインをしたエレベーターだった。
横の壁を辿ると、茶色い扉がある。
そこへ忍び足で駆け寄ると、周囲を確認してからノブをそっと引く。
僅かに立つ軋み音に細心の注意を払いながら、身幅だけを開けて進んだ。
そこはまたもや真っ暗で、照明は一切点いていない。
しかし、先程の女性以外誰にも遭遇せず、他に人の気配が無い現在の空間は平穏をくれた。
息遣いが空間を振動させ、ペタペタと素足の湿った音も混じる。
手摺りを握る手には、汗が滲んだままだ。
視界が慣れてきた頃、下りながらふと上を向く。
2Fの表示に目が止まると、より安堵した。
もう直ぐ地上だと知ると、足が速くなった。
正面に同じ扉が見えた時、聞き耳を立て、そっと開く。
先程通過してきた廊下と似た造りの空間が広がり、点々と電球色の光が差し込んでは、大理石にぼんやり反射している。
会社やホテルのロビーを思わせるここが、益々何なのか理解に苦しむ。
何か、インテリアやオブジェがある訳でもなく、身を隠す術が微塵も無い。
不安が高まる。
遺体だの猿だのと罵倒されながら追われた。
捕まれば何をされるか、考えるだけで恐怖に息を呑む。
一刻も早く外に出て、誰かに連絡しよう。
そう心積もりすると、身を屈め、出口を探す。
意外にもあっさり発見したそこは、ガラス張りの2枚扉。
よく見る玄関で、会社を思わせる。
息を殺し、空間に何の気配も無い事を再認識すると、駆けた。
大きく衝突しては重いそれを押し、飛び出す。
直ぐ傍に植木があり、咄嗟にその影に身を隠した。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




